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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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待ち人

槍と剣のぶつかり合い。セイジの技は槍士(そうし)の技に弾かれる。円運動による槍さばきは攻防一体となりセイジを苦しめていたのだが、魔法を駆使することでどうにか戦っていた。

小癪(こしゃく)なっ」


相手にそう思わせるくらいセイジは魔法適性が高い。それをセイジは知っていたが、『カッコいいから』という理由で剣を使っているのだ。


セイジの体術も相まって押し切られるようなことはない。遠間からの魔法、距離を詰められた場合にはその距離をさらに詰め寄ることで槍の適正間合いを潰す。実力は相手が上でもこの変則性が槍士(そうし)のリズムを崩し、ペースを握らせずにいた。


残るドゥナとファローはベテランだけあって格上である相手に善戦していた。上回るのは技術と経験則。


ファローは必中のスキルを持つ弓士(きゅうし)を相手に魔法と短剣と盾を使って渡り合う。魔法で相殺し強化した盾で防ぐことで(しの)いでいた。


ドゥナの相手の剣士は連撃のスキルによって攻撃の空振りの切り替えしが早く、回避スキルによっていかなる状況でも体勢を崩さない。攻撃と回避での隙が無くドゥナは手数で圧倒的に押されている。だが、問題はそんなことではない。彼は五人の中で群を抜いた強さだった。SSランクとは言わないまでも特級勇者の中で頭ひとつ抜けている。


サルサが考えていた勝機はドゥナがひとりを倒したあとに、数の優位を確保して各個撃破だったのだが、それは一番困難なことだと察して作戦を練り直した。


勝機の見えない戦いを続けてはいたが、ふたりに焦りはない。それがふたりが持つ高い能力である広い視野と洞察力だ。


まともにカチ合えば長引くことのない戦いだったが、サルサの立ち回りが上手く機能していたおかげでなんとか拮抗させることができた。ドゥナとファローはそのサルサの立ち回りの意味を理解し、防戦に徹していたのだ。


「なかなか粘るじゃないか。さすがは勇者ドゥナだ。本心を言えば女神に牙をむくなんてして欲しくなかったよ」


剣の特級勇者がそうドゥナに語ってしまうように、彼はこの戦いを望んではいない。この発言からわかるように全力で戦っていないことも戦いが長引く要因のひとつだった。


ドゥナが九割の力で守りに徹しているのに対して剣士の男は七割程度の力で攻めている。もしドゥナが全力で攻勢に移行すれば、相手も全力で応戦してくるだろう。そうなれば相手に手傷を負わせたとしても戦いは早期に決着してしまう。


五対五のバランスが崩れれば、この戦いはあっという間に終わってしまうのは明白。そうならないためにドゥナとファローは全力を出してまで攻勢には出ずにいたのだ。しかし、それから数分後。


「ようやく決着だな」


少しだけ息を弾ませた弓士(きゅうし)がそう言葉を発して弓を引き絞る。


「俺たちに殺されるくらいならイザベラ様の言うとおり、この世界のために召喚の秘術の糧になる方がまだましじゃないか?」


慈悲のつもりだろうか。槍士(そうし)は槍を振り回しながら訴える。


「死んでも御免だね!」


間髪入れずにセイジが言い返すと、槍は回転するごとに力を蓄えていった。


五人の特級勇者がそれぞれ技を構える。


舞台中央に追い詰められたサルサたちは背中を合わせて立っていた。もう動き回ってかく乱することもできない。


五人の勇者が高める力を前に、彼らは成す術はなかった。


「イザベラ様、やめさせてください! 召喚の秘術は私たち王家の者が力になります。守るべき民の命を使って魔王を倒すなど本末転倒です」


柱に拘束されながら叫ぶルディを一瞥してイザベラは応えた。


「どのみちこの国の民は魔王軍との戦いに挑んでその命を散らすのです。ならば魔王の喉元に届きうる強力な戦力を得るために、その命を捧げる方が有意義というモノ。それができないのなら再び敵対することのないようにここで終わらせましょう」


なにを言っても無駄なのだと思える返答だった。女神とは思えぬ慈愛も慈悲もなく、恐怖すら感じる。


「さて、念のため聞いておきますが、ジュレ王女はどこにいるのですか?」


「それを知ってどうする?」


「いえ、やはり魔王の恩恵を受けたジュレ王女を放置すると安心できないので」


敵意のこもったセイジの言葉に女神は涼しげに答えた。


「しかし、この反乱の首謀者がまさか元勇者のドゥナ=アンツだったとは」


「イザベラ様。あなたの言葉にはふたつの間違いがあります」


「あぁそうでした、元勇者ではなく勇者に返り咲いたのでしたね。して、もうひとつの間違いとは?」


「俺は首謀者ではありません。支援者です」


イザベラはドゥナの発言を聞いて残りの四人を見回した。


「まさかジュレが呼び出した未熟な異世界人が首謀者だと?」


セイジはさらにきつい目で女神を睨んだ。


「そう、と言いたいところだが俺じゃねぇ。そいつがいなかったら俺がそうなっていただろうけどな」


「まぁいいでしょう。誰が首謀者でも勇者ドゥナ=アンツのパーティーほどの脅威ということはないでしょうから。では最後に言い残すことはありますか?」


そう言われてサルサは挙手する。


「貴方ですか? ではどうぞ。貴方ならなにか奇跡が起こる言葉でも言いそうですね」


この状況を楽しむイザベラにサルサはゆっくりハッキリと伝えた。


「今、オイラの仲間がここに向かっています。たぶんこの城から四から五キロメートルくらい離れたところにいるんじゃないかと思うんですよ。なので、その人が来るまで待ってくれたりしませんか?」


女神は一瞬だけ真顔になる。そしてサルサの言うことが馬鹿げていることに笑い出した。サルサたちを囲う勇者たちも笑う。


「こいつバカか。仲間が来るのを待てって? それで状況が変わるわけもないが、その助っ人と手を組まれたら面倒だ。それにもしも協力し合うことでこの状況が覆されるようなことがあったら俺たちはとんだ笑い者になっちまう」


「十分だけでいいんで。それにオイラたちは消耗してもう戦うほどの力は残ってません。協力して戦うなんてできませんよ」


確かにダメージこそ少ないが、肉体的にも精神的にも疲弊していて戦う力は残っていない。そんなサルサの言葉を笑い飛ばす面々は、彼の言った言葉の真意に気づいてはいなかった。


「さぁ時間です。遺言がないなら終わりにしましょう」


女神の言葉を受けて特級勇者たちがためていた力が開放される。


「では最後にひと言だけ」


サルサは咳払いをひとつ入れてから女神に言った。


「あなたのそのいやらしい笑顔をオイラたちが崩せなかったのは残念です。けど……、これから来るその人がきっと崩してくれると信じています」


「そうですか、ではその者が来たらこの笑顔で貴方たちの(しかばね)を引き渡してあげましょう。そのときの表情が楽しみです」


そう言って女神は視線で合図を送った。


「さらば、この国の勇者」


「ぶっつぶれろ!」


火炎旋風槍(かえんせんぷうそう)


「百八の聖杭(せいくい)


「バーニングバード」


特級勇者五人の大技が同時に放たれる。集約した力が爆発して一瞬視界が(さえぎ)られるが、それはすぐに晴れた。そして、その爆心地には少々焦げた五人ともうひとり。


「ギリギリでしたね」


「いや、タイミングを合わせて飛び込んだ」


それはサルサの待ち人のラドルだった。


「ホントに……来やがった」


そう驚いたのは、地の魔法によって屹立(きつりつ)させた岩壁によって弓スキル百八の聖杭(せいくい)を防いだセイジだった。彼が出した岩壁は弓スキルによってボロボロになっており、貫通したいくつかの矢が体を貫いていた。


リリーナはサルサから渡された魔法を強化する魔道具の腕輪を使って、どうにか敵魔道士のバーニングバードを相殺したのだが、その魔道具に魔力を強制的に吸い上げられた反動で意識を失ってしまった。


ファローは全員を覆う魔法結界を張りながら氷結魔法で炎の槍の威力を削ぎ、ドゥナは剣士の使った剣聖スキル【ジャッジメント・フラッシュ】を同じ技で相殺した。


「まさかこれが受けきられるなんて」


その言葉には驚きと敬意が込められていた。


相殺できたのはドゥナが真の勇者たる所以(ゆえん)だろう。その心が力となる聖なる光が、格上のはずの異世界勇者を上回っていたからだ。


「おまえら、全員生きてるか?」


「はい、なんとか」


ラドルの問いかけにサルサが答える。


「おまえだけなにもしてないだろ」


巨漢勇者の巨大メイスを受け止めているラドルがサルサに突っ込みを入れる。ラドルが言うようにサルサは両手で頭を抱えているだけだった。


「なにを言っているんです。オイラは力場拡張の魔道具を使ってみんなの力を増幅してますって」


「それは魔道具の力だ」


そんなやりとりをしているラドルを見て、特級勇者たちは自分たちの同時攻撃が耐えられたことに驚いていた。その中で一番驚いていたのはラドルに渾身の一撃を受け止められた巨漢の男だった。


「こいつ、俺の一撃を受け止めたのか?!」


彼は現在もメイスに力を込め続けていた。


「てめぇはなにもんだ?!」


「それと同じ質問をさっきもされたな。魔王を止めるもんだと答えたが、今は女神に仕置きをするもんだ」


ここで初めてラドルと女神は視線を合わせた。このときの女神の表情は……。


「返り討ちにしてあげましょう」


言葉には少なからず苛立ちの感情が込められていたが、その表情は変わらず笑顔のままだった。

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