第一章 一部 青い星
真っ暗な宇宙空間へ投げ出され、私は薄れていく意識と共に遠くへと飛んでいっていく。
爆発に巻き込まれたが、首の頚椎や頭部はやられなかった。宇宙制服の素材が変化し、すぐさま頭部と首周りが固定されたからだろう。
徐々に宇宙船が見えなくなっていく。
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・・
・・・
ズルズル、ズルズルズルズルズルズル
(・・・)
ボスッ、ボスッボスッ、ボスッ
気がつくと何かに引きずられていた。
私の足を咥えた生き物の歩く振動が背中越しに伝わってくる。
だんだん意識が鮮明になっていくが、同時に骨と筋肉の断面が露わになっている部分が引きずられていることに気が付く。
(痛い・・・!!!!)
千切れた右腕の断面が地面で擦れるたび、奥歯を噛み砕くほどの歯軋りをするほどの痛みが身体の全神経を走る。
走馬灯らしき情景が浮かんでくる。
学校でいじめられている時、両親に罵られている時、ネカフェで寝泊まりしていた時、そしてチームハインラインの記憶。リーダーの顔やリナさんと話している時の顔、ダニエルのでかい体。モーラの威圧感。
刹那に流れる記憶の中でリーダーと話をしていた時のことをなぜか強く思い出した。
(リーダー)「本当に困った時、誰かが助けてくれると思ってはいけない」
資材室で話していた内容だった。
あの時のリーダーの真剣な表情、オーラに私は圧倒された。
リーダーの「生命力」を直に感じ取ったのかもしれない。
走馬灯から戻ってきた私は覚悟を決め、事切れるギリギリまで足掻くことにした。左手の拳をグッと握りしめ、何かできないか思考を巡らせる。爆発の閃光で視覚と聴覚も失っているが、まだ脳は使える。
傷口が地面と擦れ、ズタズタになっているが、自分でも驚くほどの集中力で痛みが薄れていた。
(おそらくこいつは足音からして四足獣型の宇宙生物だ。ここで私が我慢できずに痛みに任せて叫んでしまったら、どうなるだろうか。臆病な生物なら逃げ出してくれるだろうか。いや、トドメを刺されてしまう可能性の方が高いだろうな)
(おそらくこいつは私のことを完全に死体だと思っているはず。つまり、隙がある)
(私の足(24cm)を口に咥えても全然隙間がある感じ、コイツは相当大きな口を持っている。歩くたびに少し地面が揺れ、足跡が土に残っていくこの振動の感じからして、大型の宇宙生物と予想できる)
(四足獣で大型。それに私を軽々と引きずれるほどの怪力。私の足をマルマル口に入れてももう一人小さい子供が入れるほどの大きな口)
脳内イメージに出てきた知っている動物は絶望感を深めるだけだった。
(虎・・・)
しかも知っている虎より数倍でかいだろう。
あのチームならここでさらに討伐するための策を何か練るかもしれないが、私には無理だ。
普通の虎ですら人間の私に勝てっこ無いのに、宇宙生物で虎に似た種類なんて聞いたことが無い。倒すなんて無理に決まっている。どんな特殊能力を持っているかも分からない。せめて視界が残っていれば、何か別の対応を考えられたかもしれないが、無いものをねだっても仕方が無い。
瀕死で無力な私には大人しく死を受け入れるしか選択肢は残されてないのだ。
少し大きめの小石の上を背中が乗り越える時の背骨に当たる痛みで、完全に集中力が切れた。
痛みは増し、抵抗する気も無くなった私は、宇宙生物の進むがまま、ひたすら引きづられていった。
(今度こそ終わったな・・・)
そもそも、星?に生身で不時着して生きていた時点で私の運は使い果たしていたのだ。私なんかがあんな良いチームに配属できたこと自体、運が良すぎたのだ。私の人生、こんなにうまくいくはずないもん。
(・・・・・・・)
リーダー達ともっと別の星を探索したかったな〜。
私の知らない料理を教えてもらいながら、みんなで囲って食べたかったな〜。
友達も、一人、欲しかった。
もっとマシな親が良かった。
やっとやりたい事に近づけたのに。
少しずつ変われるかもって思えてきたのに。
「グス、グス、まだ・・・・・死"に"たく"なあ"いな"あ"・・・・・」ボソッ
ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!
[緊急救助を実施します。付近の外敵を排除します。そのまま動かないでください]
紫と黄色に点滅しながら宇宙制服の背中部分が急速に膨らみ始めた。
目と耳が使えない私には、何が起きたのか分からず、ただ膨らんでいく宇宙制服に身を任せることしかできなかった。
両脇下からみるみる私を包み込んでいく。私を引きずっていた宇宙生物は急に膨らんだ宇宙制服によって弾き飛ばされた。気配的に、まだ近くを彷徨いているようだが。
球体のように膨らんだ宇宙制服は私をバブルボールのように保護し、まだ私の周囲をぐるぐると彷徨いていた宇宙生物を目掛けて攻撃し始めた。
爆発の振動とともに衝撃波が何度も私を包んでいる球体を小刻みに揺らしてくる。木々が薙ぎ倒され、周囲の植物が焼かれていっている気がする。
私の脈はどんどん弱くなっていく。
「助かったのか・・・・?」
私はそのまま意識を失った。
ーー[樹海入り口]ーー
(???)「うぉ!!?、何だこれ・・・!??一面焼き払われてるぞ・・・」
(???)「見て!!真ん中になんかある!!!」
(???)「んだあれ!?白い球体・・・?」
(???)「中見て!!!あの子がいる!!!」
(???)「おい!!そんな顔近づけて大丈夫なのかよ!?それ!?」
(???)「クソ!!!これどうやったら開くんだ!?弾力がすごくて手が弾かれる・・・」
(???)「ぶっ壊すなら俺にやらせろ!!!」
(???)「待て!!!下手に攻撃したら僕らも焼き払われるんじゃない・・・?」
(???)「・・・」
(???)「どこかに解除装置っぽいのありそ?」
(???)「いや、ねーな・・・」
(???)「ね!!ね!!どうしよう!!!中の人、右腕から脇腹あたりまでがゴッソリ無いよ!!!?それに全身酷い火傷!!!早く治療しないと死んじゃうよ!!!!?どうしよ!!!??」
(???)「おい落ち着け・・・」
(???)「確かに酷い怪我だな・・・。急がねーと死ぬぞ・・・」
[敵対反応検知無し。緊急ハッチ解除]
プシューーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
(???)「あ、開いた!?」
(???)「何で!!!???」
(???)「いいから早く!!!応急処置するから道具準備して!!」
(???)「OK!!」
(???)「治療は任せるぞ。終わり次第、とりあえずうちまで運ぶぞ」
(???)「大丈夫なのかよこんなやつ家に入れて・・・」
ーー[???の家]ーー
(???)「ひどい状態だったけど、とりあえずは大丈夫そう」
(???)「そうか・・・」
(???)「右腕はダメ戻せなかった。鼓膜と網膜もひどいからもしかしたら完治してないかもだけど」
(???)「なら、事情聞きたいし、起こすか」
(???)「えぇ!!!!ダメだよ!!!今は寝かせとかないと!!!!」
(???)「お前、治したんだろ?なら死にやしねーだろ。コイツが何者か知る方が先だ」
(???)「あ!!!ちょっと!!!ダメってば!!!!!」
バシっ!!!!!
「痛ったあああぁぁぁあぁぁっ〜〜〜!!!!」
(???)「よし、死んでないな」
(???)「強引すぎるって、、、、」
(っくっそ!!!!!誰だ!私の綺麗な顔を思いっきり引っ叩いてきたのは!!?)
(ってあれ、生きてるな・・・私)
(なんで・・・?)
(宇宙生物に喰われたんじゃ・・・?)
(目もぼんやりだけど・・・)
(見える・・・)
ベッドの脇から読書用ライトのようなものを私の顔に突きつけている人が立っている。
ぼやける視界には暖色系の紫色のライトと、その奥には誰かひとりいるようだ。
(あれ・・・?)
(誰かと会話していた気がしたんだけどな・・・?)
(???)「おい!!」
「!!」
「だ、だれ??」
(???)「そら、オメェだよ!!!」
(???)「あなたはどこから来たの?」
焦点が合わず、上手く見えない。
もっと近くで顔が見たくなり、立ちあがろうとしたら、体勢を崩し、ベッドから転げ落ちた。
(???)「おぉい!!!!?」
(???)「ほら!!やっぱ寝かせないと!!!!」
石畳の地面がひんやりしていて気持ちが良い。
急な眠気が再度訪れ、上半身がベッドから落ちたままの体勢でそのまま眠りについてしまった。
(やっぱり、もう一人いるのか・・・・・?)
ノモはそのまま眠りについた。
見知らぬ星へ難破したノモがこの景色を見るのは目を覚ます二日後だった。




