フォウの戦い
魔王の居る神殿からは魔力の躍動が感じられるが、まだ戦闘にはいたっていない。それを確認したラドルは別の四天王を止めるために向かったフォウを探す。その気配はそう遠くない場所に感じたが、発せられる力からラドルが思うほど激しい戦いにはなっていないと思わせた。
(もうひとりの四天王の気配はない。ならオレはランサイズに戻るか)
最後の四天王が現れた場合は、ラドルかフォウのどちらか先に手の空いたほうが相手をする予定だった。そして、その者も倒せたなら、大召喚の秘術を止めるためにランサイズに向かう手筈となっていた。
「ここでのオレの役目は果たした。おまえらも上手くやれよ」
異世界から多数の異世界勇者を召喚するという大召喚の秘術を止めるために、元勇者のドゥナたちが城内に入るための作戦を決行している。その成功を願いながらランサイズに急ぐラドルは嫌な予感にさいなまれていた。
「急ぐか」
走る速度をそのままにラドルは跳躍して叫んだ。
「スウ・アロー・バード」
それは飛行魔法。ラドルの体が不自然に浮き上がり森を超えて飛んでいく。
飛行魔法は超高位魔法のひとつで凄まじく燃費が悪い。大地に属して生きる者が空を飛ぶという行為が世界の法則に反しており、高く、速く飛ぶほどに大きな力が必要になるのはその対価なのだと考えられている。そのため、浮遊魔法でも使える者はごくわずかだ。
森の上を飛ぶラドルの魔力の消費はかなりのモノで、今後のことを考えれば力を温存すべきである。特別に勘がいいわけでもないラドルだが、なぜか『嫌な予感』に苛まれ、飛行魔法を使ってランサイズに急いだ。
その頃、四天王ヨンガロスを相手にしていたフォウは。
「フォウ、四天王を裏切るとはどういうことだ!」
「別に。好きでなったわけじゃなし、魔王に忠誠も義理もない。お前だってそうだろ? クワトラと違って暴れられればいいだけじゃないか」
フォウの操る鞭が四天王ヨンガロスの体を打つ。すでに全身に鞭による痛々しい傷があるヨンガロスに対して、フォウは傷ひとつない。同じ四天王であってもその力の差は歴然だった。
こいつ、こんなに強かったのかと動揺激しいヨンガロスのまわりには、多くの部下たちが倒れていて、半数以上はすでに逃走している。クワトラと戦ったラドルと違い、部下たちも手加減なくぶっ飛ばしたのは、ヨンガロスを含めゲス野郎ばかりだったからだ。
フォウはクワトラとはよく話していたが、残りのふたりのことは激しく嫌っていた。その理由は魔王を利用して暴れたいだけだということを知っていたからである。
フォウとヨンガロスはたびたび意見がぶつかってはいたが実際に戦ったのは今回が初めてであった。そして今回、ヨンガロスはフォウの強さを思い知る。
ラドルにも勝ったフォウにとって、すべてにおいてラドルに劣るヨンガロスなど相手にもならない。
離れては魔法、中間距離では鞭、接近戦では格闘で上をいかれるヨンガロスの苛立ちは限界を超えていた。
鞭の先端が音速を超えて発する衝撃で相手を威嚇するフォウ。たまらず距離を取ったヨンガロスは腰にぶら下げていた金色のリングを両腕にはめた。それは大きな負担を強いる反面、魔法につぎ込む魔力を強引に増やす魔道具だ。
「おごそかな黄金の波動、言葉なく示せ、その品格を。バーニング・ジャベリン」
魔道具によって極大化した炎の槍がフォウに向かって投げられた。
「グランドスノードーム」
極太で長大な炎の槍がフォウに直撃したかに思えたが、衝突する勢いのままに白い水蒸気を吹き出しながら激しく舞い散った。
「俺の取って置きがっ!」
「油断してたわ。そんな力を隠してたとはちょっと焦ったよ。これは気を引き締めないと」
ちくしょう。今のが俺のめいっぱいだ、と心で吐き捨てるヨンガロスは、下手にフォウの油断を断ってしまったがために、このあと手加減なく叩きのめされてしまうのだった。
「さて、ひとり片付いた。ってことでシメオン、次はあんたか?」
フォウが振り向いた先の木陰に人が立っていた。
「なんだい、不意打ちでもしようとしてたの?」
「いや、俺は太陽が嫌いなんだ。雲にさえぎられていても昼間は外に出たくない。部隊は部下に任せて森の木陰に身をひそめていたら、誰かが戦っている気配があったから覗きに来てみたんだよ。そしたらどうだ、四天王同士で戦っているじゃないか。ランサイズ王国との戦いを前にした景気づけってレベルじゃないよな、これは」
シメオンはボコボコになったヨンガロスを見て難儀な顔をする。
「あたしの邪魔をするならあんたもこうだ。それが嫌だったら大人しくしてろ」
「何をする気か知らないけど魔王軍に仇なすことだとしても俺は気にしない」
元々忠誠心があったわけではないシメオンだったがこの返答にフォウはちょっとガッカリした。
「そう。まぁそれならそれで無駄な労働が減っていいけどさ」
ちょっとつまらなそうに言うフォウだが、シメオンの気配が少し変わったことに気付いて素早く跳び下がった。
「やる気かい?」
「失礼。美味そうなモノを目にして、ついつい」
日が落ち始めた曇り空。そんな空模様の木陰から出てきたシメオン。
黒い翼が特徴的な少し禍々しい容姿の魔族の亜種。フォウよりも大きめの角と牙に少し長めの手足。背中を丸めてダラリとさせた腕が彼を不気味に感じさせる。
ゆっくりゆっくりと歩いてくるシメオンは倒れているヨンガロスの前で立ち止まり、膝を付いて彼の腕を取る。そして、その腕にかぶりついた。
「な?!」
吸血魔だとは知ってはいたフォウだが、実際に血を吸うところを見るのは初めてだった。
「お前、仲間になんてことを」
ヨンガロスの血を吸っているシメオンはひと通り吸いきってからフォウの言葉に反論した。
「君はこいつや俺を仲間だと思ったことがあるのか?」
そんなふうに返されるとは思っていなかったフォウは一瞬考えてから、「ない」とひと言で答えた。
「さすが四天王の血だ。もう雑魚の血なんていくら吸っても変わらないからな」
「気持ちの悪い野郎だね」
シメオンは立ち上がると自分を罵倒したフォウに向きを変えて構えた。
「君もこれからその気持ち悪い野郎に血を吸われるんだ」
それが気に障ったフォウは怒り肩で牙をむき出しシメオンを威圧する。
「胸くそ悪いお前はやっぱり叩いておいた方が良さそうだ」
「君の本当の仲間ってのが心配なら、そうしておいたほうがいいかもしれないぞ。できるならだけど」
わななくフォウの体の周りには嵐のような風が巻き上がる。その風はときおり大きく広がりシメオンを叩いた。
「ラドルの邪魔はさせない」
「ラドル? 俺に血を吸ってほしい奴の名か?」
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