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病院にだまされない  作者: 虎巻 解
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高血圧症の治療

高血圧症の治療ガイドラインでは、年齢に関係なく忍容性があれば140/90 mmHg未満を降圧目標として、降圧治療を行うように推奨していると述べました(「高血圧症」の項 参照)。しかし、高齢者の高血圧症は、身体の臓器、特に脳を含む生存にとって重要な臓器へ、血流を維持するための、ある意味での生理反応であることに留意する必要があります。

ある病院での話です。一般に、病院では、患者さんが急変した場合に、急変対応を求める知らせを病院全体にコールするシステムがあります。その病院では、このコールを「ハリーコール」と呼んでいたのですが、ハリーコールの半分以上が、外来での患者さんの転倒でした。そして、その原因のほとんどが、血圧低下による意識消失で、意識消失した全員が降圧剤の内服による治療中だったのです。意識消失するエピソードが発生するまで、降圧剤を内服して血圧を下げていた理由として、「忍容性がある」と判断して、ガイドラインの推奨とおりに、140/90 mmHg未満に血圧を下げていたからだと推測されます。転倒して骨折するかもしれないリスクを冒してまで、心臓を長持ちさせるために血圧を下げる必要があるとは思えません。

この患者さんたちは、たまたま病院で意識消失したから、ハリーコールで救急対応してもらえましたが、病院外で意識消失していたかもしれません。そして、一人暮らしだったりで、周囲に気づかれなかったら、本人からの訴えがないかもしれません。また、一件の重大事故には29件の軽微な事故と299件の異常(ヒヤリとしたりハットしたりする危険:ヒヤリハット)が隠れているというハインリッヒの法則があります。ハインリッヒの法則からは、意識消失に至る前の、意識低下をきたしている患者さんが、この病院を受診している患者さんの中に、多数隠れていたと推測されます。


 「血圧測定」の項で述べたように、動物の個体は身体を構成する各臓器への血流を維持するために血圧を維持していると考えられます。血流量は血圧と血管抵抗により“「血流量」=「血圧」/「血管抵抗」”で決定されていますが、加齢に伴う動脈硬化は血管抵抗を増大させます。一般に、加齢に伴い血圧は高くなっていく傾向があるのですが、これは、加齢に伴う血管抵抗の増大に対応して、臓器への血流量を維持するための生理的反応と考えられます。この生理的反応に介入して血圧を下げることは、臓器への血流量の不足をきたすと考えられます。各臓器への血流不足は極端に不足した場合は梗塞等の虚血症状を呈しますが、このような極端な虚血でなく少し落ちた程度の血流低下では明らかな症状としては現れません。明らかな虚血の症状がなくとも、パフォーマンスが低下するようでは、「忍容性がある」と判断すべきではないと思います。一見「忍容性がある」ように見えても、高齢者の高血圧症に対する降圧加療では、身体の様々な臓器を慢性的な虚血状態に陥らせてしまう危険性に留意する必要があります。

 高齢者の認知機能低下が問題となっていますが、脳への血流障害がこのような認知機能低下の原因となっている可能性があります。認知機能低下があっても、忍容性があると判断され、ガイドライン通りに降圧治療が行われている場合もあります。降圧治療による過降圧で、血圧低下による意識消失をきたした件の患者さんは、普段から脳への血流が慢性的に低下し、認知症とは診断されていなくとも、本来の認知機能よりも認知機能が落ちていたと推測されます。この患者さんの高血圧症を治療していた医師は、ガイドラインをしっかりと踏襲していたのだと思われますが、この医師にかかりつけの患者さん達の中には、降圧治療で認知機能が低下が進行している患者さんが他にもいると考えられます。加齢に伴う動脈硬化性の血管変化が生理的なものであるならば、動脈硬化による虚血が原因となりうる認知機能低下のおそれがある高齢者は、降圧治療への忍容性がないと判断されるべきです。


 明らかな異常所見を発症しなかったために「忍容性がある」と判断され、ガイドラインとおりに降圧加療されていたが、治療を受け始めてから活動レベルが低下し、Quality of life (QOL)が悪化していた高齢の高血圧症の方もいらっしゃいました。この方は認知症とは診断されていませんでしたが、降圧治療を緩和することで、QOLが改善しました。その後、血圧が脳の血流の維持に必要であることを理解され、ご自身の判断でガイドラインが推奨している降圧目標までは血圧をさげない治療を選択されました。「QOLを悪化させても寿命を延ばす意義があるのか?」その選択は治療を受ける本人が行うことであり、ガイドラインで一律に定めることではないと思います。


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