5話 無計画ビタロ
ウォールアイ国、ウォールアイ都市の中で最も豊かなA地区
若者が溢れ経済の中心的存在であり、道路だって片側20車線もある
一夜で大金が手に入るのも不思議ではない程の活況ぶりだ
そして、誰に聞いてもウォールアイと聞けば
ここを思い浮かべる程の存在的立場
運転手「この街じゃ見ない顔だね乗っていくかい?」
そのためか、陽気な人間が多く声をかけられる人が多い
自分を旅行者と思ったのだろう
軽自動車の見知らぬ彼女が話しかけてきた
ミーバイ「ありがとう」
遠慮なく乗車し、数キロ先の目的地を伝える
運転者「おいおいタクシーじゃないぞ
ま、私はお人よしだからね別にいいんだけどさ」
どことなく上から目線な女は呆れながら走らせる
歪んで見えるほどどこまでも続く道路
横断信号が青に切り替わる瞬間
急ブレーキでトランクの荷物が崩れるように動く
運転手「ごめん、ちょっとよそ見しちゃって」
ミーバイ「いいです、気にしないで」
運転手「貴方あんまり喋らないね」
返答せず自分は雨跡がついた窓から景色を観望する
もしかすると今、標的トリカジがいるかもしれない
歩道はビル陰が日差しを遮り、黒山の人々が歩いている中
軍が開発した公共ロボットが横断歩道を渡っている
自分はそれを見つめ、運転手に目線を返る
短髪で腰にはナイフが装着している
軍服こそつけてないが彼女は恐らく軍関係者だ
運転手「何見ているわけ?」
ミーバイ「いえ特に、ただあのロボットはと」
気付かれただろうか、話題を変え誤魔化す
運転手「はは観光客には珍しいよねーアレ」
自分は知っている、あの恐ろしいロボットを
見た目は型番が嵌め込まれており
人間より小さく腰位の高さしかない
宙に浮いていて10個の目を持ち
例えるならそう、手がはえたUFO
道に迷った時はナビゲートしてくれたり
他にも案内、受付、情報提供等などの役割を持っている
しかし、その為に作られた訳ではない
本当の目的は警備用だ
ウォールアイ国に入国する際、敵国の人間と判断され次第
公共用のロボットによって猶予なしに処罰される
スパイが偽装入国しても、発見され次第
時速110キロで何処までも追跡し逃げれない
小型なのは機動性を上昇させる為である
だが、もし気付かれて襲われたとし
無傷は無理でも対処できる力が自分にはある
厄介なのはその先だ、破壊したと同時に
ウォールアイから永遠にマークされるだろう
そんな事は仕事上絶対にやってはいけない行為
運転手「困った時にはアイツに尋ねるのがいいよ」
ミーバイ「そうですか」
運転手「なんたって軍の自信作だからね」
運転手は元気で自信満々に言う
カーラジオから昼の時間を伝えるCMが流れた
数分は過ぎただろうか
彼女は軍関係者の可能性がある
何か知っているかもしれない
ミーバイ「ところで…」
運転手「なーに?」
ふと考える
ここでトリカジの名前を出すべきだろうか
彼女は知っていて教えてくれる可能性はある
しかし、不審に思い自分の身元を聞かれたら?
聞かれなくても去った後
自分を何者か調べられたとしたら?
辞めたとは言え、軍人の情報は他人に教えるものだろうか
自分は詳しくはないがあり得ないだろう
しくじると腰のナイフで脅してくる事も考えられる
もし軍関係者じゃないとしても
トリカジなんて変な名前の男なんぞ知らないだろう
リスクが高すぎる、急ぐ必要はない
ミーバイ「名前を聞いても、いいでしょうか」
そうだ彼女の名前だけは聞いておいても損は無い筈
運転手「いーよいーよお礼なんて」
軽く断られた、当然か
彼女はラジオの音を下げ、車を停車させた
目的地に到着したと彼女は合図を出す
ミーバイ「ありがとうございます」
運転手「そんじゃ」
車から降りた後遠く過ぎ去ったのを確認する
ここはさっきの都会とは離れにあり
A地区でもっとも殺風景な場所かも知れない
そうは言っても空中には戦闘機が飛んでいて
この殺風景の場所にウォールアイ軍の本部が存在する
自分は考える
この金網を越え、無断で侵入するとどうなるだろう
ロボットが来て処罰されるか
それとも、見張りがいて注意程度で終わるのか
もっとも興味があるだけでそんな愚かな事は絶対にしない
「どこかの旅行企画でクルーズに乗り巨大な氷山をみたら普通
『綺麗!』だの『凄い!』と言うが
お前は『あれにぶつかったら死ぬな』って思うタイプだろ」
と仲間にからかわれた事がるのを思い出す
変わり者の、そういう性分なんだろうか
そんな考えをしていると携帯用メールボックスに受信音
嫌な予感がする
その予感は的中した
「トリカジだっけ?発見したから、やったら報酬六割いただくんで」
あり得ない
金網に指を絡めじっとその文章を眺める
あり得ない筈だ
誰にも教えていない極秘の使命なのに
何故分かる、一体何時からだ!
仲間にこの事は一切伝えていない
唯一依頼人にあう小さな村でしか伝えていない
ミーバイ「まさか」
一体何時から、そうじゃない違う
恐らく最初から居て、全て聞いていたのだ
あの小さな村の小さなバス亭の場所で
熱反応は老人しか感じなかった
だが彼なら知っている、この自分の体を
迂闊だった、それ応答の熱断熱等対策をしたのだろう
そして彼はウォールアイに侵入可能な技を持っている
嘘ではなく本当に見つけたのだろう
ミーバイ「駄目だ電源切っている」
獲物を独り占めする魂胆のつもりか
彼は完全に依頼を理解していない
トリカジを殺すつもりだ
それだけは止めないといけない
苛立ちと共に後悔する、何故組織は彼を加入させたんだ
能力で買われたが、明らかに仕事に向いていない
急いで別の仲間に電話をする
ミーバイ「自分だミーバイだ、ビタロはどこに居るか分かるか!」
仲間「しらねえよアイツいっつも無計画だし」
そう、ビタロは頭が弱い