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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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ラドル VS 四天王クワトラ

強烈な打撃戦がおこなわれているのはクワトラ陣営の中心部。戦いが始まってからもうすぐ五分が過ぎようかという頃、戦いに気が付いた者たちが集まり始めていた。


自分たちのボスである四天王クワトラと見慣れぬ若い魔族らしき者の戦いは、格下の部隊員には手出しができぬ領域であり、どちらが優位に戦っているのかすらわからない。


見た目にはクワトラが派手に攻めているように見えるのだが、ラドルが押し負けていないために一方的な戦いには見えない。


戦いはクワトラ陣営の天幕があった場所から大きく動かず、ほぼ足を使わない肉弾戦。こういった戦いはクワトラの土俵であるのに、かれこれ五分も殴り合っていることにクワトラは驚いて手を止めた。


「おめぇ本当になにもんだ?」


クワトラはこの戦いが開始された直後と同じ質問をしてしまう。


「魔王を止めるもんだって言っただろ」


ラドルも同じように答えた。


「そのためにオレはおまえをここに留める役回りになったんだ。もう少し相手をしてくれ」


「魔王様を?」


そう言われてクワトラは気が付いた。この者の仲間が魔王を倒しに向かっているのだと。


「魔王様!」


魔王を気遣う思考がクワトラの視線をラドルから外させる。次の瞬間にクワトラの首がさらにねじれ、その勢いで体も傾きふらついた。


「おまえによそ見をしている余裕はないぜ」


隙を見逃さず、いやこの場合は隙を見せるなという警告の攻撃がクワトラの頬に打ち込まれた。倒れそうになったクワトラは足を開いて踏ん張り、殴ったラドルを睨みつける。


再び視線を激しく交錯させるふたり。そのタイミングで神殿の方からは魔王の魔力の波動が静かに発せられ始めた。


「おめぇを倒して魔王様の加勢にいかねば」


「それをさせないためにオレはここにいる」


クワトラの体の(りき)みがいっそう増して筋肉が肥大する。本来、(りき)みは素早い動きを阻害するとされているが、それを補って余りある打撃の重さと防御力をクワトラに与える。


攻撃は最大の防御といった戦術がクワトラの真骨頂。拳の大きさ、リーチの長さがラドルの反撃の機会を奪い、避けにくい攻撃をかいくぐったとしても、クワトラの持つ体毛と分厚い筋肉には生半可な攻撃は通用しない。


あきらかに先ほどまでの戦いは前哨戦に過ぎないという猛攻が開始され、静かに見ていたクワトラの部下たちも声を上げて応援し始めていた。いつの間にか部隊の大半は集結して戦いの場を囲んでいる。


その猛攻に対してやはりラドルは下がらない。反撃することは困難でも、避けることは厳しくても、大きく距離を取ることが容易でなくても、クワトラの部隊に囲まれていたとしても、逃げに徹しさえすれば多少被弾したところで問題ないはずだった。なぜなら、目的がタカトと魔王の戦いの邪魔をさせないことであり、時間を稼げばそれでいいのだから。しかし、ラドルは足を止めていた。


「クワトラ様、やっちゃってください!」


「ぶっ殺せ!」


熱くなる部下たちの心と声援は、すぐさま冷めて小さくなって消えることになる。


ラドルの回し蹴りがクワトラを捉えた。一瞬の硬直後にクワトラが振り回した左の巨腕を側面から殴ってそらし、ラドルの拳が頭部を打つ。たまらず一歩下がったその巨体の広いふところに向かってラドルは力強く踏み込んだ。


「ぅらあぁぁぁぁぁ!」


珍しく吼えたラドルの右腕が唸りを上げてクワトラの分厚い胸板を叩き、その衝撃が見ている者たちの心を揺らした。


ラドルの渾身を思わせる攻撃を受けたクワトラは微動だにしない。この攻防に言葉を止めていた部下たちは、一斉に声を上げた。


「てめぇの攻撃なんざクワトラ様の頑強な肉体に効くわけねぇだろ」


「やっちまえ!」


「ぶっ潰せぇ!」


だが、この声援はすぐに止まり再び沈黙する。それは、強靭無比と思っていた自分たちの主が、苦悶の表情で胸を押さえ、その場に膝を突いたからだ。


「クワトラ様?」


類い稀なる強靭な肉体のクワトラだったが、ラドルはその類い稀なる猛者(もさ)たちに打ち勝ってきた者だ。


痛みに耐え、刻まれたダメージに抵抗して再び攻撃を始めるクワトラ。誰よりも魔王の四天王だという強い自負がその体を突き動かす。


変わらぬ猛攻に見舞われるがラドルは両腕のガードを固めて前に出る。肉体へのダメージがないわけではないが効いているわけでもない。四天王クワトラの強さはラドルが(ひる)むほどではなかった。


殴りながらジリジリと引いていくクワトラへ、ラドルは反撃をねじ込んでいく。体格差はあるが互角の殴り合い。しかし、打ち勝つのはラドル。これは明確な肉体と打撃力の差だ。


「クワトラ様……」


千人を超える獣人たちのクワトラに対する心配とラドルに対する恐怖によって、その場が大きくどよめき始めた。


「おまえの肉体の強さは大したもんだ。天性の強さを野生で鍛えたんだろう。技術を力でねじ伏せるだけの強さはある。魔力や闘気を操る者にも劣らない異常な強靭さだ」


「なら……、ならなんで、おめぇは倒れねぇんだ!」


必死の形相で混乱の声を発し、目の前に立つ脅威に対して渾身の攻撃と疑問をぶつけるクワトラに、何よりもわかりやすい答えと共に打撃を返した。


「そのおまえより強いからだろ」


「魔王……様」


ぐらっと体を揺らしクワトラが前のめりに倒れると、どよめきは静寂へと変わった。自分たちのボスがやられたショックはすぐに、怒りのスイッチによって静かな闘志へと変貌する。


ラドルの相手が他の四天王であったならば部隊は散り散りになって逃げただろう。しかし、クワトラの部隊の者たちはそうはならない。


クワトラの魔王への忠誠心が高いように、部下たちもクワトラへの高い忠誠心を持っていたからだ。


ラドルはこのあと千人以上の獣人と二百頭の獣と戦うことになる状況にある。


一歩二歩と足を踏み出しラドルに向かってにじり寄る部下たち。誰かひとりでも攻撃に転じれば一斉に襲いかかっていくであろうギリギリのラインだった。


そこへラドルの急激な闘気の高まりがラインを半歩押し返した。


「おまえらのボスは肉体の強さだけならオレの知る中でも五指に入る。だが、生物としての強さで言えばまぁまぁだ。この意味がわからない奴は相手をしてやる」


そう言い終えたラドルからは闘気に続けて嵐のような魔力も放たれる。これによってクワトラの部下たちは悟った。ラドルがクワトラと同じ肉体の強さだけで戦っていたのだと。


「おまえらのボスは大したもんだ。こいつの魔王への忠誠心とおまえらのこいつに対する忠誠心に免じて、オレは神殿には行かずにここから立ち去る」


逃げる気かと思う者が多い中でラドルは言った。


「おまえらはこいつの仇であるオレを討ちたいだろうが、それをすればおまえらは全員死ぬ。オレが……殺す。もし、意識を取り戻したこいつがその惨劇を見たらどう思うか考えろ。こいつのためだという勘違いで死ぬか、今後もこいつのために生きるか」


ラドルは魔力と闘気を鎮めて歩き出した。


威圧するわけでもなく部隊の包囲網に近づくと、獣人たちは少しずつ後退りして道を開けていく。包囲が完全に開く中でひとりの強者だけが立ち塞がっていた。


「おまえはオレの思う勘違い野郎か?」


その質問にその者は首を横に振った。


「俺はクワトラ様の部隊長グラグロ。貴様の言葉が俺たちを退かせるための脅しであり、実際にその力があることもわかった。だが、突然現れて我々の主を叩き伏せた者をこのまま帰すわけにはいかない。魔族の貴様が人間に(くみ)して魔王様を止める本当の理由はなんだ? 魔王様を倒すことが目的ならば、このあと仲間の加勢に行くはずだがそれをしない。納得のいく理由でなければクワトラ様の仇を討つために次は俺が相手をする」


今ラドルの前に立つ者の目は死を覚悟した者の目ではなく、戦う覚悟をした者の目だ。そんな目をした者にラドルは答えた。


「女神はオレの獲物。オレが女神に仕置きをするためだ」


「女神に……仕置き?」


予想外であり、あまりにシンプルな答えに、クワトラの部下たちは逆にその意味を深読みして考え込む。


「ならば魔王様と同じ目的ではないのか?」


一周回ってラドルの言うことが言葉の通りなのだと受け止めたグラグロに、ラドルはさらに言葉を付け加えた。


「魔王の目的は国を滅ぼすことではなく女神を殺すことなんだろ? だが、おまえたちの中には人間を嫌う者、(さげす)む者、憎む者も多くいるはずだ。そんな奴らが女神が隠れ住む場所に向かえば無駄に殺しまくるのは見えている。だからその魔王を止めに来た。オレは女神のことで起こる戦いに目をつぶることはできない」


獣人にはいくつかの種族があるが、その多くは人間と友好な関係にはない。命の取り合いをする種族もあるため、その種族の生き残りもいる魔王軍ならば、復讐心を以って戦いに挑む者も多い。そのことを知っているグラグロはラドルの言い分に一理を感じた。


そんなグラグロにラドルは問い返した。


「逆に問う。なぜおまえらは突然現れた縁もゆかりもない魔王を支持する?」


「我々は元々魔王様を支持して集まったわけではない。大半はクワトラ様の従者だ。そのクワトラ様が魔王に忠誠を誓ったのであれば、当然その意思は我々の意思」


グラグロの目を見て真偽を見定めるラドルにグラグロは目の力を緩めて言葉を足した。


「これは個人的なことで、ここにいる者たちには当てはまらないだろうが、俺は魔王様をこの目で見て、その声を聞いたときに『この者に付き従え』という感覚に見舞われた。それは絶対の存在である者の畏怖(いふ)ではなく、それが当然といったごく普通のことである感覚だった」


「そうか、ならその魔王が今後どうなるか、どうするかの行く末をここで見ていろ。もし変わらずランサイズに進軍するっていうならそれはかまわん。そのときは改めて相手をしてやるが、一切手加減はしない」


「ははははは、怖いな。わかったその覚悟を持って対峙させてもらう」


グラグロは道を譲り、ラドルはその横を走り抜けてランサイズ王国に向かった。

是非、何か残してからお帰り下さい!

またのお越しをお待ちしております!!

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