始まりとしての夜
年に1回、今日はあの世の扉が開く日。
僕にとっても、みんなにとってもお祭りみたいな日。
人は死んだら終わりじゃない、あの世にいるんだ。
そこは天国でもあり、地獄でもあり、そのどちらでもないという。
あの世は死者それぞれだ。
僕はジャックに会いにあの世の扉に行く。
ジャックと僕は友達だ。
ジャックは1年前に亡くなった。
あの世の扉でジャックを呼ぶ。
あの世からこの世界に来ることができるのに必要なのは思い出だ。
僕はジャックと過ごした楽しい思い出を思い出す。
そして、ジャックが現れた。
「覚えててくれてありがとう、ケルト。俺、悪魔と変な約束しちゃって大変なんだ。」と言いながら、ジャックは何かから逃げていた。
「え?それってどんな約束?」とジャックを追いかける僕。
「俺を地獄に行かせない代わりに、この世界に行きたいって。」
「行きたいって来られるわけないだろ?悪魔との思い出なんか僕は持ってない。思い出がなければあの世の扉は通れない。」
「それが…多分通れるだよ。俺、悪魔との思い出があ…」
ジャックが喋っている途中で街中に黒いものが広がった。
黒いものは悪魔だった。
悪魔は人々に悪戯をしかけた。
たくさんの悪魔…僕はどうしようか考えた。
「そうだ、僕達も悪魔になろう。」僕とジャックは悪魔の姿をした。
近くにあった黒のカーテンを破り、身につけただけだったが。
悪魔になった僕達を悪戯する悪魔はいなかった。
「悪魔って苦手なものあるのかな?」とケルトはジャックに聞く。
「苦手なものは知らないが、チョコレートが好きってことは知ってる。」
「悪魔って、チョコレートが好きなんだ…」
この日、街はぐちゃぐちゃに荒れ果てた。
ジャックは次の日、大好きなカブとかぼちゃを持って口にはりんごをくわえて、あの世に帰って行った。
悪魔も帰って行った。
◇◇◇◇◇
数年後。
年に1回、あの世の扉が開く日。
人々は悪魔の姿をするようになった。
悪魔に悪戯されないように。
さらに、悪魔の好きなチョコレートやお菓子を家に備えるようになった。
もしも悪戯されそうになったら、チョコレートやお菓子で帰ってもらうように。
ケルトは亡くなり、ジャックの思い出を持つ者がいなくなった。
ケルトもジャックもこの世界に来ることはもうない。
悪魔もこの世界に来ることはもうないのだった。
ハロウィン。お菓子もらえなかった(;ω;)
家にあるカシューナッツでも食べるか…