義務
「……その、優月ちゃん。謝って許されることじゃないのは分かってるし、許してもらわなくても良い。それでも、本当に……本当に、ごめん」
「…………先生」
そう、再び深く頭を下げ真摯に謝意を口にする芳月先生。……ほんと、馬鹿みたい。何度でも言うけど、彼は何も悪くない。悪いのは、紛れなもなく貴方の両親。なのに、身内というだけで罪悪の意識を独り背負って――
……でも、他人のことを悪いなんてもう言えないか。先生に深く想いを寄せる生徒の嫉妬により、先生と極めて近い関係にある私が殺される――その展開に導くことで、まるで何の罪もない善人の罪悪感につけ込み復讐を果たそうとしている私に、他人を悪く言う資格なんてないか。……なのに――
「……なんで、私に……こんな、どうしようもない私なんかに、優しくするの……?」
「……優月ちゃん」
どうにか絞り出した私の言葉に、目を見開き呟く芳月先生。……だって、そうでしょ? 私は、復讐しなきゃ駄目だった。加害者当人に対して叶わないなら、せめて近しい人間――加害者と同じ血を宿すこの先生に、なんとしても復讐しなきゃ駄目だった。それが、大好きな両親のために私ができる唯一のこと――そして、私の義務だったから。……なのに……なのに――
「……もう、できないよ。だって、私は……私は……先生のことっ……」
「……優月ちゃん」
彼の身体をぎゅっと抱き締め、震える声で呟く。その華奢な身体を、壊れんばかりにぎゅっと、ぎゅっと。もう、決して離さないように。
すると、暫し困惑していた様子の先生。それでも、ほどなくして少しぎこちなくも、そっと抱き締め返してくれた。




