タイトル未定2025/09/04 16:06
「向陽...くん」
「大丈夫か?...顔色悪いな。なんかあったか?」
私の顔を見るなり、少し駆け気味で私のそばに寄ってきた。私の背を優しくなでながら、周りを見渡した。
「あ...あそこにベンチがある。あそこでちょっと休憩しよう、歩けるか?」
まだ気持ち悪さが引いていない私は首を小さく横にふるふると振った。
向陽くんは少し迷ったような顔をしてから私の顔を見て、「ごめん...怒るなら後で」と言ってから、なぜかその場にしゃがんだ。
不思議に思っていると、私のお尻と肩甲骨に腕を回し、ゆっくりと持ち上げた。びっくりしていると、後ろに倒れそうになってしまったので、向陽くんの腕に余計に力が入った。
「ゆっくり進むから、掴まっててくれ。ベンチまでだからさ。」
そう向陽くんが私の顔を見ながら頼むように言ってきたから、断れなかった。そっと向陽くんの首に腕を回す。背筋を伸ばしたままにしているのは少しきつかったから、肩に顎も置いた。
そうして私の準備が終わったからか、ゆっくりと向陽くんはベンチがあるであろう方向に進んでいった。
普通に歩いたらもっとあるであろう振動も、とても穏やかなものだった。私を気遣ってくれているのだとわかって、なんだか照れ臭かった。
向陽くんの身長は確か178㎝。私は154㎝だから、20㎝くらい違う。視界には向陽くんの肩と足元の歩道のレンガが見えた。いつもよりも高いところから見る景色は新鮮だった。
少しの気持ち悪さに目を閉じた。ぬくもりのおかげで、さっきよりも体は温かい気がした。
「着いたよ。どう?降りられそうかな」
どうやら目的のベンチについたらしく、向陽くんの足が止まり、声をかけられた。
さっきよりも気分は幾分か回復していたため、うん、と短く返事をしてから、ゆっくりと降りた。
ベンチに座り、向陽くんが私の前に膝をつく。いつもは下から見上げているから、向陽くんの切れ長な目の上目遣いにドキッと胸が高鳴る。
いつも前髪が目にかかるほどの長さのセンターパートの彼だが、今日は猛暑日のためストレートの髪が少し顔に張り付いている。
今日は猛暑日、早く冷房の効いた自室に行きたいだろうに私のことを介護してくれている彼の優しさに目元が熱くなる。
「大丈夫か?...顔色悪いな。なんかあったか?」
私の顔を見るなり、少し駆け気味で私のそばに寄ってきた。私の背を優しくなでながら、周りを見渡した。
「あ...あそこにベンチがある。あそこでちょっと休憩しよう、歩けるか?」
まだ気持ち悪さが引いていない私は首を小さく横にふるふると振った。
向陽くんは少し迷ったような顔をしてから私の顔を見て、「ごめん...怒るなら後で」と言ってから、なぜかその場にしゃがんだ。
不思議に思っていると、私のお尻と肩甲骨に腕を回し、ゆっくりと持ち上げた。びっくりしていると、後ろに倒れそうになってしまったので、向陽くんの腕に余計に力が入った。
「ゆっくり進むから、掴まっててくれ。ベンチまでだからさ。」
そう向陽くんが私の顔を見ながら頼むように言ってきたから、断れなかった。そっと向陽くんの首に腕を回す。背筋を伸ばしたままにしているのは少しきつかったから、肩に顎も置いた。
そうして私の準備が終わったからか、ゆっくりと向陽くんはベンチがあるであろう方向に進んでいった。
普通に歩いたらもっとあるであろう振動も、とても穏やかなものだった。私を気遣ってくれているのだとわかって、なんだか照れ臭かった。
向陽くんの身長は確か178㎝。私は154㎝だから、20㎝くらい違う。視界には向陽くんの肩と足元の歩道のレンガが見えた。いつもよりも高いところから見る景色は新鮮だった。
少しの気持ち悪さに目を閉じた。ぬくもりのおかげで、さっきよりも体は温かい気がした。
「着いたよ。どう?降りられそうかな」
どうやら目的のベンチについたらしく、向陽くんの足が止まり、声をかけられた。
さっきよりも気分は幾分か回復していたため、うん、と短く返事をしてから、ゆっくりと降りた。
ベンチに座り、向陽くんが私の前に膝をつく。いつもは下から見上げているから、向陽くんの切れ長な目の上目遣いにドキッと胸が高鳴る。
いつも前髪が目にかかるほどの長さのセンターパートの彼だが、今日は猛暑日のためストレートの髪が少し顔に張り付いている。
今日は猛暑日、早く冷房の効いた自室に行きたいだろうに私のことを介護してくれている彼の優しさに改めて胸が温かくなる。
「お水...俺の飲みかけしかないや、ちょっとそこの自販機で買ってくるから待って――」
「ま...待って。...えと、あの、大丈夫だから...」
暑くて汗が止まらないはずなのに、向陽くんが離れると思うとなんだか心に冷たい風が吹くように寂しく...なったんだと思う。
反射で彼の服を掴んでしまった。彼は自販機に体を向けようとしていたからすぐに私が服を掴んだことに気づいたようで話していたことを放棄して口を閉じないまま目を見開いてこっちを見ている。
いつも凛々しい彼の珍しい表情を目に焼き付けたいところだが、いかんせん恥ずかしさで顔が熱い。話している最中に恥ずかしくなって最後の方の言葉は俯きながら小さくしぼんでいってしまった。
少しの沈黙の後、向陽くんははぁ~と言って俯いて前髪片手でをくしゃくしゃっと掻き混ぜた。
「そっか...ならいいんだ。...そういえばなんで名前呼びなの?」
「...ここ、誰に見られるかわかんないし...変な噂たっちゃったら迷惑でしょ?」
「もうここら辺には誰もいないよ。俺らが最後でしょ?」
痛いところを突かれてしまった。
そう、私と彼...向陽くんは恋人同士...のはずなのだ。彼とは中学校の入学式で出会った。彼は小学校からの内部進学組で私は中学受験組であった。
内部進学組はザ・エリートといってもいいほどの家柄の者が多く、中学受験組は少し下に見られがちであった。もちろん、内部進学組の全員がそう思っているというわけではないが、私の中学一年生の頃のクラスメイトがそういう考えの者が多かっただけの話であった。私はそこで恵まれないことに敵視されてしまい、いじめにあっていた。
そんな私の心の支えとなってくれていたのが向陽くん...もとい「こーくん」だった。
「うん...ありがとねこーくん。助かった。」
「いいよ。寮までは戻れそうだね。よかった。」
「心配かけちゃったね。もうすぐ門限だし、帰ろっか。」
空を見上げると先ほどよりもずいぶんと暗い紺色が広がっていた。
ベンチから立ち上がり、周りを見渡す。気分が悪くなった時に木の下に置いたカバンを拾いに行こうとそっちの方向を見ても置いたカバンが見当たらなかった。
はて、と首をかしげていると私にこーくんがカバンを差し出してくれた。
私のカバンは学校の校章が正面に刻印されているサッチェルバッグだ。リセサックとスクールバッグもあり、三つの中から好きなものを選べるのだが、私はこのバッグの明るい革の色が気に入ったためこのバッグにしたのだ。私のバッグにはこーくんがくれたモモよのパスケースがついている。中学生の頃はリュックもリュックサックだったことだし、元々かわいいものが好きだったこともあいまってたくさんのキーホルダーがついていたがもうすべて捨ててしまった。
ありがとう、とお礼を言ってカバンを受け取る。
こーくんのカバンは黒革のスクールバッグだ。彼のバッグには私が誕生日プレゼントとして去年あげた銀色のパズルのようなキーホルダーがついている。そこには真ん中に「K」という刻印がされている。私とのペアキーホルダーだ。こんな安価なもので喜んでもらえるのか心配だったがとても喜んでもらえた。
少し二人で歩いていると、分かれ道が現れた。この道を右の赤いレンガの道を行けば女子寮へ、灰色のレンガの道を行けば男子寮につく。ここでお別れだ。
「じゃあ、また明日ね。おやすみ。」
「うん。気を付けて帰ってね。おやすみ。」