砂漠を共歩
ゆっくりと目を覚まして隣を見ると、私の指をチュパチュパと吸っているファニー。
離そうと引っ張るがガシッと腕を捕まれ、余計に離せなくなった。
「おい。」
と声をかけ、グンっと腕を上げる。するとブラーんとぶら下がった状態になるファニー。
(どんだけ吸引力あるんだよ)
唾液と重力でジュルジュルと音を立てながら落ちていき、地面にドサっとぶつかる。
ようやく目を覚ましたファニーは目をこすりながら私の大きい方のバックパックを持とうとしていた。力一杯ショルダー部分を持って立ちあがろうとするが、重くてびくともしていない。顔がみるみると赤くなっていき、その後青ざめていく。
「寝ぼけてないで、こっち持って」
私はファニーの小さい方のリュックを渡してあげた。
「とりあえず西の方へ向かおうと思うんだけど、どう?」
地面に棒で何か書き始めた。
「西はダメ。危ない。南の方に」
「りょーかい」
この星の重力に慣れてきた私は、ランニング感覚で南の方へ走り出した。
重力の関係もあるので、一概に速度を示すことはできないのだがおそらく時速300km
くらいだろうか。
私が走った跡は少し地面が抉れていて、砂煙が高く立ち昇っていた。わかりやすい例で言うところ、アラレちゃんをイメージしてもらえれば良いだろうか?
星はめっちゃでかい。(木星よりでかい)
東側の中央から少し離れたとはいえ、南側の壁際に着くまでに丸二日かかった。
途中で死にかけのおっさんに会った。
(おっさん)「待て、、、」
「・・・」
私は気づかずにそのまま通り過ごしたが、ファニーが気付き私の首を両腕でグッと締めてきた。
「ぐへ」
「な、なに?」
ファニーは私の肩からピョンっと飛び降り、地面に何か書いている
「おじさんがいた。向こう」
「おじさん?」
私たちは元来た道をゆっくり通ってみた。
すると、大きな肋ぼねの下の日陰に汚くて見窄らしい死にかけのおっさんが骨に寄りかかって座っていた。
「うおっ」
「生きてんのか?おっさん」
(おっさん)「戻ってきてくれたか、、、」
「なんかようか?」
(おっさん)「南側、、の壁へ、向かうん、、だろう?」
「ああ」
(おっさん)「すまんが、、水を少し、、くれ、、、喉、、が、、ひっついっ、、てしゃべら、、れん、、」
「ああぇ、?良いの?ファニー」
ファニーは激しく縦に頷いた。
「はい」
(おっさん)「ありがとう、、」ゴクン、、ゴク、、、ゴクン
「お、おいあんま飲み過ぎんなよ、、この子のだぞ、、、」
ファニーは私の服の裾を掴んで、首を横にブンブン振っている。
「良いのか?」
ファニーはそんなに困らないようだが、この様子を誰かに見られていたら他のやつも物乞いをしてくるだろう。そうなったら一瞬でファニーの分が無くなっちまう。
幸い、今は近くに誰もいねーみたいだけどな、、、
(おっさん)「助かった。助かってしもうた、、、」グス、、グス、、グズ、、、
おっさんは水を飲み終わると、泣き始めた。
(おっさん)「わしは、死のうと思っとったんじゃ、、、」
(おっさん)「もう、体が動けなくなって、、、、あと1日もたてば死ねると、、、」
(おっさん)「でも、、助かってしもうた、、、しちくじぃぃなぁ、、、」
「・・・」
「まあ、水はいいけど、、」
(おっさん)「わしも連れとってくれ、、」
「はぁ?何言ってんだおっさん。あんた抱えて走るのは嫌だよ」
(おっさん)「そうか、、、」
「わりぃけどな、、、」
(おっさん)「いや、いい。城壁を乗り越えるんじゃろ?」
「おん」
(おっさん)「なら、これをやる。水の礼じゃ」
「何これ?」
(おっさん)「看守の服じゃ。これがないとあの壁を通過することはできんぞい」
「なんでわかるんだよ、そんなこと」
(おっさん)「元看守じゃったからな、、、」
「元、、、?」
(おっさん)「年老いたら、制服を剥がされて壁を通過するために闇市で売られるんじゃ」
「なら、あんたはなんで持ってんだよ」
(おっさん)「洗い変えを隠し持っていたのだよ、、、誰か良い人のために、、、」
「いい人って、、ここどこか知ってんだよな?おっさん。あんたも悪人だろ?」
(おっさん)「いや、、わしは冤罪じゃ。お主らと同じ、、、」
「なんで、私が冤罪だって知ってんだよ」
(おっさん)「みんな知っとる。ここの奴らは。みんな冤罪じゃ。」
「なんだって???」
「おっさん!?おい!どういうことだよ!?」
ファニーがおっさんの胸ぐらを掴む私を止めに入った。おっさんはもう死にかけで、反抗したり、対抗したりする力もないようだ。
(おっさん)「ゲホっ!!!ゲホっ!!!ゲホっ!!!ゲホっ!!!」
(おっさん)「年寄りをもっと労われ。バカもん」
「元気じゃん」
(おっさん)「おまえさんが殺しかけたおかげで、仏さんから少し力をもらったんじゃ」
「で、みんな冤罪ってのは?」
(おっさん)「ここ、『スターグラビティ』は銀河警察や国になんらかの悪影響が出る恐れのあるもんたちしかおらん」
(おっさん)「一般人には関係ない事で捕まったもんたちの集まりじゃ」
「一般人に関係ないこと?」
(おっさん)「お主は、なんか、、、銀河、、、警察の、、、秘密に、、触れたん、、じゃ、、ないゴホッ!!!ゲホ!!!」
「大丈夫か!?」
(おっさん)「ウルセェ。黙って、、きけ、、」
(おっさん)「この星を、、、早く出たけれゃ、、、トーナメントにでろ」
「トーナメント、、」
(おっさん)「北と西を遮る壁で、、行っとる、、、看守、、になル、、ための、、」
「おっさん?」
おっさんは最後まで言えないまま、息を引き取った。




