それはそれで驚き?
――あれは、もう七年も前のこと。
『――もし、嫌でなければ……僕と一緒に暮らさないかな、優月ちゃん』
『…………へっ?』
ふと、そう尋ねる秀麗な男性。教師になってまだ二年目の、若き日の芳月先生だ。……いや、別に今が若くないってわけじゃないけど。実際、その美貌は衰えるどころかいっそう増している気もするし。
ともあれ、そんな私達のいるのは静謐とした小さな市民公園――その一角にて、なんとその日に知り合ったばかりの人と暫く話をし、このような突飛な展開に至ったわけで。……うん、自分で言ってて意味が分かんないけど。
さて、それまで――例の衝撃発言の時点で、ある程度打ち解けていたとはいえ……流石に、はい是非ともと受け入れられる話ではないだろう。そもそも、保護者にどう説明するんだという話だし。
だけど、私は首肯いた。それこそ、何の迷いもなく。そこにはまあ、色々と理由はあるのだけども……それでも、やはり最たる理由は――
ともあれ……ならば、この件を親に報告し、なおかつ承諾を得なきゃならないという難題に直面することとなるのだろう。そう、本来ならば。
だけど、果たしてその心配は杞憂だった。そもそも、もう私に両親はいない。私が七歳の頃、交通事故で二人とも帰らぬ人となったから。
その後、独りになった私を母方の伯父夫婦が引き取ってくれることとなったが……私自身は、ただの厄介者でしかなかった。端的に言えば、彼らはただ両親の遺産目当てで私を引き取ったに過ぎなくて。
であるからして、私を引き取りたいという旨を先生が伯父夫婦に話すと、彼らは喜んで――まあ、流石に表面には極力出さないよう繕っていたみたいだけど――ともあれ、喜んで先生の申し出に承諾した。
これぞ、棚から牡丹餅――彼らからすれば、何の労もリスクもなく厄介者を追い払えた上に、先生から謝礼までもらえたのだから心の中はたいそう歓喜に満ちていたことだろう。あの日は盛大に宴会でもしてたかもね。
ともあれ――そういうわけで、その日から彼と私の生活が始まった。血縁どころか何の縁もない赤の他人、更にはその日に会ったばかりの二人による、ひとつ屋根の下の生活――そんな、何とも思いも寄らない人生が突如幕を開けたわけで。……いや、まあ予想してたらそれはそれで驚きだけど……自分に。