俺は婚約者である侯爵令嬢を断罪--しません!だって彼女を信じているから
学園の卒業式を明日に控えた生徒会執行部室に俺はいた。
次々と公爵令嬢であるクラウディアのよくない報告があがってくる。
リリアーナを影でいじめ倒した…というような内容はまだかわいいもので、隣国の密使とやり取りをするなど不穏な動きを見せているとの報告もある。
「これが事実であれば、とても見逃せるものではないな…」
王国騎士団長の息子であるミハエルが顔を顰める。
背の高い屈強ないかにも武人と言った風貌の男だ。
学園の制服は似合っていない。
「ああ、これは国家を揺るがしかねない事案だ」
そう相槌を打ったのは宮廷魔術師の息子であるローウェンだ。
こちらも俺より背が高いが、魔術を得意としているくせに細マッチョな体格をしている。
「そんなことになったら大変ですぅ」
リリアーナの気に抜けた言葉に力が抜ける。
信じがたいことに淡いピンク色の髪をしている。
人好きのする笑顔は愛嬌があって、とてもよいと思うが、毎回語尾を伸ばす癖のある話し方をする。
だが、彼女はみなのアイドルだ。
なぜ、そんなことになっているのかは自分でもわからない。
俺の意思とは無関係に事が運んでいくのだ。
リリアーナのような、会話をしていてイラっとするような女のどこがいいのかわからないが、何故か俺含め、みなチヤホヤしてしまうのだ。まるで、逆らえない何か大きな力が働いているように。
「どうするのだ、フェルディナンド?」
「そうだな…」
「何を迷うことがある?例え、侯爵令嬢でお前の婚約者だったとしても到底許されることではない!」
ミハイルが机を力の限り叩き付けた。
きゃっと言ってリリアーナが小さく飛び上がる。
「わかっている、ミハイル。この国の王太子として何もせずに見過ごすつもりはない」
意思に反して、そんな言葉が出た。
俺はクラウディアを信じている。ここに上がっている報告は全て間違いで誰かの陰謀ではないか?俺自身はそう考えているのだ。何故、意に反して、思っている事と違う言葉を発してしまうのか…。
「リリアーナはどう思う?」
「私はフェルディナンド殿下の御心のままに行動すればいいと思いますぅ」
ミハイルの言葉に気の抜けた返事をするリリアーナ。
みなは、この報告書がおかしいと思っていないのか?
あの頭のいいクラウディアがこんな誰が見ても怪しいことを堂々とやっていると本気で思っているのだろうか?
俺はそんな思いを抱えて、みなを観察しているつもりだったが、何故か自分に言い聞かせるように頷いていた。何か大きな強制力に操られているかのようだ。
「だが、そう簡単にはいくまい」
「どういうことだ?」
ローウェンの知的な慎重論に脳まで筋肉に侵されたミハイルが疑問を投げかける。
「相手は侯爵令嬢だ」
「そんなことはわかっている!」
「本当にわかっているのか?軍事的な影響も、政治的な影響も無視はできないエーデルシュタイン侯爵家を相手にすることになるのだ。生半可な証拠をそろえたところでもみ消されてしまうだろう。そうなれば、こちらの根拠のない言いがかりとして、逆に追及されることになる」
ローウェンの言葉にミハイルも黙ってしまう。
「大丈夫だと思うのですぅ。聖女の力に目覚めた私に協会が味方してくれると思うのですぅ」
殿下の御心のままに、と言っていたくせにリリアーナが方針を決めにかかっている。
リリアーナの言葉に、なぜか全員が頷く。
その光景は、常識では説明できないほど不自然だった。
たしかに教会の後ろ盾があれば、話は変わってくるだろう。
だが、問題はそれではない。
俺の意思とは別に話が進んでいることだ。俺はクラウディアを追及したり、断罪しようなどとは思っていない。
信じているのだ、クラウディアを。
むしろ、これは教会の陰謀なのではないのか?
王家と軍事、政治ともに影響力のある侯爵家とを仲たがいさせようとしているのではないか?
そんな疑惑が浮かび上がってもおかしくない状況に誰も疑問に思わないのか?
みんなの言動が、どこか芝居じみている。
まるで“決められた台本”を読んでいるような、そんな不気味な感覚が胸をよぎった。
「みなの言いたいことはわかった。
俺はクラウディアの罪を追及し、そして、断罪する!」
意思に反して、俺はそう言い放った。
みなの満足そうな笑みが記憶に残っている。
俺だけが、この奇妙な違和感をはっきりと感じていた。
まるで、この世界の外側から見ているような感覚だ。
そして、卒業式の日を迎えた。
講堂には、貴族含め、卒業生、その親族、他国からの来賓客も訪れている。
一同を見渡し、俺は言った。
「クラウディア・フォン・エーデルシュタイン」
会場がざわめく。
「殿下…?」
クラウディアは何故、今、自分の名前を?というような顔をしている。
あらかじめ俺のすることを伝えていたリリアーナは涙ぐみながら、こちらを見ている。
もう後戻りはできない。
「クラウディア・フォン・エーデルシュタイン。
お前をだ…」
「だ…?」
何故か、みなが復唱する。
「だ…」
もう一度深呼吸すると、俺は覚悟を決めた。
「クラウディア・フォン・エーデルシュタイン。
俺はお前を…大好きだ!!」
会場中が静まりかえる。
その場にいる全員があっけにとられているようだった。
一人、クラウディアが顔を真っ赤にして俯いていた…。
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