芳月千蔭
「……と、このように星の明るさは、距離の二乗に反比例するため――」
茹だるような暑さも少しばかり和らいできた、ある秋の日のこと。
県内随一の進学校、泉遥高校――その三階に在する、二年一組の教室にて。
三限目、壇上にて滔々と話すのは丸眼鏡の似合う秀麗な男性。彼は芳月千蔭――その類稀なる容姿と温和な性格からか、学年問わず絶大な人気を誇る我らが担任教師で。
「……ねえ、先生ってほんとに彼女いないの? だったら私、立候補しちゃおっかな」
「あっ、ずるい早希。だったら私も!」
「……ありがとう、坂上さん、高原さん。でも、君達には僕なんかよりもっと素敵な人が相応しいよ」
「いやいや、先生みたいな素敵な人なんて他に――」
それから、数時間経て。
放課後にて、相も変わらず数多の生徒に囲まれている芳月先生。いつも思うけど、ほんと大変そう。ここからも、まだいろいろと仕事があるのに。
……まあ、とは言え心配したって仕方ないけど。私が仕事を代わってあげられるわけでもないし、仮に代行できたとしても、まず彼自身がそれを望まないだろうし。




