ラドル VS 女神の特級勇者たち
魔王シグナの四天王である獣人クワトラを倒したラドルは、当初の予定と女神に仕置きをしたいという彼自身の目的のためにランサイズ城へと向かった。
魔王と戦うタカトを手伝いに行くことも考えたが、多大な消耗を要する飛行魔法を使ってまでランサイズ城に急いだのは嫌な予感がしたためだ。ラドルは特別勘が良いというわけではない。そう心に焦りを感じたその衝動に従ったに過ぎない。
女神と魔王、サルサとタカト。これらを天秤に掛ければ彼がどちらを選択するかは言うまでもない。
サルサが女神に対して、仲間が到着するまで待ってくれないかとお願いしたとき、四から五キロメートルくらい離れたところにいると口にした。偶然にもそれは当たっており、ラドルはまだその辺りにいた。とうてい間に合うはずの無い彼がこのピンチに間に合ったその理由は、ドゥナたちと同じように転移門を使ったからだった。
命の危機を切り抜けられたのはサルサの下準備と駆けつけたラドルのおかげだ。どうにか耐え抜いたとはいえ、セイジとリリーナは戦闘不能となり、ファローとドゥナも消耗著しい。サルサだけは比較的元気だが元々戦力外の位置づけとなるので、この場にいる者の中で戦えるのはラドルひとり。
「あれ? ラドルさんけっこう疲れてます?」
「飛んで来たからな」
極度の魔力の消耗を察した問いに、ラドルは正直に答えた。そのやり取りを聞いていた仲間たちは彼の登場に大きな期待は抱けなかった。それは、女神の特級勇者五人を相手に、ラドルひとりでどうにかできると思えなかったからである。
ラドルの登場に虚を突かれている今が逃げ出すチャンスだと、ドゥナとファローは視線で確認し合い、ドゥナはセイジの脇を抱き、ファローは膝を付いたまま倒れているリリーナの腕をつかんだ。
「サルサさん、今が逃げるチャンスです」
ドゥナが小声で伝えたそのとき、ラドルが受け止めていたメイスが持ち上がった。
「グチャグチャに潰してやる!」
ラドルに攻撃を受け止められたことに苛立っていた巨漢の男が、再びメイスを振り下ろした。
「けっこう痛いんだぜ」
そう言葉を発したラドルはまたしてもメイスの猛撃を受け止める。その勢いでラドルが立っている石畳は割れて小さく石片が弾けるが、たいして動じることはなかった。
「ばかな! 俺の一撃を受け止められるわけがねぇ」
信じがたい光景を前に本人だけでなく他の特級勇者たちにも動揺が走る。
「予想と洞察と技術だ」
「いや、それ以上に力も絶対必要ですって」
サルサはラドルがなにをしたか理解して突っ込んだ。
巨漢のメイス使いのスキルの大半は、メイスが相手に当たったときにしか効果を発揮しない。ラドルの手は圧縮闘気によってメイスに接していないのでスキルは発動しなかったのだ。風圧ダメージ倍化、衝撃範囲拡張に対しては空圧魔法防壁で囲い込み、その力は上方向に逃がされたため、サルサたち周りの者に被害が及ばなかった。
このことによって筋力増加と武器強度増加しかスキルが発揮されなかったため、単なる筋力と重さのみの物理攻撃でしかなくなり、一撃目よりも楽に受け止めていたのだ。
とはいってもその威力は五人の特級勇者の中でも群を抜いて強い。それが証拠に足元の石畳は割れ砕け、ラドルの足はくるぶし近くまで埋まっていた。苛立つ巨漢の男がさらにメイスを振り上げると、ラドルはほぼ同時に飛び上がる。
「おまえは寝てろ」
そうひと言添えたラドルに殴られた巨漢の男は、体を二回転させて床に張り付き、そのまま動かなくなった。
この場を逃げることを算段していたドゥナとファローも、四人の特級勇者たちも巨漢の男が一撃で沈んだことに度肝を抜かれて動けない。
「マジか、ワイアットが一発で」
弓士の男によって巨漢の男の名前が明かされたとき、彼はすでにこの戦いから退場となった。
今がまさに退却する最大の好機なのだが、ドゥナたちは動けない。その動けない状態からほどなくして、彼は動かないことを選んだ。それはラドルならばこの状況でも自分たちの助力があれば残りの者を倒し、女神を抑えることが可能なのではないかという大きな期待が湧き上がってしまったからだ。しかし、この期待はドゥナの思惑通りにはいかなかった。
四人の勇者の中でいち早く立ち直ったのはサトルだ。ラドルが勇者ドゥナを超える実力の闘士だと察して全力モードに移行する。
「アッパーリミット」
使ったスキルは消耗の度合いに関係なく身体能力を最大に引き出すものだ。ただし、その効果を得るには少し時間を要する。
続けて魔道士の女性は後衛に下がって魔力を高めていく。彼女につられて残りのふたりもそれぞれに行動を移した。
槍士はそのリーチをいかしてラドルの間合いの外から突きの猛襲を浴びせる。ラドルが体を振りながら手で弾いていると、彼の後方から槍と重なって弓の一閃が飛んできた。
ドゥナたちがその攻撃に気が付き「あっ」と声を上げたときには光の矢は握りつぶされ、槍士も槍を掴んだラドルに振り回されて壁に叩きつけられた。
「食らいなさい、私が召喚するドラゴンの力を! ドラゴン・ローア」
これは彼女が使える最大級の攻撃である。
魔道士の背後に浮かび上がった朧げな幻影がドラゴンの姿へと変わっていき、ラドルに向けて開かれた口に光が溜まっていく。
その彼女に向けてラドルは手のひらを向けた。
「なにが召喚だ。おまえたち異世界人の命令を受けて召喚されるドラゴンがホントにいると思っているのか? ドラゴニックブレス」
ラドルの腕の周りに形成された竜と思しき形状の光も同じように開口し、二匹の竜は互いにブレスを吐き出した。一瞬の拮抗もなくドラゴニックブレスはドラゴン・ローアのブレスを突き破り魔道士の召喚したドラゴンを撃ち抜いた。
「そんな?!」
撃ち抜かれたドラゴンは爆発して魔道士を舞台から弾き飛ばす。
「そんなもん魔力を使って作られた幻影にすぎない。もちろん今オレが使った魔法もドラゴンを模しただけの簡易形象魔法だ。異界にいるドラゴンの威光を受けるだけでも難しいのに、ドラゴンを呼び出せるわけが……ねぇだろ!」
強めた語気と同時に右手に握ったままの槍を投げつけた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」
槍はラドルを狙っていた弓士の肩を貫通。儀式の間に悲鳴を響かせた弓士はヨタヨタとした足取りで後ろに下がり、舞台から落っこちた。
「滅せよ邪悪なる敵対者」
これまで必殺の一撃の力を溜めていた剣士サトルの力が解放される。
「オレは邪悪じゃねぇ」
煌々と光る剣は邪気を払い悪しき者を弱める力を秘めている。当然だがラドルにその効果はない。
「もう魔王両断剣はやめてくれ」
これまで二度受けた魔王両断剣に三度目があるかと考え、うんざりしながらラドルが漏らした言葉を、サトルは否定した。
「それを超える光の剣の奥義」
【アッパーリミット】のスキルによって上限いっぱいに高めた力は、ドゥナに相殺されたときを上回る。体に大きな負担がかかるのだが、ここぞというときに使う勇者が持ちうる能力に相応しいモノだった。
「なら受けて立つぜ」
「我が名はサトル。勇者の放つ全力の奥義を受けてみろ!」
剣はよりいっそう眩い光を放ち始める。天に突き上げていたその剣を担ぎサトルがラドルに走り寄る。
「ドラゴニックスケイル」
魔力凝縮形状構成魔法によってラドルの腕には竜の鱗に酷似した盾が生成された。
「必殺、ノーザンクロスブレーーーード!」
盾に接触した途端、剣に溜まった力が爆発。その威力が高密度魔力集積体の盾の強度を超えて盾を砕いた。
「たいしたもんだ」
光の刃は盾を砕いたもののラドルの腕で止まっている。光は徐々に力を弱めていくと、その光が消える寸前にラドルは腕を下げてサトルの間合いから離れた。
「耐えられた?!」
「これでもう『必殺』とは叫べないぜ」
溜めた力を使い尽くし、呆然とする彼に対してラドルは言う。
「おまえが使った技は一瞬の爆発力が武器だからな。その瞬間の力に耐えれば強靭な棒っきれとそれほど変わらん」
「オイラなら一瞬でペシャンコになる棒っきれですけどね」
そんなサルサの言葉は放心しているサトルには届かなかった。




