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魔道具メーカーの転生企画部長は、今日も普通のことしか言わない

作者: 宮田花壇
掲載日:2026/10/09

約3千字。サクッと読めるコメディーです。

 私は前世で、日本の会社員だった。


 別に社長だったわけでも、敏腕コンサルだったわけでもない。


 ごく普通に働いて、買い物をして、新商品を見れば「便利そう」と思ったり、「高っ、誰が買うの?」と思ったりする。


 どこにでもいる普通のOL。


 そんな私が死んで、異世界に転生した。


 この世界には魔法がある。


 そして魔法を使った道具――魔道具が、前世でいう家電や日用品のように売られている。


 縁あって私も、その魔道具を作る会社に就職した。


 そこまではいい。


 問題は、それからだった。


「来月から、商品企画部長をお願いしたい」


 ある日突然、そんな辞令が下りた。


 なぜ私が?


 答えは簡単だった。


 本社が、女性幹部の比率を上げたかったからである。


 以上。


 実績を見込まれたわけでも、隠された才能を見抜かれたわけでもない。


 なんとも世知辛い理由だったが、給料は上がる。


 なので引き受けた。


 そして迎えた、部長として最初の商品企画会議。


「部長、まずはこちらをご覧ください!」


 最初に出てきたのは、銀縁の眼鏡だった。


「透視眼鏡です。壁の向こうまで見通せます!」


 木の壁なら二枚先まで。


 布地のような薄手のものなら、もっと簡単だという。


「ということは、服も?」


「もちろんです!」


 胸を張る担当者を見ながら、私は少し考えた。


 服まで透ける。


 つまり、本人の許可など関係なく、見えてしまう。


「じゃあ、お風呂も着替えも見放題ですね」


「…………」


 担当者の口が止まった。


 そういうことだ。


 便利かどうか以前に、誰でも買える商品として出したらどうなるか。


 覗き。

 窃盗の下見。

 建物の中を探ることだってできる。


 悪用されたあとで「使った人が悪いです」は、さすがに通らない。


「一般販売はなしです」


「……はい」


「ただし、技術として目を見張るものがあるのは事実です。救助隊なら倒壊した建物の中を探せる。警備でも使える。まずは有効な使用者と用途をリストアップしてみてください」


 私は付け加える。


「あとはその上で、製品化する前に免許制を導入するなどの対応ができるかなど、お役所へのヒアリングもしてみましょう」


 担当者は眼鏡を見下ろし、それから頷いた。


「な、なるほど……承知いたしました」


「では次、お願いします」



 二つ目は、小さな薬瓶だった。


「小人化薬です! 飲めば身体を十分の一まで縮められます!」


 狭い場所へ入れる。

 遺跡の隙間にも潜れる。

 なお、元に戻る用の薬も同時に開発済みだという。


 担当者の説明を聞きながら、私は瓶を指先で転がした。


 十分の一。


 数字だけ聞けば便利そうだ。


 でも、人間が十分の一になるということは、周囲が十倍になるのと同じでもある。


「側溝に落ちたら、自力で上がれます?」


「え?」


「猫や鳥に襲われた場合は?」


「……そこまでは」


「万が一、元に戻る薬を落としてしまったら?」


 今度こそ、担当者は完全に黙った。


 小さくなれる。


 それだけなら夢がある。


 でも商品にするなら、その先まで考えないといけない。


「一般向けは難しいですね。事故が起きたときの危険が大きすぎます」


「では、これは……」


「とはいえ、これも需要がないわけではありません。遺跡調査とか、設備の内部点検とか。あると便利な仕事もあるでしょう」


 私は薬瓶を机に戻した。


「ですので使用時の安全装備と、薬を失っても必ず元へ戻れる仕組み。その二つを軸に問題点をクリアできたら、もう一度再提出してください」


「は、はい!」



 三つ目は鍋だった。


「この鍋は火を使わず、魔力だけで湯を沸かせます!」


 なるほど。


 確かに便利ではある。


「価格は?」


 見せられた数字に、思わず目が止まった。


 普通の鍋の八倍。


 お湯を沸かす。


 その目的だけなら、世の中にはすでに安い鍋と薪がある。


 新しいというだけでは、客は財布を開かない。


「家庭向けで売る予定ですか?」


「はい。火を使わないので、とても便利です!」


「便利なのは分かります。でも、普通の家庭なら火を使えますよね」


「……はい」


「今ある鍋で困っていない人に、八倍の値段を払って買い替えてもらうには理由が弱いです」


 これでもしスープやシチューまでが湧き出てくるなら、話はまた変わってくるが。


「さ、さすがにそれは……」


「ですよね」


 担当者の顔が曇った。


 でも、火を使わない。


 それ自体はしっかりとした強みである。


 となると、あとは使う場所さえ変えれば。


「鉱山はどうです?」


「鉱山?」


「船倉でもいいです。火事が致命傷になる場所なら、火を使わないこと自体にお金を払う価値があります」


 担当者が、はっと顔を上げた。


「家庭用品ではなく、安全設備として売る。そっちで採算を出し直してください」


「はい! 直ちに!」



 四つ目は、真っ白なドレスだった。


「絶対に汚れません!」


 試しにワインを垂らす。


 赤い雫は布に染み込まず、そのまま床へ落ちた。


 これは素直にすごい。


 ただ。


 私はドレスを上から下まで眺めた。


 肩は妙に大きい。

 胴回りは太い。

 裾も重そうだ。


「これ、着たいです?」


「え?」


「あなたが女性だったとして、夜会などへ出向く際に」


 担当者も改めてドレスを見る。


 少し間があった。


「……性能は、とても高いです」


「それは承知しています」


 思わず苦笑した。


 性能が高いのと、欲しいと思うのは別の話だ。


「服は、汚れないだけじゃ売れません。店で見た瞬間に、まずはパッと着たいと思ってもらわないと」


 生地を摘まむ。


「ですが、この布はすごくいいです。服飾のデザイナーを入れてください。性能はそのまま。見た目だけ、ちゃんと商品にしましょう」


「すぐに手配します」



 そして最後。


 五人目の担当者だけは、妙に自信がなさそうだった。


「私の案は、その……かなり地味でして」


 机に置かれたのは、小さな筒だった。


「濡れた髪に向けると、一瞬で乾きます」


 私は顔を上げた。


「一瞬で?」


「はい」


 価格を見る。


 安い。


 量産も難しくないらしい。


 毎日使う。

 何度も使う。


 しかも、面倒を一つ丸ごと消してくれる。


 前世で風呂上がりにドライヤーを持ちながら、何度「もう勝手に乾いてくれ」と思ったことか。


「採用で」


「えっ?」


 担当者が目を丸くする。


「いいんですか? その、さっきまでの物みたいに派手では……」


「派手じゃなくていいんです」


 私は企画書をもう一度見た。


「安く作れる。使う人が多い。しかも一回買って終わりじゃなく、毎日のように使う」


 これなら分かりやすい。


「これならば、欲しい人、かなりいますよ。すぐ商品化を進めてください」


「あ……はい! ありがとうございます、部長!」


 部長……か。


 私はちゃんと管理職をできているのだろうか。やっていること自体は、前世でテレビのCMを見ながらしてたダメだしレベルな気がしないでもないけど。



 しかし、それから数か月後。


 私が部長になって以来、会社が出す新商品は以前より減った。


 けれども売れ残りは減り。

 返品も減り。

 開発費の無駄も減った。


 その一方。


 例の透視眼鏡は救助隊や警備会社へ。

 小人化薬は、遺跡調査や特殊設備の点検業者へ。

 自動湯沸かし鍋は、鉱山や船舶から注文が入った。

 汚れないドレスも、デザインを変えてから売れ始めた。


 そして髪を乾かす魔道具は、大ヒットした。


 新商品の数と種類は減ったのに、会社の利益は過去最高を記録した。


「商品企画部、最近ハズレが減ったよな」


「あの女部長が来てからだろ」


「女性幹部を増やすためのアピール人事だったって聞いたけど」


「理由はどうでもいいだろ。結果出してるんだから」


 そんな話を耳にすることも増えた。


 でも、私としては大したことをしているつもりはない。


 商品なら、誰が買うのかを考える。

 危なければ、そのまま売らない。

 高ければ、その値段でも買う理由がある相手を探す。

 見た目が悪ければ、直す。


 ただ、それだけである。


「部長! 次の商品です!」


 今日も企画書が一枚、机に置かれた。


「空飛ぶ絨毯……最高速度、時速百二十キロ?」


「はい! 画期的でしょう!」


 確かに画期的ではある。


 私は企画書をもう一枚めくった。


「安全装置は?」


「…………」


「落ちた場合は?」


「…………」


 担当者の視線が、ゆっくり泳ぐ。


「それらを詰めてから、もう一度持ってきてください」


「……はい」


 企画書が、そっと引っ込められた。


 私は次の書類を手に取った。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

もし少しでも皆様の暇つぶしになったようでしたら、


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