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1話 義足の元軍人

やや不慣れな動きをしながら、階段を上がる

誰がみてもおんぼろな、築30年くらいの4階建てアパートに男は住んでいた


今度住む家はせめてエレベーター付きの奴に住みたいぜ


そんな愚痴をグダグダと呟きながら部屋の鍵を開ける

日が傾きかけた頃合のせいか光のない部屋は

真っ暗で窓から一筋の光が刺す

リビングにメールボックスが届いているのだろうか、黄色く点滅している

俺は玄関前の電気スイッチに手を伸ばした…が距離が足りないせいか届かない

なんだか電気スイッチをつけるのが面倒な気分になったので

そのまま暗い廊下を進んでリビングの部屋だけ電気をつけた

深いため息をつき、男は左足を擦った

唯一の稼ぎ所である戦場に二度と行けないのだ

この左足のせいで

ふとメールボックスの存在に気付き、受信ボタンを押す


「よおー残念だったねぇ90567号

あ、軍番号はやめよっか、トリカジさん

だってもう辞めちゃったもんね」


声に聞き覚えのある奴だった、誰だったかは思い出せない


「聞いた話によるとどっかのバイトをやっているって?

たった一本の足が吹き飛んだだけで

軍人から一気に転落するなんて恐ろしい世の中だよ

今度その自慢の義足みせてくれよな、そんじゃ」


戦えなくなったあの日たくさんの同情が届いたが

三ヶ月たった今、忘れ去られた過去の人間のように

誰からも郵便が届かなくなっていた

もっとも俺の交友関係が少ないせいもあるだろうが

そして今、始めて自分は見知らぬ人間に馬鹿にされたのだ

散々だった日々が積み重なってかトリカジは怒りを抑えられなかった

壁を殴ろうかと思ったがこんなボロアパート殴ると

苦情がくるので怒りの矛先が分からず

メールボックスを睨み付け息を荒くしていた。


トリカジ「この野郎、許さん!絶対に許さん!」


「…言い忘れていたけど勿論このためだけに

わざわざトリカジさんに送ってきたわけじゃないよ」


見知らぬ馬鹿にしてきた人間の内容が

終わっていたと思っていたトリカジは思わず吃驚し仰け反った


「罵倒したけど実は私トリカジさんの事尊敬しているんだよね

どんな状況でも最前列にいてピンチを切り抜けてきてさ

大げさかもしれないけど、トリカジさんのお陰で

この街も広くなったしそこそこの地位が出来た気がするんだよね」


確かに自分は敵に特攻し、いつ死んでもおかしくないような

状況にあった・・・がそれは評価を上げるために過ぎなかった事である

自分は頭が格段に良いわけで無いし技術も特別あったわけではない

ただ出来る事は、戦場で戦うことだけ、それだけなのだ


「それでさぁまた戻ってこない?」


え、戻れるの?


「戻れるといってもその体じゃ限られるけどね

ただトリカジさんは戦闘技術優秀な部類だしさ

義足も特化したら戦えるようにも出来るかもよ」


義足であることを隠して人通りの少ない書物書店で

アルバイトをしているがなにぶん退屈である

本が年代順にずれていないかの確認、在庫整理

客が来ないカウンターの番

そして何より不満なのが給料が最低賃金より下って事だ

戦場で評価をあげたら大金を貰えるとは大違いの環境で

あんまりの違いに俺は左の義足を擦って耐えてきた

こんなボロアパートに居るのも、前の家が維持出来ずやむを得ない判断である

トリカジは戻れるなら今すぐ戻りたかった


「なぁんて嘘だよ」


トリカジ「よし!…ん?」


一瞬何を言ったのか理解できなかった

聞き間違えかと思ったが、見知らぬ相手が考える猶予を与えず希望を壊していく


「そんな都合の言い訳ないじゃないか

ごめんねぇトリカジさん、本当にごめん

ただ元気かなってそれだけで送っただけだよ

用はただの安否確認だよ物騒な世の中だからね

今度こそ、そんじゃ」


受信が切れた音

つまり本当にこれで内容が終わった事を意味する

戻れるなんて救いは無かった

暫く呆然としていたが、徐々に内から熱いものが込み上げて

あまりに我慢出来ず、メールボックスを殴った

大きな音が響き破片がバラバラに地面落下した


トリカジ「ちくしょおおおお!」




隣から苦情がきた

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