表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の果てに  作者: 暦海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/46

……ずるいよ、先生。

「……その、ごめんね先生。まだ、傷が痛むはずなのにあんなに強く……その、すっごく痛かったよね?」

「ううん、気にしないで優月ゆづきちゃん。そもそも、そんなに深い傷でもないと思うし」

「……いや、そんなわけないよね?」



 それから、暫し経過して。

 そう、少し顔を逸らし呟くように謝意を告げる。……しまった、つい感情きもちが先走って加減を……それでも、やはりと言うか穏やかな微笑で答えてくれる先生は流石だと思うし、本当に有り難く思う。思うの、だけども……いや、そんなわけないよね? 深くないわけないよね? 思いっ切り血が流れてたし、そもそも倒れちゃうくらいだし。まあ、それでも命があったのは本当に……本当に良かっ――



「……あの、優月ちゃん。実は……もう一つ、君に謝らなければならないことがあるんだ」


「……へっ?」



 深い安堵の最中さなか、不意に届いた彼の言葉に現実へと戻る。……えっと、もう一つ? いったい、何のこ――


「……いや、実はも何も、気付いてないはずないよね。僕が、今までずっと意図的に黙っていたことを」

「……ああ、そのことね」


 そう、少し俯いて告げる芳月ほうづき先生。……ああ、そのことね。確かに、気付かなかったはずもない。でも、そもそもそのことで彼を責めるつもりなど毛頭なかった。それが、私のためだったことは流石に分かって――



「……ずっと、言わなきゃって思ってた。でも、言えなかっ……ううん、言えなくなってた。一度、口にしてしまったら……君に、恨まれてしまう……離れてしまうんじゃないかって……それが、どうしても嫌で……どうしても、怖かったんだ」



 そう、たどたどしく――それでいて、真っ直ぐに私を見つめ話す芳月先生。そんな彼に対し、私は――


「……優月ちゃん?」


 そう、不思議そうに尋ねる。……いや、不思議と言うより困惑、かな? だって――



「……いや、その……これは……」


 どうにか言葉を紡ごうとするも、続かない。どうしてか、まるで渋滞のように喉で止まって動かない。……いや、どうしてかなんて分かってる。だって――



「……ずるいよ、先生。そんな……ぞんなっ……」

「……優月ちゃん」


 そう、潤んだ声でどうにか口にする。……こんな顔、見られたくなかったのに。こんなぐちゃぐちゃな顔、この男性ひとにだけは――



「……っ!! ……せん、せい……」



 刹那、思考が止まる。そして、それとほぼ同時――陽だまりのような暖かさが、身体を……心を、柔らかく優しく包みこむ。……ほんと、ずるいよ先生。




 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ