怖いのは誰だ
会社に向かった夫から、電話がかかってきた。
会社に着いたであろう間もない頃。
この時間に電話がかかってくるのは、初めてだ。
「どうした~?」
「すられた」
「何が?」
「財布。状況から考えて、だけど。今、警察で盗難届け中」
「スリ?」
「うん」
TVでやってる。
ノンフィクションだけど、フィクションしか感じられなかった。
まさか、夫が被害者になるとは。
「ショックだよ~。何で俺ばっかり」
泣きそうである。
そうだ、夫は今、ちんちんちんちん鈴木君だった。
これ以上、ちん、を増やしてはいけない。
「仕方ないよ。事故だよ、事故」
「でもさー、凹むよ」
「野良犬にでも噛まれたと思いー」
「無理だよー」
「じゃ、猿は? 猿って、人の物、奪うよ~」
「…………」
犬や猿じゃ駄目なのか?
じゃあ、猫かぁ~? カラスかぁ~?
「とにかく、不可抗力だから。あなたに責任ないから。狙われたものは仕方がない」
「………今から銀行とか電話しないといけないから、切るね」
電話を切った夫。
大丈夫だろうか?
心配になる。
心配だ。
変に落ち込まないといいけれど。
「ちん」が増えたらどうしよう。
心配でたまらない。
けれど、
その一方で、
話のネタができたぞお~と、
話を練りはじめる自分って・・・。