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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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最弱の勇者

目の前にいるヒューゴ達と面識のあるセイジは彼らを見るなり飛び出そうとする。しかし、すでにサルサがヒューゴに刃を突き立てていた。


喉をかき斬るサルサの刃を受けてクリティカルキャンセラーの紫の光が辺りを照らす。その光を反射させたセイジの剣が、後ろで戸惑うレンに向かって振り下ろされた。


「こいつらは女神の取り巻き異世界人だ」


レンの左腕の手甲に阻まれながらセイジが叫び、それを聞いたドゥナも剣を構えた。


「てめえはあのときの!」


「そう、あのときの者です」


ヒューゴに返すサルサの言葉は暗く冷たい声だった。


転移門が開放されるのを塔のそばで隠れて待っていたドゥナたち。ガナードが城内に入ったことを確認したサルサが合流すると彼らは塔に潜入。塔に常駐する兵士を無力化して転移門魔術陣のある秘密の地下へと下りて行った。


その魔術陣の開放を待つさなか、最悪の事態である待ち伏せを想定して転移門の起動と同時に魔法の盾を展開。それが幸いしてヒューゴの放った【アイスブリッツ】の攻撃を阻止し、ガナードへのトドメも回避できた。


「ガナード君!」


その足元には血だまりがありガナードが横たわっている。それを見たリリーナが名前を叫ぶのだが、ガナードは目を閉じたまま反応しない。


「リリーナ治療を!」


魔法の盾を張るファローの言葉を受けて自分がやるべきことを把握したリリーナは白魔術による治療を始めた。


「乱れる気、滞る力、途切れを繋いで流れよ。ライブタル・ケアリー」


転移門魔術陣のある決して広くはないこの場所で、サルサとヒューゴ、ドゥナとアキラ、部屋を出た回廊ではセイジとレンが戦っていた。


「勇者ドゥナ=アンツ。知ってるぜ、元勇者だろ」


「そうさ、自分の無力さを知って勇者の称号を取り下げた。でも今日から勇者に返り咲こうと思う」


「今日から? なんでだ?」


疑問を投げかけるアキラにドゥナは普段と違う厳しい表情で答える。


「お前たちのような非道なおこないをする者が、勇者を名乗ることに異議があるからだ」


「女神を(おびや)かす奴を守るセイジ。あいつらと組んでいたのがこの国の元勇者だったとはどんだけひねくれた物語だ。そのお前に非道だと言われる筋合いはない。世界を救う女神へ盾突くお前たちの方がよっぽど非道だ。魔王を倒す勇者を召喚してなにが悪い!」


自らの存在を肯定するために言い返すアキラ。鞘に納めたまま腰に構える剣はラドルによって防がれた雷鳴剣。


この技は彼が得意とする突進抜刀のスキルであり、自分の力の証であった。その技が抜刀すらさせてもらえずにラドルに敗れてしまった。だからこの技でドゥナを倒し、その敗北を払拭するために、彼はこの構えを取っていた。


対してドゥナは剣を両手で上段に振り上げる。その構えは半歩踏み出した右足に体重を乗せるという少し奇妙なものだった。


技巧派の元勇者ドゥナが取った防御と回避を捨てたと思われる上段の構えは、真っ向から打ち勝つことで、かつて自ら取り下げた勇者の称号を再び掲げるための心意気から出た構えであった。


「地元勇者ごときが女神に召喚された勇者に勝てるものか!」


「俺が得た勇者の称号は俺のこれまでの行動からみんなが授けてくれたモノだ。お前たちのように安くは……ない!」


立ち込める闘気が一段と激しくなったとき、アキラが踏み込みドゥナの剣が振り下ろされた。


交錯したふたりのあいだに小さくオレンジの光が(またた)いた瞬間、剣を握る腕が宙を舞った。


「うぐっ、うあぁぁぁぁぁ」


痛みの叫びを上げたのは異世界勇者のアキラだ。抜刀した右腕が肘下から斬り落とされて残った上腕は空を切った。


「魔王、両断剣。本来は魔王を斬るための技だ」


ブレイブシステムがコピーしたスキルではなく、勇者の称号に見合う自分でいるために磨いてきた闘技。技術と意志によって威力を増したその技は、部位欠損を防ぐアキラのシステムガードを超えて右腕を斬った。


雷鳴剣の高速度に対応し、体を下げながら剣を引き落とすことで回避と切断力向上を両立させ、ドゥナは異世界勇者に勝利した。そして、自ら下ろした勇者の称号を再び(かか)げるのだった。


「魔王を倒す者だけが勇者ではない。俺は俺のできることをやる。今までそうしてきた俺にこの称号は与えられたのだから」


その横で戦う暗殺者と殺人狂者のふたりのあいだでは、ときおり紫の光が(またた)いていた。


「なんだ、なんなんだてめぇは」


焦り声を出しているのは殺人狂者のヒューゴ。紫の光が(またた)くのは異世界人のヒューゴが持つシステムの恩恵である【クリティカルキャンセラー】が働き、即死級の攻撃に抵抗した証だ。

「なんだよ、この光は」


急所への強撃によって発する紫の光に自問するヒューゴ。その言葉にサルサは答える。


「それはあんたたち異世界人が持つ特殊なガードシステムってヤツです。厄介なことに狙われれば即死する場所に強撃を受けたときに発動するんですよ」


スルスルと死角に入りナイフを突き立て斬りつけるサルサ。その攻撃を受けながらも死なないヒューゴは冷静さを取り戻していった。


その感情の変化を察してサルサはヒューゴに告げる。


「言っておきますけど不死身ってわけじゃないですからね。あんたの命の数値を確認すればわかりますよ」


ヒューゴの体にまとわりついて戦っていたサルサは距離を取って手のひらで確認することを促した。


「ステータス」


サルサを警戒しつつステータスウィンドウを開いたヒューゴは、残っているHPの数値を見て顔を引きつらせた。残りのHPは四十パーセントを割り込み、もう少しで視界の周りがオレンジ色に染まる危険域を知らせる直前だったのだ。


「ばかな、もうこんなにHPが減っている」


戦いが始まって二分弱。サルサの持つ小さなナイフで五、六回程度突かれ斬られただけでここまで減っていることに驚いていた。ヒューゴは気が付いていなかったがHPだけではなく防御力もいくらか減少していた。


「オイラも詳しくはわかりませんが、その命を守る恩恵を失うとあっさり死ぬらしいですよ」


そう脅すサルサの言葉にヒューゴは肝を冷やした。彼はようやく気が付いたのだ。今おこなっていることが相手をいたぶる攻撃ではなく、自分の命を敵に(さら)す戦いなのだと。


吹き出す冷や汗と同時に頭から血の気が引く。唐突にやられたラドルとの戦いとは違い、少しずつ迫る敗北と削られていく命をその目で確認してヒューゴは固まった。


「来るな、来るな!」


腰を引いて短剣を前に構える姿は戦う者の姿勢ではない。そんな彼にサルサは一歩前に踏み寄った。


「来るんじゃねぇ! レイジング・ローズウィップ」


自らを囲って守りつつ外の者たちを荒れ狂うバラのトゲに取り込み切り刻む魔法。そのトゲがこの部屋に居る者すべてに襲いかかる。


ガナードを守り癒すファローとリリーナと腕を切られて倒れているアキラをも巻き込む勢いで広がる棘のムチだったが、ドゥナとサルサによって次々に切り落とされていった。


「ドゥナさん、ありがとうございます。おかげで半分の労力で済みました」


「まさか、今のを全部斬ろうと思ってたのかい?」


呆れ具合を声としぐさで表すドゥナ。サルサはふざけた笑顔で応えて見せた。


「俺の魔法を全部斬ったのか?」


「そんなに驚かないでください。あんたを圧倒したラドルさんの相棒やってるんですから、これくらいはできないとね」


当然といった涼しげな顔でそう話したサルサは、冷ややかに変えた視線でヒューゴを見た。


「さて、脅しは十分に効いたようですし、ここからはお仕置きといきましょうか」


この言葉にヒューゴが反応したときには再び紫色の光が瞬いていた。


「この光を発せさせる攻撃って難しいですよ。ただ急所を斬ったり突いたりしただけじゃそういう判定にならないみたいで」


ヒューゴは怯えて完全に戦意を喪失してしまい、両腕で顔や首や胸を覆ってうずくまってしまった。


全身は切り裂かれ、その姿はヒューゴが傷つけたガナードと遜色がないほど血まみれになっている。それでも動けるのは短時間で痛みを消す【ペインイレイサー】や切断力を落とす【ブラントブレイド】、衝撃を緩和する【インパクトダンパー】といったスキルのおかげだ。


心に刻まれる死への恐怖を緩和するシステムの恩恵も限界を超え、命へ届きうる攻撃を受け続けたヒューゴの心は完全に折れてしまった。


小さく床で丸まって固まるヒューゴをサルサは見下ろす。


「自分がしてきたことをやられる気分はどんなもんですか? それをあんたが忘れたらまた味合わせてあげますんで、心しておいてください」


そうヒューゴに伝えたサルサはすぐにリリーナの元に走り寄った。


「ガナード君はどうですか?」


戦いを終えたドゥナと魔法の盾を解いたファローも加わって白魔術による治療を続けるのだが、ガナードは目を開けない。サルサもポーションを取り出してガナードの口に少しずつ流し込む。


「さぁ飲んで下さい」


残念なことにこのポーションは異世界の少女リンカが作った超強力なチートポーションではなく市販品だった。


三人の治療によって傷はかなり塞がってはきたが、流れた血液が多すぎる。痛みと恐怖、そして任務を成し遂げたことで気力もみなぎらない。


「ガナード君、気を確かに持ってちょうだい」


リリーナの呼びかけにガナードはようやく小さなうめき声を出した。


「ちくしょう、逃げられた」


外でレンと戦っていたセイジが部屋に入ってくると物々しい気配で治療する仲間たちに気が付き走ってくる。


「おい、ガナード」


セイジの呼びかけにガナードは「良かった」と応えた。


「みなさん……あと……は、お願いします。私は少し、やす……みま……す」


「ガナード。君のおかげで城内に入ることができた。ありがとう」


ドゥナは血まみれの手を握って礼を伝えた。


「お礼を言うのは……私の方……。勇者ドゥナさん……の、役に……立てて、よかった。お母さん……助け……あり……とう。その、恩返し……できた……かな。次は、あなたと一緒……戦い……」


「おい、ガナード」


「ガナード君!」


それ以降はみんなの呼び声にガナードが応えることはなかった。

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