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Jカード

作者: 悠介

 初の短編ギャンブル小説です。カードゲームなので、メモを取って読むと判りやすいと思います。

 では、どうぞ御楽しみ下さい。

 私達の事務所――いや、仕事部屋と呼ぶ方が妥当だろう――は、3階に存在した。作家を目指す私と、すでにテレビの企画立案その他と言う職を持っている友人との共同部屋である。男だけと言う事も在って、蒸さ苦しい部屋だ。努力して出来るだけ見晴らしの良い所を選んだのだが、最近はこの襤褸ビルの周りに高層ビルが次々と立ち並び、私達の事務所は完全に埋没した形に為ってしまった。この事務所は大通りからやや離れた所に在り、その御蔭で賃料も安かった。だが、何時崩壊しても可笑しくない、築50年程のビルである。いや、笑い事ではない。

 ところで、私達の事務所で時々行なわれるギャンブルが、【Jカード】である。これは私達2人の食事を、コンビニエンスストアで購入して来る役を決定するのに良く用いられる。先ず、グー2枚、チョキ2枚、パー2枚のカードを二組用意し、それぞれプレーヤーに分ける。つまり、1人6枚である。そして相手と共に「ジャン」と発声し、「ケン」と発声後、「ポン」の発声で両者共に、相手に見えない様に1枚のカードを場に出す。両者がどちら共出し終わったら、自分のカードを捲り、表を相手に見せる。そして、誰もが知っているジャンケンのルールに従い、グーはチョキに勝利するが、パーには負ける。パーはグーには勝利するが、チョキには負ける。チョキはパーには勝利するが、グーには負ける。つまり、カードジャンケンと言う訳である。これが、私と友人が考案したギャンブルだ。これまで5戦行なったが、私が2敗3勝、友人が3敗2勝である。


 夏の蒸し暑い日の事。私も友人も腹が減っていたので、その言葉は同時だった。

「「Jカードしようぜ」」私は事務所の奥に向かい、カードのセットが入ったアタッシュケースを持って来た。友人は、此方をにやにやと笑いながら見ていた。アタッシュケースを開ける。最近Jカードをやっていないのでアタッシュケースは埃を被っていたが、中のカードは綺麗だった。

 ゲームはスタートした。

 私は先ず相手のカードを睨み、自分のカードを見詰めた。そして、1戦目で出すカードを決めた。

「良いか?」と友人が訊いた。私は、「良いとも」と返した。「じゃあ行くぞ、せ~のッッ」

「「ジャン!!」」 「「ケン!!」」 「「ポン!!」」私は最後の掛け声と共に、カードを持った拳を、場に振り下ろした。

 ――結果は、私がグー、友人がパーだった。つまり、友人の勝利だ。

「おし!!」と、友人の威勢の良い声が、事務所内に響いた。だが、カードは後5枚残っている。それに、今のでカードは1枚ずつ減った訳だし、推理がし易く為るだろう。勝負は未だ未だこれからである。

 2戦目。これは勝ち取って置きたい……。その時、友人が言った。

「ああ、マジで暑っちいな……」その言葉と同時に、友人のカードに汗が落ちるのを、私は見逃さなかった。友人もそれに気付き、慌てて拭き取った。だが、私は気付いた。カードの裏側にも、汗が付いているのだ。友人はそれに気付いていない様だ。私は、これはしめたと思った。友人は汗が付いているカードは何かを知っているが、そのカードの裏側に汗が付いているのは知らない。私は友人のカードの裏側に汗が付いているのを知っているが、そのカードは何かは知らないのだ。今の状態で友人がそのカードを出せば、友人は汗に気付きそれで御終いだ。が、それまでに私がそのカードは何かを見極めれば、完璧に私が有利な形に為る。私は、そのカードを見極めるのに専念する事にした。

 友人は、余り考えずに直感で出すタイプ。だからカードを見極めるのは難しい。だが、私は知っている。友人が出し易いのは、チョキ。これは、拳を使用する通常のジャンケンを行なった時に気付いた事だ。此処で汗が付いたカードは必然的に、グーかパーかに限定される。何故なら友人は、次に出すカードを思案している時に、見ていたカードに汗を垂らしたのだ。友人は、先程記述した様に、余り考えずに直感で出すタイプ。そんな彼が珍しく思案している時に、1番出し易いチョキを見ていたとは、如何も考え難いのだ。後は、グーかパーかを見極めるだけだ。だが友人は、もう次に出すカードを決めた様で、私を急かしている。仕方在るまい、私は、汗のカードを見極めるのは、後にする事にした。此処は本当に勝ち取って置きたいのだ。私は友人に訊ねた。

「御前、次何出す?」友人は答えた。「……じゃあパーで」

 作戦成功。友人の出すカードはグーに確定した。何故なら、友人は1戦目でパーを1枚使った。つまり今友人が持っているパーは1枚。だが1枚しか無いカードは、矢張り残して置きたいだろう。つまり、友人が出すカードはグーかチョキ。パーだと嘘を吐いて私にチョキを出させ、グーで勝利すると言う単純な作戦だろう。だがそうは行かない。此処は絶対に私が取るのだ。私はパーを出す事に決定した。

「「ジャン!!」」 「「ケン!!」」 「「ポン!!」」私は懇親の力で、パーのカードを場に叩き付けた……結果は。

 私がパー、友人がグー。私の勝利である。これで、勝負は判らなく為って来た。

 今、友人の持ち札と私の持ち札は、全く同じである。全てアイコにして延長戦に持ち込む手も在るが……私のプライドが、そんな事を許す訳が無い。それに、私と友人は腹が減っているのだ。早くコンビニ弁当を食べる為、出来るだけ早く決着を着けなければいけない。

 3戦目。これはパーとチョキで、友人が取った。厳しい状況だ。勝てるだろうか?

 4戦目に突入した。「「ジャン!!」」 「「ケン!!」」ポン、で私と友人は出し、チョキとチョキでアイコに為った。ここまで、私が1点、友人が2点だ。

 5戦目である。これで勝負が決まると言っても良い。今の私の持ち札は、グーとチョキ。恐らく相手の持ち札は、グーとパー。汗の付いたカードは、未だ残っていた。此処で私がチョキ、友人がパーを出せば、延長戦に持ち込めるが、私がチョキ、友人がグーを出した場合、3点差を付けられてジ・エンドだ。此処に掛かっている。私は、友人の汗の付いたカードは何なのかを、見極める事にした。

 先ず私の考えは、最も単純な、『友人の2番目に出し易いカードは何か』に辿り着いた。もし2番目に出し易いカードがグーだった場合、汗のカードはパー。もしパーだった場合は、汗のカードはグーである。だが、友人の2番目に出し易いのが何なのか、全く思い出せなかった。如何する、私。落ち着け……。その後も私のちっぽけな頭脳を廻らせたが、さっぱり判らなかった。もう、次友人が出すのが、パーである事を祈るのみである。

「良いか?」と友人が訊いた。私はカードを睨みながら、「掛かって来い」と言った。

 これで終わりだ!!!

「「ジャン!!」」 「「ケン!!」」 「「ポン!!」」

 次の瞬間、勝負は決まった……。


 午後2時。私は友人に頼まれた超特盛カップ焼き蕎麦と、自分のコンビニ弁当を買って、コンビニを出た。空は相変わらず綺麗な青一色で、太陽が輝いていた。

 私は負けたのだ。

 あの時、私はチョキ、友人はグーを出した。延長戦に持ち込む事も無く、私は呆気無く敗北したのだった。

 私は溜め息を吐き、事務所へ向かって歩き出した。

 だが、コンビニ弁当が美味しかったのが、せめて物救いだった。             【了】

 近々ギャンブル小説を連載致しますので、其方も宜しく御願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 安定した文章 [気になる点] 緊張感に欠ける展開 [一言] メモを取りながら読んでみました。 主人公側は四戦目の時点で一か八かでもグーを出して勝ちを拾わなければ、ほぼ確実に負けでした。一回…
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