……ほんと、自分でも思う。
「……ねえ、芳月先生」
「ん、どうしたの優月ちゃん」
その日の、宵の頃。
食事の最中、呟くように彼の名を呼ぶ私。今日のメインはサーモンのムニエル――先生が作ってくれた、とりわけ私の大好きな一品で。
なのに……ほとんど、味がしない。そして、その原因が私自身にあることは明白で……うん、ほんとに申し訳ない。
「……それじゃ、お風呂入るね」
「うん、どうぞ」
食事を終え、暫し経過した後そう告げると、いつものごとく穏やかな微笑で答える先生。少しだけ文言が違ったことには気付いてないのか、気付いた上で気にしていないのか……まあ、別にどっちでも良いけどね。
――それから、数十分後。
「ん、今日は早かったんだねゆづ……っ!?」
私の足音に気が付いたのか、徐に振り返りそう口にするも言葉が止まる。まあ、それもご尤も。だって……卒然、上下に下着を纏っただけの私が現れたのだから。
「……えっと、それはいったい……」
「……うん、ちょっと暑くって」
思いも寄らない私の姿に唖然としていたが、ほどなくさっと身体ごと背中を向け尋ねる芳月先生。そんな彼の姿に、少し可笑しくなってしまう。私が勝手にこんな格好で出てきただけなんだし、別に気を遣わなくて良いのに。……それとも、少しは照れてくれてるのかな?
「……その、暑いなら冷房をつけるから……早く、服を着なさい」
「……うん、分かった。でも、冷房はいらないかな。普通に寒いし」
そんな、らしくもない……いや、この言い方も可笑しいけど――ともあれ、らしくもない先生のような言い方に、またも少し可笑しくなってしまう。
……まあ、私が言えた義理でもないんだけどね。こんな短いやり取りの中で、思っ切り矛盾したこと言ってるんだし。
……いや、でもやっぱり暑いかな? とりわけ、顔が火照るように熱い。ほんとに冷房いるかも……いや、止そう。それだと、先生が寒いだろうし。
……ほんと、自分でも思う。何してんだろって。ほんと、自分でも思う。……それでも、今日の……あの昼休みの、あの言葉がどうしても頭から離れなくて。
『――ごめん、坂上さん。君の気持ちは本当に有り難いし、本当に嬉しい。だけど……僕には、好きな人がいるんだ』




