チェイス
私は、最初に来た工場の星[アルファ]にいた。
辿り着いてすぐ、赤髪の彼女が何やら浮き足立って食料を抱えてどこかへ歩いて行っている。私のような完璧な透明化はできていないが、上手く景色とどうかする服を身に纏っているため、通行人は誰一人彼女に気づいていないようだった。
私にとっては都合が良い。多分向こうから私のことは見えてないだろうし、真上から脇に手を入れて持ち上げて仕舞えば抵抗はできないだろう。そう考えていたのだが・・・
どういうわけか一瞬でこちらに気づき、私の顔を見るやいなや、ダッシュで逃げていった。
追いつけないという速さではないが、土地勘は向こうのほうが上だ。路地に紛れられたら探し出すのは困難になってしまう。私は彼女と並走するように飛び、止まるように呼びかけ続ける。
透明な二人の口論だけが大通りを一瞬で過ぎ去っていく。大通りを走っている乗り物の脇を縫うように走っていくので、見失わないように目を凝らしつつ、彼女の上空3mくらいをマークし続けている。
かれこれ追いかけ初めて30分は経っているが彼女はまだ全速力で走り続けている。体力が尽きるまで追いかけ続けようと思っていたのだが、これじゃあ埒が明かなそうだ。何か仕掛けがあるに違いない。そう考えた私は、彼女の透明化できていない部分に目を光らせてみる。すると、ブーツだけが透明化されていなかった。足元ギリギリまである迷彩フードからチラチラ見える足元からはブーツだけ不自然に残っていた。
私はこのブーツに何か仕掛けがあるのだと直感し、どうやってブーツを無効化するかを考えながら飛んでいると、道路標識に頭から思いっきりぶつかった。ゴーンと金属製の鈍い音が鳴り響き、矢印の書かれてある道路標識の右端が私の頭がぶつかった後が残り、捲れ上がっていた。
「おぉ〜!!いてて!!なんだよっ!たくっ!」
その隙に反対方向へ走り出した彼女は私が気づかないうちに、大通りから外れた路地へ向かっていた。私は見失ったことに気づき辺りを見回す。するとたまたま、フードがはだけて、赤髪の頭部が狭い路地へ入っていくところを見つけられた。内心焦りつつ、速度を出してまた追いつく。
路地へ入ったことは確認したので、先回りするために少し速度を下げて、路地全体が見えるまで上昇した。
運は私の味方のようだ。この路地は一本道になっている。横道は無いので先回りしていれば必ず鉢合わせになるだろう。私は、透明化の機能を強化して見つからないようにした。速度も上げ、なんとか先回りすることができたので、待ち伏せしておく。
何も知らないであろう彼女は疲れたのか、トボトボと歩きながらこちらへ向かってきている。辺りを警戒しているが、先ほどより集中力が切れているようだ。どうやら、私に気がついていないようだ。しめしめ。
彼女との距離5mを切った。私は必死に息を殺し、ギリギリまで耐える。
すれ違うギリギリで素早く拘束した。手足を拘束具で縛り、大声を出さないように口には布を当てる。やってる事は完全に悪役側だが、仕方ない。激しく抵抗してきたので、とりあえず電気を首元に当てて気絶させた。ユニの元へは連れて行かない方が良いだろう。
社員ではない彼女と会わせたら、すぐに強制退去の手続きをとるに違いない。
彼女には彼女の都合があるようだろうし、どうしようか、、、
悩んでいると、いつもは100%嫌な気持ちになるあの声が今回ばかりは受け入れられる気がした。
(アーサー)「見つけましたよ〜ノモ様〜」
「・・・」
「良いとこに来たな」 ニヤ
(アーサー)「えっ!?何!?怖い。その笑顔」
(アーサー)「て、、その人誰です??てか気絶しているじゃないですか!?早く医務室へ!!」
「まぁ〜待て待て。アーサー君」
(アーサー)「・・・」
(アーサー)「ナンデショウカ?」
「君、私の見張り役だよね?」
(アーサー)「はい・・・」
「彼女は、訳あって私が気絶させたんだ」
(アーサー)「はい・・・?」
「そこで、君にグッドニュース!」
(アーサー)「・・・」
「今から君の家に行きます。案内しなさい」
(アーサー)「え・・・!?」
「美女二人が君の家に行くと言っているんだ〜!早くしろ!!」
(アーサー)「・・・」
(アーサー)「なんか、その、、、すごく、、、、嫌な気がするんですが・・・」
「い・い・か・ら!!!」
(アーサー)「・・・はい。あと、近いです///」
こいつに頼るのは不本意だが、今はしょうがない。
いくら美形だからといって、男の照れ顔なんて興味無い。早く案内しろバカ。




