……ただ、それでも……
「…………はぁ」
少し肌寒い帰り道を、溜め息と共に一人進んでいく。いや、辛いのは私でなく彼――数十分前、思いの丈を拒まれてしまった佐伯くんの方なのだけども。
……ただ、それでも……どうしても、私としてはこの展開を避けたかった。大切な友人の想い人に、よもや私が告白されてしまうというこの展開を。
『……あの、佐伯くん。その……私なんかより、美波はどうかな? ほら、可愛いし、明るいし!』
『……へっ?』
――これが、彼に対する私の返事。……いや、我ながら酷いと言うか……うん、全く以て告白の返事になってない。そりゃ、彼もポカンとするよ。
ところで……佐伯くんに申し訳ない気持ちはあるものの、それ以上に……さて、美波になんて言おう。……いや、むしろ言わない方が良いかな? 別に、聞いても何のメリットもない……どころか、ただショックなだけだろうし。なので、ひとまずは――
「……そう言えば」
そう、ポツリと呟く。……そう言えば、あの時……いや、気のせいかな。
「……あの、どうかしたかい? 優月ちゃん」
その日の夜のこと。
夕食の最中、不思議そうに首を傾げ問い掛ける芳月先生。尤も、理由は単純明快――私が、完全に箸を止め彼をじっと見ていたから。
……さて、どう切り出そう。まずは、軽く雑談からの方が――
……いや、考え過ぎかな? 今日あったことを話すだけなんだし、もっと気楽に話せば良いよね? そう、気楽に……気楽に――
「……ううん、何でもない」
「……そっか」
そんな私の言葉に、仄かな微笑で答える先生。……ほんと、何がしたいんだろうね。私。




