何事も全力?
「――へぇ、意外と上手いじゃん、優月。正直、絶対音痴だと思ってた」
「……いや、正直すぎるでしょ。ですが、ありがとうございます浦崎先輩」
それから、数日経て。
そう、揶揄うような笑顔で告げる美少女、浦崎先輩。まあ、一応は褒めてくれてるし良いんだけどね。
ともあれ、私達が今いるのは……まあ、説明するまでもないかもだけどカラオケです。ところで、絶対音痴って絶対音感にちょっと似て……うん、なに言ってんだろうね。
『――ねえ、今からカラオケ行かない?』
『……へっ? 急にどうしました?』
『いや、急は急かもしれないけど……別に、どうしたってことはないでしょ。カラオケに誘うくらい、友達なら普通でしょ?』
『……まあ、それはそうですね』
数十分ほど前のこと。
帰り道、唐突にそう切り出した浦崎先輩。カラオケ、か。全く行かないわけでもないけど、取り立てて好きというほどでも――
『――おや〜優月ちゃん? ひょっとして、音痴なのかな〜? ああそっか〜それなら仕方ないな〜』
すると、あまり乗り気でない私の様子を察したのだろう、そんな安っぽい挑発をしてくる先輩。……全く、ほんと安っぽい。思わず溜め息が出るくらい。ともあれ、呆れた表情でゆっくりと口を開き――
『……良いでしょう。そこまで仰るなら、是非とも私の本気をご覧に入れて差し上げましょう』
……いや、挑発に乗ったわけじゃないよ? ただ、たまには思いっ切り歌うのも良いかなぁって……うん、誰に言い訳してるんだろ。
さて、そういうわけでいざ尋常に勝負(?)、みたいな流れになったわけだけど――
「……お上手ですね、浦崎先輩」
「ふふっ、ありがと優月」
音が鳴り止んだ後そう伝えると、何とも人懐っこい笑顔で謝意を口にする浦崎先輩。先輩に対するお世辞とかじゃなく、素直にそう思った。まあ、こっちは意外でもないけどさ。
「ところでさ、優月。勝負するにも、どっちが上手いか審査してくれる人もいないし……ここはやっぱり、定番の採点勝負といかない?」
「……まあ、それしかないですしね」
すると、私にデンモクを渡しつつそう尋ねる先輩。まあ、勝負となればそれしかないよね。彼女の言うように、他に審査する人もいないし――それに、採点なら少なくとも客観性は担保されるし。
そういうわけで、改めて曲を送信し気合いを入れる。まあ、別に負けたところでどうなるわけでもないのだけど……やっぱり、何事も全力でやらなきゃ楽しくないしね!




