6話 十二時三十分
通話が終わった後、持った携帯用メールボックスを両手で持ち直し握り潰す
ビタロ、いくら何でも無計画すぎるぞ
彼はこのウォールアイ『内』で通信した
何気なく送ったつもりだろうが、とんだ事をしてくれた
踏みつけ粉状になるまで、かかとで回す
今壊したのは焼き殺した本屋の店主が所持していたメールボックス
朝どこのニュースもそろって殺害された話題で持ち切り
報道されたって事は発見者が現れたのだろう
…ここまで作戦通りだ
証拠となるような、指紋や髪の毛は残していない、臭いさえも
永久に自分を探せない、そしてあの殺害には意味がある
トリカジは絶対この事を知り、何かしらの行動を起こしてくれる、という望みだ
もしかしたら、もしかしたらに過ぎない事だが
本屋の店主の携帯型メールボックスから、トリカジが連絡をすると予測し、回収していた
彼からこの三日間、連絡は一度もなかった、自分から掛けたが通じない
結局無駄に終わってしまった、いや最悪な展開になったと訂正しよう
『トリカジだっけ?発見したから、やったら報酬六割いただくんで』
この通信が漏れたら…軍は大騒ぎになるだろう
危機を感じ、トリカジに警備がつく、そうなればこの任務は達成できなくなる
まとめるとこういう事だ
ビタロがトリカジを殺すとアウト
トリカジがこの通信を見たらアウト
誰かがこの通信を見てもアウト
何しようが、どう転んでも最悪のシナリオ
老人の信頼を失い、それだけで済む問題だろうか
自分の死じゃ償いきれない代償、国が関わっている巨大な任務
ミーバイ「ここでしくじる訳には行かない」
自分は一から、小さな村から今を考える
ビタロがこの連絡先を、そして自分が持っていると分かったのだろうか
小さな村、小さなバス停にビタロは居たとしてその後はどうしたんだ?
「探り出しウォールアイの情報を吐き出させる」を「殺す」と誤解し
自分よりも早くウォールアイに向かった?その可能性はある
ミーバイ「違う…最初から、共に居た」
自分より早く、ウォールアイへ入国出来る筈ない
見たに違いない彼はメールボックスを回収したのを、一緒だったからそれが分かるのだ
その後は単独行動なりしてトリカジを先に発見、現在に至る
急ぐ必要はないと思ったが撤回する、大至急トリカジを、ビタロを見つけなくては
昼を過ぎた大通りは、歩いたほうがいいって思うほど混雑している
地下鉄他、移動手段が沢山あるのに何でそこを利用しないんだコイツら
最高にイラつくのに、後ろの車がクラクションをならしてやがる
俺はこいつに問いたい
分かるよその気持ち俺だって同じさ、休日でもないのにどうして混んでいるんだよってね
急いでいるんだろ?実は俺も、トラックの荷物を届けないといけない
仕事なんでね、終わらないと金が出ないのさ
その行動は非常によく分かったから黙ってろぶん殴るぞ
俺と同じにさせるために左足をへし折ってやろうか
トリカジ「どうなんだ、おい」
返事はブーッとクラクションで返ってきた、流石に我慢の限界だ
運転席を開けようと手にかけたその時
公共ロボットが近づいてきた、俺はドアをやめ窓を開ける
ロボット「こんにちはトリカジ様、時刻は十二時三十分です」
それを言いたいために俺にわざわざ来たのかポンコツ野郎
そんな事ぜってえ言えねえ
だってこのロボットの目から軍関係者が監視しているからだ
言語は元々あるデーターから抽出し、それを組み立てて話す構造だ
しかし、不法侵入者がいないかどうか十つ目のカメラから外の様子を監視している
このウォールアイに入国する際、ゲートでパスポートなり身分証明書を見せないと入れない
公共ロボットの人工知能には、今日からいままでの入国者や住民を全て刻まれている
今もこうして誰かが入国している時も、オンラインで送られて記録する仕組みだ
そしてそのデーターから該当しない人物はロボットによって処罰される
軍で作られたロボットだが俺はよく知らない、別にこの開発に携わっているわけじゃねえ
だがみた事はある、ロボットが処罰する一部始終をな
あいつはマジで恐ろしい、人間がかなう相手じゃない程の人外の力を持ってやがる
コイツを戦場に送って活躍させた方がいいんじゃ?と誰かが言っていた気がするが
もしも敵国にバラされ、ロボットの情報を奪われる事になったらヤバいって事で
中々戦闘用としてのロボット開発は思うようにいかないって聞いたぜ
ロボット「この先の道路は五時間待ちでございます」
トリカジ「げ、マジかよ信じらんねえ」
ロボット「トリカジ様の通行進路によっては、短縮できる道路を私はお教えする事が可能です」
トリカジ「しゃーねー、そうすっか」
俺は目的地をポンコツ野郎から差し出された記入欄を入力した
ロボットは記入欄を読み取り、最短ルートを検索する
ロボット「3つ目信号で右折した道路からいけば渋滞を回避し、到着可能です」
トリカジ「サンキュー、そして進路を詳しく教えて欲しいんだが」
ロボット「料金をお支払い下さい」
何ともまあ現金な野郎だ、人の弱みに付け込むのは人として最低だぜ
コイツは人じゃないけどな、そうだなロボットとして最低だ
金を払い、地図を受け取る
簡潔化され、進路が線引きされたウォールアイ国ウォールアイ都市A地区の地図が出てきた
ロボット「おつかれさまでした、トリカジ様」
そう言い残し、くるりと向きを変え俺から去っていった、俺は後ろから中指を立てる
トリカジ「お前なんか大っ嫌いだバーカ!」
やっと前が動き出し俺はアクセルを踏む
吹き飛んだのが左足で良かった、運転だとアクセルやブレーキに右足を使うからな
もっともその左足があったら、俺はこんなトラックなんて運転していないが
今も軍人として活躍していただろうか、それとも死んだだろか
もしかしたらこの足がなくなったのは幸福な事と言える
俺はそうは思わねえ、一生この偽足と向き合って生きる人生を想像すると恐ろしくなる
トリカジ「うーむ、こりゃ参ったぜ」
帰りの往復を考えると今日中に仕事が終わらなさそうだ
宿に泊まる金なんて無いし、車内で一日暮らすのは勘弁したい
野宿は論外だ、軍人時代にやったからこそ嫌だと分かる
ふと昔の事が頭によぎる…スクール時代の親友
トリカジ「駄目元で頼んでみるか」