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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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走るサルサ

女神の呼び出した異世界の特級勇者はまだ未熟であったが、各ギルドで三人いるかどうかという(まれ)な強さでるある。ただ、彼らがラドルが戦ったトウヤやシンのように規格外ではなかったことが不幸中の幸いだった。


とはいえ、専技が暗殺要素に特化しているサルサにとっては戦いたくないタイプであり、同ランクなのがドゥナひとりであるこの状況は厳しい。


「相打ち覚悟の急所狙いもあんたら相手じゃ意味を成しませんしね」


ブレイブシステムの恩恵は、サルサたちの偶発的な勝利や一発逆転を阻害する。


「砕けろ!」


勝利の方程式を探りながら愚痴るサルサに鈍器が振り下ろされた。その攻撃をギリギリで避けようとしたサルサだったが、嫌な予感に襲われて大きく飛び下がった。


そんな彼の体を風圧が揺さぶり、砕け飛び散った石畳が散弾となって襲う。


「自分には飛び散らないなんてズルいですね」


両手でいくつかの石の破片を叩き落としながら後方にステップするが、巨漢の異世界人は一歩踏み込んだところからメイスを横薙ぎに振るった。


「へしゃげろ!」


速さもさることながらりリーチが長い。攻撃を避けると反撃が間に合わないのだ。


風圧に巻き込まれ、よろめくサルサが、すぐさま間合いを詰めようとするのだが、それは実行されなかった。反撃できないもうひとつの理由は巨大な盾を構える相手に攻撃すべき場所が見つからないためだ。


「オイラのナイフや短剣じゃ、あの盾を破るのは難しいなぁ」


さすがのサルサもこのレベルの異世界勇者を前にしては、出るのは愚痴と冷や汗だけだ。


巨体に見合った大きさのメイスは通常規格の約二倍。それを怪力と長いリーチが生み出す遠心力による打撃は計り知れないのだが、おそらくそれだけではないとサルサは推測した。


「もしかして、その打撃にスキル乗っけてませんか?」


巨漢の男はニヤリと笑う。


「そうだ、俺は打撃力特化のスキル振りをしている。筋力増加、衝撃力増加、ダメージ増加、武器強度増加、風圧ダメージ倍加、衝撃派範囲拡張」


「そんな極端にしたら速度と防御に問題が出ませんか?」


「それを補うためのこの盾だ。とは言っても力とリーチで攻撃速度は十分に補える。肉体の頑強さは見たままだと思ってもらおう」


盾を構えてメイスを振り回すという戦闘スタイルに特化したスキルと装備は、単純ながら常識の枠を超えていた。必死になればどうにかならないでもないが、今は優先すべきことがあるため、ひたすらに避けるしかなかった。


「予想ですけど、特別な攻撃スキルはないんじゃないですか?」


「そうだ、もはや通常攻撃が必殺の一撃だからな!」


背中を向けて逃げるサルサの背後から襲いくる巨大なメイス。あわや潰されようかという瞬間サルサは側方に跳んだ。その先には防戦一方のセイジがおり、体当たりするように抱きかかえて一緒に転がっていく。セイジの対戦者である槍士(そうし)の突き出した槍は空振り、その側面からはメイスによって砕かれた石畳の破片が槍士の背中を襲った。


「ぐはっ」


数発の石片を受けた槍士は振り向いて怒声を発する。


「馬鹿野郎、周りをよく見やがれ!」


「悪い悪い、ちょこまかと逃げやがるもんだからよ」


セイジを抱えたサルサは体制を立て直してすぐに立ち上がる。耳元でひと言ささやいたサルサはセイジから離れ、すぐさま巨漢のメイス使いに向かって駆けていく。


「おいっ」


そう叫ぶセイジの左手には小瓶が握られていた。彼は特級勇者サトルの【パラライズ・プリズンウォール】に捕らわれたときの麻痺効果がまだ残っていたのだ。それを察してサルサは彼に小瓶を持たせた。


「気が利く人だな」


セイジは親指で小瓶の栓を弾いて一気に飲み干した。遅効性なのだが甘みと苦みが口に広がり喉を流れていく感覚だけで、なんとなく元気になった気がする。そう感じさせるのは上級ポーションの良いところだ。


「行くぜ!」


気合と共に小瓶を槍士に投げつけると、彼は槍で小瓶を軽く弾いて低く構えた。それは、あきらかにセイジを迎え撃つためのスキルを発動させる構えだとわかる。


一定の距離を取って円を描くように走るサルサを直線的に追いかける巨漢メイス使い。いかに強いとは言ってもそれは攻撃力という一点であって、逃げ一辺倒のサルサを捕まえるのは容易ではなかった。


その近くでは魔法士とリリーナが魔法を打ち合っていた。


「バーストファイヤー」


「エアロガン」


女性魔道士の放った炎の魔法を風の魔法で撃ち返すリリーナ。魔法の扱いにおいては一日の長であるのだが、いかんせん威力に差がある。


リリーナの風魔法は炎を弾け散らすが、その余波が彼女を襲う。マジックアーマーによって大したダメージはなかったが、リリーナは強い焦りを感じていた。


相性的には打ち勝つはずの【エアロガン】が相殺しているとはいえ押し負けているため正面からの撃ち合いはあまりに分が悪い。回避しながら隙を突きたいのだが、舞台という限られたフィールドで、さらに仲間たちが乱戦していては簡単ではない。


リリーナは相手の魔力の高まりと現象の初動から次の魔法を予想する。それに対応する魔法を瞬時に導き出して魔力を高めて法名を発した。


「ヒートウォール」


かざした手のひらから熱波の盾が広がる。それは相手が水属性の氷系統の魔法と使うと踏んだからだ。


「アイスストームアロー」


予想は的中し魔法士の周りにはいくつかの氷の(つぶて)が生成された。


「うそ……」


その大きさと形状は一般的な質量の二倍以上ある。つまり、リリーナのヒートウォールの熱と衝撃では消しきることのできない。彼女はそう確信してしまった。


「あなたの経験値いただきます」


リリーナに向かって振るった腕に合わせて射出された刹那、リリーナは目をつぶり全力でヒートウォールに魔力を込めた。そのさなか、足元に滑り込んだ何かに転ばされ、背中をやさしく受け止められた。


「ごわぁぁぁぁ!」


直上で叫ぶ声に驚いて目を見開くと氷の破片がきらめいており、サルサが戦っていた大男がひっくり返った。


「ご無事ですか?」


背中から支えるサルサの言葉に呆気にとられながら、リリーナは「はい」と返事をする。


リリーナを狙った巨大な氷の矢たちは標的を失い、その後ろから迫っていたサルサの対戦相手に直撃したのだった。


「それならもう一発」


魔法士の女性は再び集中して魔力を高めていく。リリーナはすぐに対応しようとするも、サルサはポケットからなにかを取り出して魔法士の足元に投げ放った。


「これ、高いんですよ」


「シューティングブレイズ」


それは指先に集中した炎の力を撃ち出す第七位階の魔法だった。一点集中したその威力は魔力結界も魔法の盾も貫いてしまうため避けるしかないのだが、その弾速が高速であるため回避も難しい。


後ろから抱くサルサの腕を強く握り目をつぶるリリーナ。しかし、またしても叫び声が響き、彼女はその声を確認するために片目を開けた。


目の前には自ら放った魔法が拡散乱反射して慌てふためく女魔法士の姿があった。


サルサが足元に転がしたのは超高級魔法防御の魔道具。噴出した細かな粒状の鉱石は魔法を反射させる効果がある。これを纏えば質量系魔法以外はほぼ無効化できるのだ。それを術者の周りに散りばめればご覧の通りで魔道具の結界内で魔法使った女魔法士は、内部で乱反射した自分の魔法に襲われてしまったのだった。


魔法は特殊な鉱石の砂粒に反射するたびに減衰し、一部は結界の外に飛び出して少しずつ消失していった。


「あ、ありがとう……ございます」


「どういたしまして。でもまだ終わってませんよっ」


さらに耳元でボソッとひと言付けたしたサルサは背中をポンと押した勢いでリリーナを立たせ、自分もすぐに立ち上がり駆け出していく。それを目で追う彼女の手には何かが握らされていた。

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