4話 足があった日
灰色の空、さっきまで突き抜けるような蒼穹だったのに
両手で天へ持ち上げた大剣を下ろす
この動作は、正直疲れる
ならこうした方が良いんじゃないか、じゃあこうしよう
今では同じような動作でも楽になり、前へと進む
83611号「頼むぜ90567号、切り込み隊長!」
軍番号90567号、そう呼ばれている
誰もが覚えられる訳がないので
軍服にプレートがつけられて本名ではなく番号でお互いを呼び合う
そして気がつけば切り込み隊長の一員になっていやがった
ほぼ敵の的、いつ死んでもいい状況
俺はそんな、殺されるなんて考えはこれっぽっちも感じない
国のために命は惜しくないと思う人は少なくはない
俺も少なからずその気持ちは持っているが、愛国心で死の恐怖がないのとは断然違う
はっきりと言おう、一番は評価をあげて大金を稼ぐ事・・・これが全てだ
クズみてーな考えだが金がとても、沢山欲しかった
俺みたいな単細胞は誰よりも活躍するためこうするしか方法が思いつかねえ
だから大剣を振るう、草原を蹴散らしながら前へ進む
生死にかかわる大怪我は何度もした
だが戦争に影響する怪我は一度もした事が無い
あの時までは
そう、小さな村だった
…
『火傷を負った遺体が発見されました、死亡推定時刻は三日前の夜・・・』
…
胸糞悪い朝から目覚めた時、最初に聞いた言葉
名前も公表され前のバイトの店主だと分かった
トリカジ「ふあぁ~謝金取りって怖ええなぁ」
普通丸焼きにするだろうか、裏の世界ってこうも容赦ないのか
だが同情はしない、失業保険貰えなかったしな
金欠になろうと絶対他人から借りねえ、信じられるのは自分だけだ
メールボックスの件から疑心暗鬼である
トリカジ「あの野郎、よくもよくもクソッ」
壁を殴るのを片手でつかみ必死に押さえる
特定するのは簡単だ、逆探知したらいいんだ・・・それは出来ない
何故なら、メールボックスが粉々だからである、深呼吸し頭を横に振るってため息を吐く
トリカジ「今思えば冷静になれば良かったんだ」
後々の事を考えないのはいつもだが、これほど悔しいのは初めてである
トリカジ「覚えていろよ、あの野郎!」
軽食を済ませ、TVを消す、今日はグータラ過ごしてきた日々と違う、重要な日
昨日、すぐそばにある徒歩五分程度の職安に行ったときの話である
行儀の悪い受付と小汚い格好をした失業者達、いつもの光景だ
ここに来るのは二回目だが、ここは底辺の集りの縮図だと実感をする
掲示板に急募の募集があった、絶対条件は体力に自信がある方
トリカジ「これだ」
一発即決、なんの仕事かは書いていないのが怪しさマンマンだぜ
自慢じゃないが人並み以上の体力はある、条件さえ合っていればどうでもいい
面倒な事は受付が全部済ませ、そして今日結果が出る
面接官「はい、次の方どうぞ」
トリカジ「あはい」
面接官「よし!今日からよろしく!」
一発合格した
まだ名前すら言っていない見た目でOKサイン、これほどうまく人生が進んでいいのだろうか
仕事はトラックで荷物を運ぶ、つまり運び屋、よほど人手が足りなかったのだろう
面接官「これをウォールアイ都市A地区に届けて」
トリカジ「分かりやした~」
気軽く答えたのはいいが面接終わってすぐ仕事なのか、なんだか怪しい臭いがする会社だ
まずどうしたらいいんだ、「これ」と渡された荷物は何十個もある
それにA地区はこんな所と天地の差があるような金持ちが住む地区だぜ
なんでこんな肥溜めみたいな運び屋にA地区の人間が依頼したんだ
まあ、予算をケチって安いのを探したらここを発見したんだろう
トリカジ「結構重いな、時間がかかるぜこりゃよお」
何段と詰まれた荷物を一個ずつ持ち上げコンテナへと運ぶ
支えとなるような足は偽足で、通常時より負担がでかい
それを見た面接官が言い忘れていたような、そんな一言を言った
面接官「今日中じゃなくてもいいが、給料貰えるのが遅くなるだけだから」
届け先を確信すると往復距離を考えて、仕事初日から今日中に届けるには難儀だぜ
どーせすぐ戻ってきたら、またどっかの届け先に飛ばされるのがオチだ
これじゃあ過労死してしまう・・・あ、だから絶対条件は体力に自信がある方なのか
とりあえず今は金だ、全て忘れて今をやろう