……ほんと、どうかしてる。
「ありがとっ、先生。すっごく嬉しい」
「うん、喜んでもらえたなら良かった」
それから、数時間経て。
帰り道、買ってもらった指輪を眺めつつ謝意を述べる私。……まあ、まだ付けてはないんだけどね。自分で求めておいてなんだけど、何処に付ければ良いか非常に悩むところゆえ。
ところで、もはや説明不要かなとは思うけど……あの後、少し戸惑いつつも穏やかに微笑み承諾してくれた先生。まあ、何を求めても断られるとは思ってなかったけど。そもそも、私の誕生日なんだし。
……ところで、それはそれとして。
「……ねえ、先生。先に帰っててくれない? 私、少し寄るとこあるから」
「……そっか、分かった。でも、あまり遅くならないうちに帰るんだよ。お節介だとは思うけど、前みたいなこともあるかもしれないし」
「……うん、ありがと先生」
そう伝えると、心配しつつも柔らかく微笑み応じてくれる先生。そんな彼に小さく謝意を告げ、軽く手を振りひとまず別れた。
「……さて、どうしたものか」
そう、一人呟く。そんな私がいるのは、住宅街にひっそりと佇む小さな公園。その隅にあるブランコに一人ゆらゆら揺蕩っているわけで。
あの後――先生と別れた後、私は一人彷徨い気付けばこの公園に。寄ることがある、なんて言ったけど別に宛なんてなく……まあ、気付いてたかもしれないけど。
では、そもそもなんでそんな不可解な嘘を吐いたのかと言うと……正直、自分でも分からない。
ただ……少し、一人になりたかったのかも。どうにも晴れないこの気持ちのまま、家に戻りたくなかったのかも。
……ただ、そうは言っても。
「……そろそろ、帰ろうかな」
そう、言い聞かせるように呟く。そして、ゆっくりブランコから立ち上がる。もう暗くなってきたし、あまり心配させるのも悪いし。
皓皓と月の輝く空の下、澄んだ空気の中ゆっくり歩みを進めていく。そっと頬を撫でる微風が、肌寒くも少し心地良い。
その後、暫しして到着したのは閑散とした橋の上。見渡す限り、今は人ひとりいないようで。
そっと欄干へ身体を預け、月に照らされ輝く水面をぼんやり眺める。そして、ポケットから小さな箱を取り出し、小さな円環――今日、先生に買ってもらった指輪を手に取りじっと見つめる。
……ほんと、どうかしてる。自分で求めたくせに……すごく嬉しいはずなのに……さながら幸福と比例するように、言いようのない胸の痛みはいっそう増していくばかりで。そして――
――――ポチャン。




