宇宙探索家チーム『ハインライン』
宇宙探索家。
『宇宙冒険家』の下位互換のような立ち位置。やっていることは、ほとんど変わらないが、一部法律面で優遇されているのは宇宙冒険家のみである。
また、宇宙冒険家候補は宇宙探索家の中から選ばれる。宇宙冒険家たちからチームに誘われ、引き抜かれるルートが、世間一般的に『新しい宇宙冒険家』として認識される正規の昇進ルートである。
リーダーっぽい女性が去るまで頭を下げ続けていたら、私のポケットに入っている端末から通知音が鳴った。
顔をあげ、端末の通知を見ると、[送金主モーラ]と書かれた金融機関からの通知だった。おそらく、左側に立っていた長身男の方だろうか?
怪しすぎる・・・
いや、普通に考えて、会ってすぐの年下の女子相手にお金を渡すだろうか?(いや、渡さない)
下心だろうか?年下女子が好きなのだろうか?入隊して大丈夫だろうか?
(アイツ危ないロリコンだ・・・)
突然見知らぬ男性からの送金通知で気を取られていた。ふと、端末から目を逸らすとあたりは薄暗くなっていて、高台にあるこの公園は風の通り道なのか、木々が何度もゆらめいていた。少し不気味に感じ早く帰ろうと振り返ると、さっきの長身男が私の前に立っていた
「ヒェ!!・・・な、なんですか・・・?」
私は、警戒心むき出しで、長身男を睨みつける。
(金渡して私を売春しようとしてんのか??クソロリコンが)
「人は第一印象が全てだ」
「・・・・・はい?」
てっきり、チャラくて本能で生きる私の同世代の猿みたいな野郎かと身構えていたのだが、低くて透き通った声で、何か語り出した。
「初対面の相手には、見た目が一番最初に得られる情報だ。相手がどんな身なりで私らに会いに来るのかで大抵のそいつの人間性は分かる」
「君は、反抗心は強いが根は甘えたがりで、強がらないと生きてこられなかった」
「!?」
「両親はまだ生きているが、卒業して家が嫌になったから家出をした無鉄砲な少女」
「学園では友達を作らず、いじめられないよう目立たない努力を怠らない」
「なんで、そこまで!?」
「そんな君が、大事な顔合わせの日に身なりを整えて来ないなんて失態を犯すはずがない」
「・・・・」
(ん・・・?つまり・・・どゆこと?)
「君、シャワーは最後いつ入った。それに、その服。いつから洗濯していない」
私は、急いで自分の服の匂いを確認する。私の小っ恥ずかしい勘違いも甚だ図々しかった。この人は、汚い身なりの私が初対面で会うには失礼ではないか?と、注意してくれているらしい。(にしても表情がピクリとも動いていないのが怖い)
「・・・!」
「臭っさ!!!!!」
「今、気付いたのか・・・」
「それに、その身なり。初対面でしかも目上の相手と会うにはカジュアルすぎる・・・」
「こ、これしか持ってないんです!!!!!」
「・・・」
「その金で他を買うといい」
長身男は私のポケットを指刺しながら話を続ける。
「とりあえず5万振り込んだ。それで服装を整えて、ちゃんとした飯と風呂にしっかり入れ」
「は!?え!?ちょ・・・!?そんなに!!!?」
「デコにニキビもできている。睡眠もしっかりとれ」
「う、うるさいです!!!!」
(んだ!!こいつ!!!デリカシー!!!むかつく!!!!)
「明日10時、ここへ集合だ。遅刻するなよ」
「それは俺から早めの入隊祝いだ・・・」
長身男は名前も言わず、そのまま去っていった。
突然の大金を手にしたが、どこか釈然としなかった。
私は、男が去った後、全速力で銭湯へ向かった。
入念に体を洗い、湯船に飛び込む。
久しぶりの湯船に感動する。
「ふう〜〜〜〜気持ちぃいい〜〜」
足を伸ばし、背伸びをしてゆっくり浸かった。ぼーっとする頭でふと、長身男のことを思い出していた。年上の男性から臭いなんて言われたのは初めてだった。恥ずかしさと苛立ちが交互に入り乱れる。
「もういい!よし、風呂の次は飯だ!」
ザーーーーーー
入浴中に、洗濯しておいた服を着て、ファミレスへ向かう。
ここ三日、我慢していた食べたかったものを片っ端から頼んでいく。
机には次々と料理が運ばれてきた。
他のお客さんや店員さんがドン引きしていたが、そんなことよりも美味しすぎてどうでもよくなっていた。
食事後の休憩中に端末でファッションの欄を開いた。フォーマルな服装なんてどんなのが良いのかさっぱり分からない。とりあえず、下着類を適当にドラッグし、カゴへ入れていく。
[フォーマル]と書かれたページを開き、スクロールしていく。
ガチガチなスーツって感じではないし、ドレスってのもおかしいだろう。無難に白シャツとコートを選んだ。
宅配地をこれから向かうホテルにし、時間指定をする。
「よし、これで明日の服も良し!」
会計を済ませて、予約しておいたホテルへ向かった。
ごく普通のホテル。7階にある部屋を案内されベッドに寝転ぶ。
端末から配達通知が届き、ホテルの南側についている窓を開けると、配達ドローンが入ってきた。段ボールに包まれた服を置いて、すぐに飛び去っていく。私はドローンに手を振りながら窓を閉めた。
「ううぅ・・寒!!!!」
部屋の電気を消して、ベッドに潜り込んだ。
目を瞑ると、家出した3日間を思い出していた。三日しか過ごしてないのに、1ヶ月もネカフェで寝泊まりをしていた気分だ。
今日は特に1日が長く感じた。
朝早くから肉体労働をさせられ、修羅場を経験し、年上男性に臭いと言われた。
「いろんな人がいたな〜」
明らかに無理な量の雑用を押し付け、サボる大人。人間関係がドロドロのチームメンバー。配慮が一切ない男。
愚痴を言っても仕方ない。
良い方に目を向けてみる。
久しぶりにまともなご飯を食べた。お風呂にも入れた。そして今日はあの狭い部屋で寝泊まりしなくても良い!!今、普通にベッドで寝ている!!
そして何より、夢に一歩近づいた感覚がずっと抱えていた不安を拭ってくれた。
やっぱり人ってちゃんとした生活をして、お金と気持ちに余裕が無いとダメなんだと思う。
唯一心配なのは、明日十時に起きられるかどうか・・・。
いつも11時に起きてるからな・・・。
目覚ましかけて、早く寝よう・・・