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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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挑む者たち

ラドルを抱えて四天王クワトラのもとに向かったフォウの部下のイーランとアルリは、クワトラの居る天幕へと到着した。部隊の者ではないイーランとアルリの接近に気づいた衛兵が、彼女らに向かって槍を構える。


「我々は四天王フォウ様の側近を務める部隊長のイーラン。彼女はアルリ。フォウ様よりこの者をクワトラ様に届けるようにと(おお)せつかった次第だ」


両手足を縛られたラドルを見てから衛兵は返答する。


「クワトラ様はただいまおやすみになられています。要件は私が聞かせてもらいますが、直接のご用であれば起きるまでそこでお待ちいただくか、出直してもらうことになります」


自分より格上の立場だと理解した衛兵はイーランたちに対してかしこまって返答した。


「フォウ様よりこの者を届けたら早急に別任務に向かうように指示されている。だからこの者はここに置いていかせてもらう」


イーランは抱えていたラドルをその場に落とそうとしたが、フォウの言い付けを思い出してゆっくりと地面に寝かせた。


「イーラン殿、この者はいったい何者なのでしょうか?」


勝手に話を進めていく彼女らに戸惑い質問するが、イーランとアルリは首を傾げた。


「わからない。我々も届けるようにと言われただけだ。では失礼する」


そう答えたふたりはフォウの命令どおり素早くその場を離れ、各々の部隊のもとに向かって走っていった。


衛兵はこの状況を処理できず去っていく彼女らを見送るしかなかった。


「縛られているということは魔王軍の敵ということだよな?」


「そういうことだ」


ひとりごちった衛兵だったがそれに返事を返す者がいた。


両手足のロープを引きちぎりながら素早く立ち上がったラドルの手刀が衛兵の後頭部を打つ。意識を失ってその場に倒れる衛兵の体を支え、天幕の横にそっと寝かせた。


「寝込みを襲うのは俺の主義じゃない。寝てるところ悪いが起きてもらうか」


ラドルが天幕に向かって一歩踏み出したタイミングで、天幕の布ごとラドルに向かって大きく硬い物が叩きつけられた。


両腕でガッチリガードしていたラドルの目の前で天幕がはぎ取られ、姿を現したのは獣人クワトラの巨体だ。


クワトラは獣人王ガルファンよりももっと獣寄りの姿で、夜王デンジラのように二足と四足歩行どちらも使う。


「おめぇは何もんだ?」


「魔王を止めるもんだ」


このやり取りで敵と認識したクワトラは、体毛で覆われていない額と上腕に血管を浮かべて激しく力んだ。


「ならば殺す」


「おまえにはできないかもしれないぜ」


ラドルとクワトラの視線が交錯する先で、目に見えない火花がバチバチと弾けていた。



   ***



同時刻、タカトを魔王のところへ連れていったサンルーとスーレイのふたりは神殿の前まで来てたたずんでいた。神殿の外にいても感じる魔王の威厳。フォウの側近とはいえど格の違いに畏縮(いしゅく)してしまっていたのだ。


早く魔王のところに連れて行ってくれよと思うタカトはただ待つのみ。


神殿内と外界を隔てる扉のレリーフは、翼を広げた大きな鳥が羽ばたく雄大なモノだったが、内より漏れ出す魔王の力によって不気味な怪鳥が襲い来るようにも見える。


抱えられたタカトはランサイズのドゥナたちのこともあり、心底焦っていた。


「サンルー、開けてよ」


「スーレイが開けなよ」


神殿に到着してから二分。一向に動かないふたりに耐えかねたタカトは我慢できずに声を掛けてしまった。


「なぁ君たち、魔王が怖くて入れないならここまででいいぞ。あとは俺ひとりで行くから」


急に話しかけられて驚いた彼女たちは抱えていたタカトを落としてしまう。


「あいたっ」


両手足を縛られているタカトは受け身が取れずに神殿の大理石のような床に額を打った。


「貴様、気が付いていたのか」


神殿の扉から大きく離れて階段を降りたふたりは動けないタカトを相手に叫んだ。


「運んでくれてありがとよ。ここからは俺ひとりで行くから大丈夫だ」


「何が大丈夫だ!」


威勢よく階段に一歩足を掛けたスーレイがいう。


「フォウに言われたろ? 俺を届けたらすぐに任務に向かえって」


「なっ、それは」


「お前、あのときから起きてたのか?」


「そう、これはフォウの作戦の一環だ。だからお前たちのここでの任務は完了というわけ。あとはフォウが言ったとおり仲間たちを追って言われた任務をこなせばいい」


タカトはイモムシのように床にうつ伏せになりながらそう伝える。


「どうする?」


「スーレイが決めなよ」


フォウの敵だと思っていたタカトが言うことを素直に信じられないが、言っていることはフォウの命令の通りなので判断しかねていた。


「ここはこれから俺と魔王の戦場になる。お前らが戦いに巻き込まれればフォウが泣くか怒るかするぞ」


「サンルー、行こう」


「うん」


一歩足を引くと、それに釣られて反対の足も素早く動く。そしてそのまま加速して、ふたりは神殿を離れていった。


「あっ、ロープをほどいてもらえばよかった」


と思ったときにはすでに誰もいない。


「ふんがー!」


タカトが力いっぱい力むがロープは千切れない。ロープに隙間がなく反動が使えないのだ。さらにこのロープの材料である植物はかなり張力に対して力がある。人を拘束するために作った本物だった。


「フォウの奴、けっこうしっかり結びやがったな」


「はんがー!」


腰の後ろで結ばれた腕は力も入れにくいのかやはり千切れない。


「これやばくね? ラドルはこれをどうにかできるのか?」


床に這いつくばりながら必死で力を込めて暴れるタカトだが、なかなかこの拘束から脱出することはできない。


「ラドルのは緩くして俺のはきつくしてたりしないだろうな」


実際のところふたりのロープの締め方に違いはない。この違いはふたりの地力とシステムの関係だった。


ラドルは百年という歳月によって肉体を鍛え抜いた地力がある。そこに闘気や魔力というこれも長年の歳月によって鍛え上げたモノを持っている。


一方タカトはどんなに過酷な鍛錬だったとしても数年という短い期間で培った力だ。彼のその強さは異世界からやってきた者が受けるシステムの恩恵で、ラドルと互角と思われる勝負をした強さの源である強大な闘気と魔力も、その恩恵なしには今ほど自在に操ることはできない。


システムアシストは緩やかにおこなわれる。力を込めるほどに限界に近づくほどに彼の地力を超えるほどにアシスト力は上がっていく。裏を返せば、力が入らなければたいしてアシストが働かない。


ミチミチとロープが少しずつ切れる音はするがいまだにガッチリとタカトの両手足を拘束している。


「そうだ、魔法だ」


と妙案が浮かんだつもりだったが、タカトはロープを燃やす魔法や切断力のある風の攻撃魔法は使えなかった。


「くそ、なんでこんなことで時間使ってるんだ俺は」


とりあえず立ち上がったがこの状態で神殿の扉は開けることはできない。


「なんで引き戸なんだよ」


一般的な建物の造りに突っ込みながらも腕に力を込める。


「足の力は腕の三倍!」


ミチミチ、ブチミチとようやく大きな変化が見え始め、ついにロープが千切れた。


「おう、やったぜ!」


どうにか足が自由になったタカトは神殿の階段を下りて近くの木の幹にロープを擦りつけた。摩擦を使って切ろうという算段だ。


「なんつう丈夫なロープを使ってやがるんだ」


タカトが膝を使って上下に体を動かし幹に擦りつけるという妙な動きをしていると、亜人の男がタカトを不思議そうに見ていた。


「なぁにやってんだ、お前?」


「あ、いや、このロープが切れなくてさ。あはははは」


ちょっと恥ずかしさを誤魔化したく笑ってしまう。


「部隊の集合に急いでるところ悪いけど、これ切ってくれないか? 俺も急いでいるんだ」


「なんだ、お前も向かうところなのか」


急いでいるを自分と同じように部隊に集結のためなのだと勘違いしたのか、男はタカトに駆け寄ってくる。彼は足の下腿側面(かたいそくめん)に巻き付けているナイフを抜いてタカトのロープを切った。


「助かったよ、ありがとな」


「お前なんで手を後ろに縛られたりしてたんだ?」


そう聞かれても正直に答えるわけにはいかない。


「それがさ、フォウの……フォウ様の部隊長に縛られちゃって。ちょっと仕事でミスしたお仕置きでさ。ここに放置されちゃったんだ」


「お前、フォウ様のところの部隊か。あそこは女が多くていいよな。俺はクワトラ様のところだからよ。七割が獣人、二割が獣、一割が亜人だ」


「そうか、それは辛いな。だったらこの戦いが終わったらフォウ様の部隊に転属したらいい」


「これからランサイズ王国との戦いだ。それに生き残ったとしてもその戦いの火種からほかの国とも戦争になるかもしれないしよ」


心配げな表情の男にタカトは言った。


「そうはさせない、俺に任せろ!」


真剣な眼差しのタカトに対して男は「お、おう」という返事を返した。


不思議そうな表情でタカトを見るその魔族の男は手を上げて挨拶し、歩いていく。


「そうだ、おい! クワトラ……様の部隊なら、もう少し遅れていった方がいいぞ」


「え? なんでだ?」


それはラドルが今まさに戦いを始めようかという頃だからだが、それも言えない。


「俺は先読みの能力があるんだ。そのスキル能力が言っている。ゆっくり行った方がいいって」


「そうなのか、わかったよ。助言ありがとな」


「いや、こちらこそだ。またな」


ひょんなことからのかかわりだったが敵対している者とでもこうしてコミュニケーションが取れている。魔族だから獣人だから敵ということではないのだとタカトは感じた。


「よし、俺が魔王を治して戦いを止めてやるか。そして次は女神だ」


タカトは服の下の背中に巻き付けて隠していた短剣を取り出して腰に付けなおす。そして、ひとつ深呼吸をしてから神殿の扉を開けて中へ入っていった。

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