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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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振出し

仰向けに倒れていたラドルの立ち上がる動作から、色濃いダメージがあるのだと見て取れる。


最初の手合わせでのボディへの攻撃。ガードの上からの左右の蹴り。そして頭部への直撃。これだけの攻撃でラドルは動きに支障が出るほどのダメージを受けてしまった。


どうにか立ち上がったラドルだが、直撃した頭部へのダメージは大きく、ふらっと倒れそうになるところを足を追っ付けて踏みとどまった。


その前に受けた左右の蹴りによって腕の動きが鈍ったことで、頭部への攻撃にガードが追い付かなかったのだ。


「まだ手は……、可能性はあります」


サルサが考えるその可能性をラドルは実行した。


「フリージング・リーパー・ストーム」


ラドルが腕を(あお)ぐと熱交換によって後方のサルサたちに熱風が吹く。舞台のシメオンは足元から吹き上がる冷風に包まれ空気と共に氷結した。


続けてラドルは叫ぶ。


「ファイム・ドラゴーン・ブレス」


模造ではなく召喚でもない、ドラゴンの力を借りた炎のブレスが氷結して動きの鈍ったであろうシメオンを襲った。氷結した状態から冷却系の力を使って防ごうという発想は浮かばないであろうことを想定しての二段攻撃は見事にハマる。


飛行魔法の長距離使用と特級勇者五人との戦いで著しく魔力を消耗していたラドルだったが、強大な格闘能力を持つシメオンに対して魔力を振り絞った。


決して得意ではない氷結の魔法はシメオンの油断からか防がれることなく決まり、火炎系の中でも高威力の竜の炎哮(えんこう)も直撃した。


「あれに……、耐えた?」


それは舞台を見据えるサルサの口から出た言葉だ。


シメオンを焼いていたと思っていた炎は弾け、そこにはたいしてダメージを受けていないと思われるシメオンが立っていた。


「今のはさすがに驚いた」


ダメージはなくとも表情には焦りが見られる。


「吸血魔という種族はな、魔法耐性が異常に高いんだ。さらに言えば魔法無効化率も五十パーセントくらいある」


「知っているさ。その五十パーセントを引き当てたかったぜ」


さすがのラドルもその表情に焦りの色を見せた。


「そんな強力な魔法を使えるとは完全に油断してた。最初の攻撃で格闘タイプだと思い込んだのが失敗だった。万が一を考えれば魔法は使わせない方がいいな」


魔法を警戒するということは近接打撃戦を仕掛けてくるということだ。ラドルにはもう強力な魔法を使う余力はないが、打撃戦で押されても敗北は必至だった。


「俺は魔法は得意じゃないから、ここからは最後まで接近戦で押し切らせてもらう」


そう言ってシメオンは拳を握り、それを見てラドルは構える。


不気味な笑みを浮かべながらジリジリと距離を詰めるシメオンに対して、ラドルも同じように前に出ていく。


この戦いが決着すれば漏れなく全員殺される。女神の勇者たちにとって信じがたいことなのだが、それが本当ならばラドルの勝利を願わずにはいられなかった。彼らはラドルへの敵意を忘れてただただ強く願っていた。


同時に動いたラドルとシメオンは互いに腕のガードを殴り合う。大振りではなく腕を小さく振っての打撃戦。互いに空を切る数が多いが、この距離での戦いを制しているのはラドルだった。


体格差もあるがラドルの方が回転が速く機敏であることが要因のひとつだろう。シメオンの強撃は脅威だが、ラドルの魔法を封じようと接近戦に持ち込んだことが逆にラドルの不利を少しだけ埋めていた。そうであっても、ときおり打ち込まれるシメオンの攻撃は、ガードの上からでもラドルの芯を激しく揺らしダメージを蓄積させてゆく。


これは最近のラドルの戦いの中で一番地味な戦いだった。


魔法を使わない接近戦。シンとの戦いでもこういった戦いはあったが、さらなるショートレンジでの殴り合い。ラドルより長身のシメオンが打ち下ろす攻撃をくぐって懐に飛び込んだところを膝蹴りが迎撃する。それをガードしたラドルの体が浮き上がる。その体を横蹴りで蹴り飛ばしたシメオンの魔力が高まった。


「グランド・クリメイション」


それは超上級の広範囲大業火魔法だ。上位術者であっても大半の魔力を失うほどの凄まじい威力を持つ。離れた位置に着地したラドルに向かってシメオンは笑みを浮かべた。


そのシメオンに対してラドルも笑う。


「突撃……、ガンダッシュ・バニコーン」


着地した瞬間、ラドルが形象魔法闘技によりバニコーンの力を顕現させ、弾丸のように跳ね飛んだ。魔法を放つ直前のシメオンの腹部へ目にもとまらぬ速度で頭突きがめり込み、シメオンはラドルごと儀式の間の壁を破壊した。


ガラガラーン


数秒後、モクモクと漂う煙の中からラドルがフラフラと現れると、背後の破壊された壁の中から一瞬だけ勢いよく炎が吹き上がった。


「うわっ」


「あっちー」


離れている仲間と異世界勇者たちにもその熱が伝わるほどの強烈な炎。それはシメオンが完成させた魔法がラドルの攻撃を受けたことで制御を失い、暴発したことによって起こった現象だった。


「やりましたねラドルさん!」


「やりやがった」


セイジは負けたと思っていただけに信じられなかった。だが、舞台に上がってこようとするサルサにラドルは手のひらを向けてそれを制した。


直後にガラガラと壁が崩れる。そこから出てきたのは自らの魔法に焼かれたはずのシメオンだった。


「よう、おまえはオレと違って運がいいんだな」


「そのようだ」


彼は暴発した自分の魔法に焼かれてはいなかった。五十パーセントの確率で魔法を無効化する特性が功を奏したのだ。幸運によって焼却を回避したシメオンだったがその表情は冴えない。その理由に繋がる質問をラドルに突き付けた。


「お前はなぜ俺が魔法を使うと読めたんだ?」


【ガンダッシュ・バニコーン】を受けたダメージで苦し気に腹部を押さえるシメオンに、ラドル質問を被せた返答をした。


「魔法が不得意だとか接近戦で押し切るとか言ったからか? まさかお前は敵が言ったその言葉をオレが信じた思ったのか? オレはただ、考えうる限りのおまえの行動を予想しただけだ」


少し首を傾けて答えたラドルにシメオンは驚きつつも敬意を感じていた。


「お前の方が俺よりもよっぽどプロだな」


シメオンは【グランド・クリメイション】は失敗したことで魔力の大半は失ない、ラドルの形象魔法闘技で多大なダメージを受けた。


こうして条件はほぼ五分となり、戦いは振り出しに戻った。


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