仲直り
「……あ、それでさ先生。その……ありがとね、美波のこと」
「ん? ああ、僕は何もしてないよ。君達自身が、お互い逃げずに向き合った結果だよ」
「……まあ、先生ならそう言うと思ったけど」
夕食を終えまったりしていた最中、不意に謝意を口にする私。だけど、彼に驚いた様子はない。まあ、何となく察してはいたのだろう。我ながら、さっきから何か言いたげにモジモジしてたし。
さて、何の話かと言うと――険悪な雰囲気にあった美波と私の間を、先生が取り持ってくれたこと。
あの仲違いの二日後、先生は美波から相談を受けたとのこと。優月に酷いこと言っちゃったから、謝りたい。そして、仲直りしたい。でも、自分一人じゃ出来る自信がないから、手伝ってほしい――要約すると、そういった旨の相談を受けたとのこと。……ほんと、優しいなぁ美波。悪いのは……謝らなきゃいけないのは、私の方なのに。
ともあれ、先生の協力もあり……なんと、彼の病室で二人向き合うという不思議な状況にて互いに謝罪――そして、無事仲直りに至って。
――ところで、それはそれとして。
「……ねえ、先生はいつから知ってた? 美波が、私達のこと……」
「……そうだね、あの時――田沢さんから相談を受けた時、かな。とは言っても、彼女自身がそう言ったわけでもないけどね。優月ちゃんは?」
「……えっと、私は……うん、もう少し前からそうかなとは。でも、先生と同じで、私も直接そう言われたわけじゃないけど」
「……そっか」
ついで――と言うわけでもないけど、美波の話題が出たのでそう問い掛けてみる。……まあ、話題が出たも何も、私から口にしたんだけど。
ともあれ、何の話かと言うと……まあ、言わずもがなかもしれないけど、彼女が私達の――傍から見れば歪そのものであろう、私達の同居について知っていたであろうことに関してで。
ところで、私がこの件――美波が私達の同居について知っていると判断したのは、少し前に先生と一緒に行った映画の件がきっかけで。
『――ごめん、優月! その、あれが最後にあんな展開になるなんては思わなくて……』
あれから数日後、卒然届いた美波からのメッセージ。あれ、と言うのは聞くまでもなく、数日前に観たあの映画のことだろう。そして、きっと彼女自身、チケットをくれた時点では詳しい内容は知らなかったのだろう。
だけど、謝罪の理由は分からなかった。確かに、予想外の展開ではあったけど、もちろん彼女が悪いわけじゃない。と言うか、誰も悪くない。なのに、いったい何を謝って――そう思ったのだけど、次第に理由を察するようになって。
と言うのも……もし、美波が私達のことを知っていたのなら……そして、そういう関係乃至それに近い関係だと思っていたのなら、終盤のあの展開――主人公の女子高生が、担任の男性教師に復讐するという展開の映画チケットを私に渡してしまったことを申し訳なく思っていても何ら不思議ではなくて。……まあ、それでも謝る必要なんて皆目ないんだけどね。……まあ、それはともあれ。
「……その、改めて――ほんとにありがとね、先生」
「まあ、僕は何もしてないけど……でも、どういたしまして、優月ちゃん」
そう伝えると、軽く首を横に振る芳月先生。そして、いつもの柔らかな微笑で応えてくれた。




