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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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作戦決行

 十五時を間近に迎えた頃、ラドル、フォウ、タカトの三人は再び馬車を走らせて魔王軍の本拠地となっている神殿に向かっていた。馬車はラドルが走らせ、その横には当然のようにフォウがくっ付いて座っている。後ろの荷台には毛布を敷いてタカトが寝ていた。


「これから魔王と一戦やらかそうってときなのに余裕よね」


「こいつは異世界のバカどもと連戦したらしい。それに俺との戦いでの負傷もある。オレがくれてやった特異な魔術清水(ポーション)の効能で怪我の治りは早いが、その分生命力を消耗している」


今日会ったばかりのラドルと何度か戦ったこともある魔王軍四天王だったフォウのいる中で、まったく警戒心を持たずに寝られるのはなかなか豪胆である。


「到着まであと一時間くらい寝かせてやれ」


「もちろんラドルとふたりっきりだから寝ててもらっていいんだけどさ。それより、ラドルも怪我してるだろ。そんな体で大丈夫なの?」


フォウはラドルの左肩から胸にかけての傷に目を落とした。


傷は完全にふさがり真新しい傷である感じはしないが、骨にダメージがあれば魔族と言えど簡単には治らない。おまけにラドルは魔族の混血なので治癒能力は純潔よりも低い。


「問題ない」


「そうだね、ラドルならその傷が勝敗を左右するほどの戦いにはならないと思うけど」


四天王のひとりであり、ラドルをよく知るフォウの勝敗予想はラドルの有利という見解だった。その彼女から聞いた残り三人の四天王の情報はこうだ。


【獣人族クワトラ】

四天王の中で一番魔王に忠実。巨体による怪力が武器で、撃たれ強さも持ち合わせている。


【亜人ヨンガロス】

魔法も使い格闘もこなす亜人。ラドルと同じようなスタイルの下位互換。


【吸血魔シメオン】

フォウと同じくらい適当な四天王だが、人族だけでなく仲間すら不必要に殺すことがありる。魔法を使うようだがメインは格闘。吸血衝動のある魔族。


「あたしらふたりでこの三人とその取り巻きをやらないといけないけど、各個撃破するとした場合にラドルは誰に当てたら有利かなぁ」


「誰でもいい」


フォウの考えに対してラドルはいつものように返した。


「魔王の神殿の辺りから感じる強い力は三つか」


強者の波動は三つ。それはフォウも感じていた。


「一番威圧感があるのが魔王だね。残りはクワトラとヨンガロスかな。シメオンはいなさそうだよ。あいつは自分勝手だから」


「フォウも人のこと言えないと思うぞ」


「そうね♪」


ほめたわけではないラドルの言葉に対して彼女は満面の笑みで返答する。


さらに三十分走り、かなり神殿に近づいた頃にタカトが目を覚ました。


「シメオンの気配は感じないよ。これはチャンスね」


当然それは三人がそれぞれ一対一での戦いに挑めるからだ。


集結する魔王軍の群れの中にいきなり飛び込んでも、雑魚に足止めされたうえに無駄に消耗してしまう。そこでフォウは作戦を考えた。それは、魔王の邪魔をする者をフォウが捕らえたとして、そのまま四天王や魔王のふところ深くに連れ込むというモノだった。


魔王軍が集結する陣地に到着した三人。フォウは縛ったラドルとタカトを担ぎ、自分の部下が集結している陣営に向かった。


「おい、お前ら!」


フォウの声を聞いてダラダラとしていた者たちの背筋が伸びる。最初に集まってきたのは四人の女魔族で部隊の隊長たちだ。身長体格は様々だが、四人ともそこらの人族冒険者とは格が違う強さを持っている。


「フォウ様、やっと戻られましたか」


「遅くなったな。あたしなりにいろいろと調査することがあったんだ」


「そうでしたか。して、そのいろいろがその(かつ)いだふたりに関係しているのですか?」


ふたりの男を見て怪しむ四人。その四人にフォウは指示を与える。


「全員をここに集めろ。やってもらう重要な任務がある」


「任務ですか?」


「そうだ、急げ!」


「はい!」


四人は天幕の前にフォウの部下全員を呼び寄せた。


「いいか、よく聞け! お前たちに今から重要な任務を与える!」


体の芯に響く勇ましい声を受けて、集結した部下たちは改めて気を引き締めた。


「まず、イーランの部隊はプロアス山に行ってスロンパーサの葉を採ってこい。大量にな。アルリ部隊はズワン湖で巨大魚デリャースを捕獲だ」


「フォウ様、それはいったいどういう? 魔王軍はこれからランサイズ王城へと攻め込むために……」


そんな質問も聞かずにフォウは続ける。


「サンルー、お前の部隊はルフルフツの森で果実ルオナとナキス茸、ついでに適当な食えるもんだ。最後にスーレイのところはパサーファリク平原の闘獣ビルカロスを二頭仕留めて持ってこい」


「えーーーーっ! あの闘獣を二頭もですか?!」


「そうだ、これらは今後のための重要な任務だ。絶対に成し遂げろ。プルスア山はかなり遠いし高所の環境は厳しい。巨大魚デリァースは捕獲するどころか見つけるだけでも困難だろう。ルフルフツの森は広く深いし、闘獣ビルカロスは強い。死ぬな」


ゴクリと息を飲む面々。


「部隊長は別任務がある。それが終わり次第それぞれの任務に加われ」


「は、はい」


全員が緊張し体を固めている。


「よし、行けーーーーっ!」


フォウの号令を受けてそれぞれが動き出す。そして、四人の部隊長だけが残った。


「お前らはこのふたりを頼みたい。こいつをクワトラのところに届けろ」


フォウはラドルをイーランに抱えさせた。


「いいか、丁寧に扱え。落とすなよ!」


小声ながらも心の奥から凍り付くような言葉にイーランは震えながらラドルを抱きかかえた。


「んで、こいつは魔王のところだ」


スーレイに渡そうとしたとき、その顔を見て彼女はタカトだと気が付いた。


「こいつは何度かフォウ様に盾突いたことのある人族じゃないですか。とうとう倒したのですね」


「そうさ、魔王にもちょっかい出してたし。だから、あいつに献上してやろうと思ってな」


「そうでしたか。ですが、それと我々の重要任務との関係はいったい?」


アルリが恐る恐る聞くとフォウは彼女を静かな目で睨んだ。


「申し訳ありません! 無用な詮索でした!!」


「任務が完了したらわかる。まずはそいつらを連れていけ。連れて行ったら直ちに各自の部隊に合流しろ。いいな、すぐにだぞ! クワトラや魔王に何か言われる前にだ。いいな!」


フォウの念押しに背筋を冷やした四人は、大きな返事をしてからラドルとタカトを連れていった。


「さて、それじゃぁあたしも行こうかね」


フォウは周辺を探り、自分が担当する四天王ヨンガロスの部隊に向かった。



   ***



その頃、元勇者ドゥナ率いる対女神討伐部隊は、止められてしまったランサイズ城内への転移門を開放するため、それに必要な呪力の溜め込みが完了したところだった。


呪力を溜め込んだ魔道具を持ったガナード三等兵は隠れ家を出て農村から城下街へ、そしてランサイズ城へと向かう。残りのドゥナ、ファロー、リリーナ、セイジは城に繋がる転移門のある場所の近くに待機していた。


転移門のある場所は全部で六つ。ランサイズ王国を囲う六つの見張り塔であり、獣たちを近付けにくくする結界を作っている呪力増幅の塔でもある建物の地下だ。


そのひとつはラドルとサルサがランサイズ王国に向かう途中、初めてジュレとセイジのふたりに会った場所の近くで、その塔の地下の転移門からジュレが逃げてきたところ偶然出くわした。


ガナード三等兵は心拍数を上昇させながら一歩一歩と城門に近付いていく。


大丈夫、問題ない。いつも通りでいいんだと自分に言い聞かせながら少し硬い表情で城門の番兵に敬礼する。番兵もガナードに対して敬礼を返した。


ホッとするのも束の間、城から出てくる新たな兵士を見て再び心臓は大きく強く鼓動する。彼は高鳴る鼓動を感じながら、この作戦を指示したドゥナの言葉を思い出していた。


『大丈夫だ。ガナード君は今回の件で女神のターゲットになってはいない。ジュレ王女やセイジですら城下街で公に指名手配してなかったのは、その理由を公表できないからだ。ならば、それに巻き込まれた程度の君を指名手配しているとは考えられない』


その言葉を信じて城門から堂々と入っていくガナードを見送るのは木陰に立つサルサ。万が一ガナードが兵士たちの標的になった場合に逃走を手伝うために待機していた。


ガナードが無事に城内へ入ったことを確認したサルサにはもうできることがない。彼の作戦成功と安全を願いつつ、転移門が開放されるのを待つドゥナ一行のもとに向かった。

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