崩れない笑顔
ミスっ72話を飛ばしてしまいました。
良いお話なので、ぜひ読んでみてください。
「大召喚は後日にするとして、今回はこの場に居る者の命を使って召喚術を使ってみましょう。ルディ王女と侵入者四人。それと、このブラッドストーンを使えば特級品を三人か四人は呼べるのではないかと思います。場合によっては特級以上の超特急品も期待できます」
「そうか、四人か」
なにかを察してドゥナが呟いた。
含みある言葉を口にしたドゥナの様子を訝しんだサトルと女神に向かって小型のナイフが飛んでくる。そのナイフをサトルは斬り払い、女神の結界が二本を弾いた。
「セイジ!」
サトルが床から剣を手放したことで魔術結界が解かれたとき、ドゥナが声を上げたのだが、セイジは一歩早く動きだしており、しびれたその体でサトルの剣を遠くに弾き飛ばし、彼に向かって剣を突き付けた。
「誰です?!」
叫ぶ女神に向かって飛んできた三本目のナイフは結界を破って肩に刺さり、彼女が手に持っていたブラッドストーンは石畳に落ちて転がる。
「いやはや、女神ってのは恐ろしいもんですね。怖くて逃げだそうかと思っちゃいましたよ。でもね、その笑顔を崩してみたくなって」
そう言ったのはセイジの後ろに着地したサルサだ。
セイジやドゥナたち四人は、魔術陣に拘束されたときに後ろでサルサも一緒に拘束されていると思っていたのだ。しかし、サルサは儀式の間に入るなり、すぐに状況を把握して気配を殺し潜んでいた。
「ルディ王女と正義の使者ドゥナさんたちの命を使って、特級品の勇者を召喚しようとするとは。こんな大きなブラッドストーンまで用意しているなんて」
足元に転がっているの両手でも覆いきれない大きさのブラッドストーンを拾い上げたサルサは、その膨大な呪力に対する驚きを大げさなゼスチャーで示した。
「あんたが魔王に首を差し出せば、大召喚の秘術なんて必要ないんですがねぇ。でも、イザベラさんを死なせるわけにはいかないので、あんただけをどうにかしないといけません。どうしたらいいですか?」
女神は返事を返さず、肩に刺さったナイフを引き抜きた。
「ライブタル・ケアリー」
続けて呪文を唱えず白魔術を行使しすると、肩の流血は止まり傷は見る間に癒えていく。
「できたらそのナイフ返してもらえませんか? 特注品ですごく高いんです」
すると女神は穏やかな表情でサルサにひょいとナイフを投げて渡してから言った。
「貴方たちの目的は大召喚の儀式を止めることですか?」
「そうです」
「そんなことをしたら魔王によってこの国は滅ぼされてしまいますよ」
「その点ならご心配なく。あんたを倒してイザベラさんをこの国から逃がせば魔王はこの国に攻めてくる理由がなくなります」
「私を倒してイザベラを逃がす?」
女神は表情を変えずに首を傾げた。
「だってあんたは病原菌のメガさんなんでしょ?」
イザベラは変わらぬほほ笑みを湛えたまま、一瞬だけピリついた気配を発した。
「この状況ですよ。おとなしく降服してください」
これに応えたのはイザベラではなく勇者サトルだった。
「降服? 女神の勇者が悪に屈するものか」
「なんだと?!」
「そんな体で剣を向けられても怖くはないぞ」
いきり立つセイジにサトルは冷静に切り返す。
勇者ドゥナが率いる仲間と異世界人セイジ、さらにラドルの相棒であるサルサの五人が相手では、いかにサトルが特級勇者であっても勝利は難しい。しかし、サルサの提案にサトルは応じない。対して、観念したかのようにイザベラは静かにたたずんでいる。そんな彼女にドゥナは告げた。
「イザベラ様。神殿で会ったときの、あなたが聖女と呼ばれていたときは、そんなに冷たい気を発してはいませんでした。その頃の俺はまだ駆け出しだったけど、あなたの言葉に励まされたことで目標を持って励むことができました。勇者の称号を得ることができたのはそのおかげだと思っています」
冷たい気。それはタカトが女神アミに感じたモノと同じだ。柔らかく穏やかなほほ笑みから発せられるのは、見た目に反して冷たく感じる心無いモノ。
「私の目的は魔王を倒す勇者を召喚すること。魔王シグナひとりに手間取っている場合ではないのです」
女神イザベラにサトルが続く。
「不意を突いたつもりなんだろうけど、タイミングが悪かったな」
「どういう意味だ!」
サトルに切っ先を突き付けるセイジが問い返したとき、皆は背後に魔力を行使する気配を察した。
「イグニートジャベリン」
飛び退いたセイジの居た場所に炎が刺さり燃え上がる。立ち上がったセイジが振り仰いだその先には、サトルと同じ特級勇者の制服を着た三人の男とひとりの女が立っていた。
「誰だそいつらは」
「イザベラ様の敵ですね」
「魔王じゃねぇな」
「経験値いただきます」
彼らは女神の側近である特級勇者たち。その場にいる誰もが感じたのは彼らの強さが勇者ドゥナに匹敵する実力者であること。
「これはまずいですね。もしかして、我々の奇襲を察していたんですか?」
「私は女神ですから。ただそれだけです」
イザベラは目を細め、よりいっそう口角を上げた。
舞台に降りてきた特級勇者たちがサルサたちを囲い込む。その威圧が彼らに急激な寒さを感じさせたのは、わずかながら絶望が頭をよぎったからだ。
「オイラたちをどうする気です? 殺しますか? 条件付きで見逃してくれるとかって交渉の余地は?」
サルサの逃げ腰の質問に女神は首を横に振った。
「私の存在を知っている者を外に出すわけにはいきません」
「魔王に知られた以上もはやあなたの存在を隠す意味はないのでは?」
女神の言い分に意義を唱えると、女神は表情と声は変えずにその言葉と視線に、いっそう強い意思を込めてもう一度言った。
「私の存在を知っている者を外に出すわけにはいきません」
五人の特級勇者はそれぞれ、剣、槍、弓、鎚矛と盾、女性は杖を装備していた。その武器から得意とする戦い方を予想し、ドゥナは剣士、セイジは槍士、ファローは弓士、リリーナは魔法士と思われる女性と、受け持つ相手の前に移動する。
「そうなるとオイラの相手は……」
見上げるほどの巨漢。恐らく二メートルを超える身長とその頑強そうな体は、一部の獣人族に匹敵する。
手に持つのは通常規格を超える大きさのメイス。左手に持つ巨大なカイトシールドはその大きな体の大半を覆い隠している。それを見たサルサは異世界人の力押は苦手だと、頭の中で愚痴っていた。
彼の言う力押しというのは一般的な『筋力』や『攻撃特化』というようなモノはなく、異世界人が持つ『能力の剛』のこと。以前ラドルが闘ったトウヤという魔法使いのように、技術を無視してすべてをひっくり返すような力のことだ。
こういった巨体の持ち主が鈍重であるというのは、彼ら異世界の者にはまず当てはまらない。
技術的な戦いならば変則性も含めて評価すると、サルサはAランクの上位に分類される。いかに動きが速くても目に留まるなら、気配と合わせて対処のしようはある。しかし【クリティカルキャンセラー】のような恩恵に守られ、技術の練度も必要なく使える数々の上位【スキル】の加護を得ているとなると、もはや技術では対処のしようがない。
この苦境をどうにかするためにサルサは必至で思考を巡らせていた。




