インディペンデンスなあの日
(キイス)「それで、あの日の続きをもう一度話してくれ」
「は、はい」
「私、宇宙冒険家になりたくて、親と口論になったんです。前から両親のことは好きじゃなかったんですけど、それがきっかけで家出をしました」
「近くのネカフェに篭って、宇宙探索家チームの求人サイトの口コミを見たり、入隊申請をしたりして、返信を待っていたらお腹が空いて、近くのコンビニに行ったんです」
(キイス)「それで」
「ネカフェを出て、少し歩いたら、いきなり眩しい黄色い光に包まれて・・・」
(キイス)「気がついたらここで雑用として働いていた・・・」
「そうなんです!」
(キイス)「あのね、それは聞いた。何回も。ダニエルが何回も笑いながら説明してくれるから」
「・・・」
(キイス)「僕が聞きたいのはその後、光に包まれた後だ」
「いや、だから覚えてないんです」
(キイス)「はぁ〜〜〜〜」
キイスさんは姿勢を崩し、落胆するようにため息をついた。
(キイス)「僕らはね、君の入隊に反対だったんだ」
「え・・・?」
(キイス)「よく居るんだ。そういう妄言を吐いてチームの活動を妨げる奴が・・・」
「私が嘘ついてると・・・?」
(キイス)「未成年者は入隊した後、雑用が面倒くさくてサボる口実に、やれ「記憶を無くした〜」だの、「怪我をした〜」だの、「思ってたのと違う〜」だの甘っちょろいこと言ってやめてく奴らがね」
「そんな事!!!!!!!!!!」
(キイス)「無いって言うんだろ?どうせ」
(キイス)「でも、チームの方向性はリーダーの意向で決まる。みんなリーダーを慕っているし、感謝しているし、尊敬している」
(キイス)「誰もリーダーの意見に反対する奴なんていない。僕もそう」
「それって、なんか・・・」
(キイス)「危ないだろ?誰かの意見で全てを決めるなんてのは。正直言ってそんな組織、すぐダメになるだろうな」
キイスさんは眉間に皺を寄せ、頬の片側をわかりやすく吊り上げ下手くそな作り笑いを向けてきた。
「なら、誰かが意見を言えば!?」
(キイス)「誰も意見を言えないくらい、リーダーはいつも自分の発言に気をつけているし、考えてものを言っているんだよ。それが伝わってくるから誰も反対しない。信頼してるからね」
「・・・」
(キイス)「でも、今回の君の正式入隊の時だけは大揉めだった。なんせリーダー以外みんな反対したからな」
「え・・・?」
(キイス)「真っ先にリナが反対の声を上げた。未成年はダメだって。次にダニエルと僕、最後にいつも寡黙なモーラもうなづいていた」
「ええぇ〜〜、、、」
(だからリーダー以外のメンバーから距離を感じるんか)
(キイス)「でも、リーダーは君を受け入れた。珍しくなんの根拠も無しに、ただただ「入隊させる」とだけ言って会議は終わった」
「そう、だったんですね・・・」
(キイス)「僕は君がスパイの類では無いかと考えている」
「す、スパイ!?」
(キイス)「まあ、でも、そこまで優秀に見えないし、おそらく使い捨てのフリーみたいな感じだろうけど」
(違うけど・・・。失礼だな!おい!)
「違います!!」
(キイス)「まあ、僕らのチームは何も悪いことはしてないみたいだし、アラを探して冒険家になるための邪魔をしようったって上手くいかないだろうがね」
「いや、そんなことしませんし、無能スパイなんかじゃありませんから」
「私は本当に記憶が無いんです!ここへ入隊するときの記憶が!」
(キイス)「そうか、その件はもういい」
「その件はって、あなたは尋問員か何かですか!!」
(キイス)「そうだ」
「はぁ〜〜?冗談も通じない堅物ですね」
(キイス)「僕の係は調査員。宇宙についての調査はもちろん、銀河警察の組織や他チームについて調査するのが役目だ」
「はっ!そうですか!!」
バタン!!!!!!!
私は怒りに任せて思いっきり扉を強く閉じた。
あの日からの記憶が無いという事を誰も信じてくれない。じゃあ、ここに来た記憶が無いのはなんでなんだよ!
私はそのまま清掃道具を持って雑用を再開した。
[調査室]
(キイス)「どうやらこの動画は本物らしいな・・・」
デスク上の端末に出力された防犯カメラには、コンビニへ向かうノモが光に包まれた後、消えている映像が繰り返し映し出されていた。
・アンディ・キイス(銀河警察公安部秘密警察所属)
宇宙探索家に紛れ、国家転覆を目論むテロ組織、"宇宙海賊"について調査を進めている国から派遣された『本物の秘密調査員』である。
(キイス)「となると、やはりアリアがノモの入隊許可を強行したのは引っかかるな・・・」
(キイス)「それに、アイツ。おそらく、まだ何か隠してるな・・・」
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[Neo星 地上]
ノモが行方不明になってから1ヶ月が経った。
まだ、ノモからの返信は来ていない。
学園の先生たちにも捜索を頼んだし、私の友達やその知り合いにも声はかけてもらったけど・・・
こんなに誰も見てないことってあるの?
ネカフェの店員さんは確かに居たって言ってたけど、帰ってきてないって言われて、店の防犯カメラの映像も見せてくれた。
カメラにはちゃんとノモが映っていた。
ネカフェからコンビニまでは大体1km。道路には至る所に防犯カメラがついているが、警察に何度相談しても防犯カメラの映像は見せてくれなかった。
(???)「リリー!!」
(リリ)「あ!先生!」
(先生)「ノモさんは見つかった??」
(リリ)「いや、まだです・・・。警察に捜索願は出したんですけど、防犯カメラの映像はなぜか見せてくれなくて・・・」
(先生)「そう、ノモさん無事だといいけど・・・」
(リリ)「なんか、両親と宇宙冒険家になるって言って喧嘩した後家出したみたいなんですよね、」
(先生)「えぇ!?冒険家!?それはご両親が反対するのも無理ないわね〜、、」
(リリ)「そうですよね、私はなれたら良いねって言ってたんですけど、まさか本気だったなんて思ってなかったんです・・・」
(先生)「私は好きで先生って職業を選んだけど、今は別に働かなくても宇宙産業のおかげで暮らしていけるし、望んで働きたい若者なんて珍しいけど・・・」
(先生)「宇宙冒険家とは命知らずね」
(リリ)「そう、ですよね・・・」
(リリ)「毎年、事故で3万人以上亡くなるってニュースで聞きますしね・・・」
(先生)「事故扱いされているだけで、監視の届かないところで何してるか分からないことの方が多いじゃない?」
(リリ)「人体実験とか・・・」
(先生)「それは、都市伝説でしょ?」
(リリ)「そうですけど、ノモもしかしたら探索家に応募してそのまま・・・」
(先生)「・・・」
(先生)「ひとまず、落ち着きましょう。私も一緒に警察へ行って防犯カメラの映像を見させてもらえないか交渉してみます」
(リリ)「はい・・・」
用語集〜
・銀河警察
宇宙産業黎明期から存在する政府公認組織。
巨悪組織"宇宙海賊"の逮捕を目的として発足された。
・宇宙海賊
宇宙産業黎明期に宇宙資源を法外な価格で取引したり、未知な科学武器を量産し、国家転覆を目論む組織。
噂では一企業の社長から発足されたとか・・・。
・宇宙冒険家
宇宙産業黎明期に突如として現れた命知らずなスーパースター達の総称。
未知の生物や鉱石、資源、エネルギーを採取し、社会発展に貢献する人気者
・宇宙探索家
チームを作り、効率的に宇宙資源を採取する企業型インフルエンサー。
「才能」と「カリスマ性」を兼ね備えた"宇宙冒険家"を目指すため、自身のキャリア形成の場として地道に実績を積む者が多い。