帰路にて
「いやぁ、短くも濃密な数日でしたね」
「そうだな」
「やっと長年の悲願だった女神の仕置きをすることができたじゃないですか。良かったですねぇ」
「……そうだな」
「それに今後の方針も決まったし、世界の謎の一端も垣間見れたし、その他いろいろ得るモノがありましたし。最後に気になっていた謎も解けてスッキリしました。ラドルさんも気になってたでしょ?」
それは、なぜジュレがウィルス=メガのワクチンとなる力を持っていたかという点だ。
ウィルス=メガが言っていたことだが、王家の者は異世界人とは少し違う特別な力を持つだけの容量があること。その容量がジュレはかなり大きかったことが理由のひとつ。そして、ウィルス=メガの憑りついたイザベラから異世界勇者召喚の秘術を伝授されるときに接触したことで、聖女イザベラの中で作られたウィルス=メガに対する抵抗力がジュレの中でワクチンを作りあげたのだ。
「相克っていうらしいですね。知ってました?」
「いや、知らん」
「世界には相性の悪い、その相手を殺すような力が存在すると。世界がバランスを取るためにウィルス=メガにも相克となる存在が生まれたということのようです」
「そうなのか?」
「ってことはですよ? 無敵と思えるラドルさんにも相克となる相手がいるということかも知れませんね」
「そんな者はいねぇよ。俺より弱ければ俺が勝つ、俺より強ければ俺が負ける」
それはとても単純で真っ当な考えではある。しかし、相克とはそういったことではない、強さとは違うこの世界の定めたルールなのだ。
「オイラが思うに、ラドルさんの相克となる相手はフォウだと思うんですよ」
「なに?」
ラドルの歩みがピタリと止まった。
「だってラドルさんの方が強いのにラドルさんが負けちゃうんですから。これを相克と言わずになんと言うんでしょうか?」
「違う、そんなわけはない! アレは負けであって負けじゃない!」
サルサの言い分にラドルはよりムキになって言い返した。
結果的に、ラドルはフォウより強いシメオンを倒した。しかし、フォウを相手にその力を発揮することはできるだろうか。それができずに負けるなら、やはりそれはそれをさせないフォウがラドルにとっての相克となる相手と言われても仕方がない。
「本気の本気を出せば俺の方が強い!」
「いや、この場合はその本気をフォウが相手だと出せないってことを言っているんです。強いかどうかよりも勝てるかどうかってことですね」
「うるさい、黙れ!」
ラドルは口では勝てないと踏んでサルサの頭を小突いた。
「痛いじゃないですか。ちょっとからかったくらいで。なんかずっと機嫌が悪いですね。女神に仕置きするって目的も達成できたのに」
魔王も殺さず、ランサイズとの戦争も回避し、女神の仕置きをしたうえで、聖女イザベラも無事だった。ガナードの死は悲しいことだったが、それでもこの不機嫌さの理由がサルサにはわからない。
「いったい何がそんなに不服なんですか? 来るときもガルファンのことで不機嫌でしたし、帰り道もこんなんじゃ道中疲れますよ、お互いに」
そう言われてラドルは渋々口を開いた。
「魔族の力への移行と、あの力の開放と制御が上手くいかなかったからだ。まだまだ修行が足りねぇっていう自己嫌悪だよ」
あの力とは、紋様が身体に浮かんだラドルのことだ。
「それに……」
「他にも?」
「女神の顔を変形するほど殴ってやるつもりだったのに一発しか引っ叩けなかったのが不完全燃焼なんだ。女神は操られていたってわかったら、それ以上は責めようもなかったしな」
長きにわたり溜まっていた女神に対するうっぷんを、晴らすことができなかったという理由だった。
「それを言ったらオイラもありますよ。オイラたちができなかった女神のいやらしい薄笑いをラドルさんが消してくれるって宣言したのに、ラドルさんは笑いを消すどころか逆に、張りての技で笑わせてましたから」
ラドルが繰り出した張り手の一撃【破顔の助け手】は、痛烈な痛みと快楽、そして癒しを与える仕置きの一撃だ。そのため、張り飛ばされた女神の顔は苦痛に歪むことなく、どちらかと言えば妙な笑顔で吹っ飛んでいたのだった。
「次の女神こそは顔が変形するほど殴ってから助ける」
「いや、無理でしょ。女神がウィルス=メガに侵された聖女だって知っちゃったんだから」
「いや、やる! でなきゃ百年のストレスは晴れねぇ」
「あの吸血魔の転生者をあれだけボコっておいてまだ晴れないんですか?」
「それ以上に殴られたし、勝ち方に納得がいってねぇんだよ」
こんな言い合いをしながらも、目的の達成とふたりの無事をサルサは喜んでいた。だが、ラドルの家に帰り着いたふたりの前には、またまた大きな事件が舞い込むのだった。




