nO.3 またとない出会い
電車による乗り物酔いと格闘しながらやっとの思いで那型駅に着いた命音。命音は乗り物酔いならぬ電車酔いを醒ますべく自動販売機へと向かう。するとそこには彼女にとって異様に目を引く青年が居た。
———ガタン ガタンガタン ガタン
建て付けの悪い電車に揺られる景色の何と不愉快なことか。命音は膝に乗せた鞄の紐を硬く握りしめながらそう考えた。
電車は嫌いだ。自分が1分遅れただけでも待ってくれることはないし、そのくせ高が強風なんかに遅延をしたりする。
そして何よりも嫌いなのが、この不愉快な揺れだ。 すぐに車酔いをする命音は、電車にたったの5分間揺られただけでも吐き気を催すほどには揺れに耐性がない。特にこんなど田舎の電車なんて揺れるに決まっている。あぁ、最悪だ。
遠くに揺れる黄色い花を見ながら命音は必死に吐き気を我慢する。名も知らない黄色の花は素知らぬ顔をしながら風に揺られ窓の枠外へと消えていった。
———はぁ、私、何してるんだろう…そう思ってしまうほどにこの時間は命音にとって無駄な時間であった。
「着い、た…。ここ、よね?」
電車に揺られること計30分、命音は目的地である那型駅に到着した。ここまで吐かなかった自分を凄いぞ偉いぞと褒めたいところだが、恐らくそんなことをしていたら褒めている途中でいよいよ吐くだろう。益体のない思考で吐き気を誤魔化しながら素面の千鳥足で自動販売機へと向かった。
「…ん?」
交通費で吹っ飛んだ余りであるなけなしの金で飲み物を買おうとした矢先、命音はあるものに目を引かれた。
———それは青年だった。
側から見れば、それはただの、何の変哲もない青年なのだろう。しかし、命音にとっては彼が何らかの意味を持つ者だと、その一目見た一瞬だけでも信じてならなかった。青年は手元に視線を落とし、スマホの画面を見ている。
「あの…」
「…?」
思わず命音が話しかけると、青年は徐に顔を上げた。そして、命音を見ると口の端を上げて微笑んだ。
「こんにちは。もしかして、君が?」
「…はい。そうです。」
青年は顔を笑みで固めたままスマホをポケットに仕舞い、立ち上がった。
「よし、じゃあ急で申し訳ないけど、移動しようか。あっ、そうだ。君車酔いってする?」
「…マジすか?」
高が移動すらも上手くいかないと、命音はその場にへたり込んだ。
がんばるぞ
いけいけごーごー
ふふっふぅー