研修三日目②
ダニエルさんに邪魔されて部屋の中をよく見てなかったが、改めて室内を見回すと圧巻だ。
星別に分けられた棚とその上には、名前と種類別で分けられた収納ボックスに入った宇宙資源が綺麗に整理されていた。
(ダニエルさんって意外にマメなんだ)
(リーダー)「ダニエルって案外こういう地味な作業得意なのよね〜。私は無理」
(ダニエル)「リーダーの部屋汚いっすもんね」
(リーダー)「っるっさい!!!」 ブンッ
ドジャーン!!!!!
(ダニエル)「あぶね!!!!!」
リーダーはまあまあなサイズの宇宙鉱石を高さ7m程の棚越しにダニエルさんの方へ投げつけた。投げつけた鉱石が床に落ち、粉々に散った音がした。ダニエルさんからの怒号をまたもや無視して、リーダーは私に貨物室の案内を続けてくれた。
(お、怒らせてはいけないタイプだ・・・)
スペースガンを撃ってきた時もうすうす思っていたが、怒ると手をつけられないなこの人。
怒号を飛ばしていたダニエルさんはいつの間にか愚痴を垂らしながら作業に戻っていた。
私よりも一回りも二回りもある重そうな収納ボックスに採取した資源を次々放り込んでいく。ボックスが満タンになったら、クソでか箱を軽々と持ち上げ、移動させていく。
(この船の人たち全員バケモノだな…)
(ん・・?待てよ・・・?)
私の頭の中である公式が浮かんできた。
私 < 大きな箱 < ダニエルさん < リーダー
大きな箱すら持てない私はリーダーからすると赤子のようなものなんだろう。アレ一発で吹き飛ばせるんだから。
ジロリと横目で棚の隙間からダニエルさんを睨む。
その様子を不思議そうに眺めていたリーダーが声をかけてきた。
(リーダー)「ノモ〜!こっちこっち!こっちは鉱石のカテゴリー!!昨日のサニークリスタルはここにあっるよ〜!!早くサンプルを取って送らないとリナ、キレちゃうかもよ〜??」
「あ・・・」
その瞬間、監視されていたかのようにタイミング良くリナさんから通話が来た。
(リナ)「ノモ。あんた何やってんの?もう、頼んでから1時間以上経ってるんだけど・・・!」
「す、すみません、、」
(リーダー)「リ〜ナ〜!キレないでよ〜。ノモ悪くないよ!ゴリラがノモを邪魔してたんだよ〜」
(リナ)「キレてません。ノモのとこいるなら、手伝ってあげてください」
ブチ
通話は一方的に切られた。
甘っそうなチョコチップクッキーをボリボリ食べていたので、そんなに急いではいなさそうだ。
まあ、でも、気持ち急ぎめで昨日採取したサニークリスタルのサンプル化作業に取り掛かった。
(リーダー)「急がなくても大丈夫だと思うよ〜!私のクッキーをボリボリとリスみたいに頬張ってたんだから。多分暇なんだろ」
「で、でも」 (あれリーダーのクッキーなんだ・・・。めっちゃデカかったけど・・・)
リーダーは軽くため息をついて、「仕方ないなぁ」という感じを漂わせながら手伝ってくれた。私は持っていたサニークリスタルを渡した。サンプル化させるには砕かないといけないが、粉砕するためのそれらしき道具を持っているようには見えない。
(リーダー)「サニークリスタルは砕くと、破片が鋭利になるから気をつけてね。目に入ると失明しちゃうから」
「え」
(リーダー)「制服のフード被ってフェイスの機能をつければ大丈夫だよ〜」
リーダーは「ホラ」と言いながらフードを被り、フェイス機能をつけた。
瞬時にフードの空いている部分に透明なフィルムが貼られ、フルフェイス状態になった。
私も、同じように操作してフルフェイス状態にした。
リーダーは、私と他愛も無い話をしながら素手で鉱石を叩き割っていた。私は小型ドリルで何度も穴を開けて少しずつ壊しているが、ぜっんぜん壊れない。
仲良く会話しながら作業をしていたら、通話が来てから1時間が経過していた。ようやく純度の高い部分を見つけ、共有インベントリに追加した。
追加後、通知がすぐに来た。リナさんからだ。
「遅い」
の一言だけだったのを見て、なんだかおかしくなりリーダーと顔を向き合って目を合わせた後二人で吹き出して笑ってしまった。
手伝ってもらった礼を言い、貨物室から出た。
お腹が空いたので、ロビーへ何か食べ物を探しに向かった。
ーーー[宇宙船内3階中央ロビー]ーーー
頼まれた貨物室でも仕事が一段落ついたので休憩がてら、ロビーで軽食を作っていた。
「次の仕事は、モーラのところで資料整理か・・・」
(モーラ)「嫌ならいい」
「うぉお!?」
(モーラ)「変な声を出すな・・・」
(やべ、聞かれた・・・)
(モーラ)「自分の好き嫌いで仕事をするような奴はチームに入らない」
「す、すみません・・・」
(モーラ)「研究資料をしっかりと整理することで、後のリーダーのレポート作業がスムーズにできる。地味だが、大事な仕事だ」
「はい」
言ってることは真っ当なんだけど、私の中で第一印象最悪なんだよなこの人。
私は、嫌味にならない程度の声色であの質問をした。
「まだ臭いですか?」
「・・・?」
その言葉が地味に私の奥底で傷つき続けている。私は今ここで、「私は臭くない」と証明しておきたかった。
「臭くないが・・・?」
と心配げに聞き返された。「こいついきなり何言ってんの?」みたいなをされた。
モーラは「早くしろよ」と言い、その場を去っていった。
「・・・」
モヤモヤしたまま食べたサンドイッチはあまり美味しくなかった。
ーーー[宇宙船内一階研究室]ーーー
午後を過ぎ、大分筋肉痛にも慣れてきた。痛みは引いていないが急に痛くなら無いように気をつけ方を身につけた。
扉を開け、研究室へ入る。
(モーラ)「こっちで入力したデータの結果が出てるからそれをコピーしてファイル閉じしてくれ」
入って早々に、仕事内容だけを告げ、奥の部屋へ入って行った、モーラ。
私はその後を追いかける。
「え、今時そのなことしてるんですか?紙って貴重品ですよね?」
(モーラ)「リーダーからの指示だ。データと書類両方で管理しておく。貴重な資料や情報はまだ、紙でやりとりすることの方が多いらしい」
「え〜。国はお堅いですね」
(モーラ)「私も紙の方が好きだ」
「へ、へえ〜」
(モーラ)「分からんことがあったらすぐに言え。隣の部屋にいる。雑談はいいから早く取りかかれ」
「はい」
冷たい言い方。
THE ビジネスメーン!!って感じな対応。プライベートが謎なタイプだ。
仕事内容は簡単だが単調すぎてつまらない。使ったこともないコピー機との格闘に1時間もかけてしまった。
ようやくコピー機が言うことを聴き始めたと思ったら、気づくと3時間も経っていた。
(モーラ)「できたか?」
「もうすぐです・・・」
(モーラ)「かかりすぎだ。単純な作業だったはずだが・・・」
「コピー機なんて使ったことないです・・・」
(モーラ)「私に聞きにくれば良かっただろ?」
「いや、その・・・」
(モーラ)「・・・」
(モーラ)「もしかして、訊くのが恥ずかしいからとかじゃないだろうな・・・?」
ギクッ
的確に意中を当てられ、焦る。
「は・・・ハハ」
(モーラ)「誤魔化すな。いいか、誰かに分からないことを訊くのは全くもって恥ずかしいことではない。そんなことで馬鹿にする奴なんてここには居ないからだ」
(モーラ)「わからない事はその場で訊く。新人が一番してはいけないのは、勝手に自分で判断して行動することだ」
(モーラ)「新人なら分からなくて当たり前。こないだ学園を出たばかりなら尚更だ。訊いて、間違えて、注意されて、改善する。そうやって一人前になっていくんだ」
「はい」
(モーラ)「とにかく、恐れず訊け。とにかく分からない事があったらどんな些細な事でもいいから訊きに来い」
「分かりました・・・」
「では、その・・・・。手に持っているのはなんですか・・・?」
(モーラ)「・・・?食料だが?」
「え??」
(モーラ)「え??」
モーラの右手にはウネウネと動いている触手のようなものを持っていた。蛸では無い。おそらくどっかに生息している宇宙生物の足だろう・・・。
(キッショ・・・・)
「あ〜、、はい、、次からは分からない事、しっかり、訊きます・・・」
(モーラ)「ああ・・・?」
何が?みたいな顔して食ってんじゃねーよそれ。噛みちぎったところから黄色い汁見たいの出てるし・・・。
私は、急いでコピーした紙をファイリングして研究室を出た。
「キッショ〜・・・・おえぇ・・・」




