裏切者
裏切り者の存在を明言する内容に、この場の空気が凍り付き、互いが疑心暗鬼に捕らわれる……、というようなことはまったくなかった。それどころか苦笑いまで起こる始末。
「あれ? すごいことが起こるかと思って少し身構えてたんですけど」
拍子抜けしたサルサに口ひげを撫でながらファローが言った。
「いや、魔王軍が攻めてきたときからランサイズ城の女神を狙ってきたんじゃないかと思っていたんだ。君が魔王軍から女神の情報を得たことで確信を得たよ」
皆の視線はタカトに送られた。
「タカト君、あなたね。魔王に女神の情報を漏らしたのは!」
「タカト、本当ですか?」
リリーナの指摘とジュレの問い詰めにタカトは首を横に振った。
「いや、俺がそんなことをするはずないだろ。俺は女神を救いたいんだ。殺させるわけにはいかない」
「だけどタカト以外に魔王と接点を持つ者はいない」
「師匠まで俺を疑うんですか?」
ドゥナの疑いの言葉に嘆くタカトにリリーナはさらに詰め寄る。
「あなたは何度か魔王と顔を合わせているんでしょ?」
「あぁ来てた来てた。あたしも五回くらい神殿で見かけた」
四天王であったフォウの証言によって情報漏洩の信憑性が増していく。
「タカト、魔王に何を話したんだ?」
「師匠、だから俺は特に何も……ただ、魔王軍の奴らの暴挙が目に余るようになってたから、そいつらをぶっ飛ばして魔王の前に突き出した。そのときに『女神は俺がなんとかしてやるから部下たちをどうにかしろ』って言ったけど、『女神はお前が殺すのか?』って聞き返された」
ラドルも魔王に同じようなことを言うつもりだとタカトに説明したとき、タカトが「無駄だ」と返したのは、その答えを知っていたからだった。
「なんて答えたのですか?」
ジュレが質問する。
「女神は殺させない。俺が救うって約束したんだって。そしたら魔王が『そのために俺を殺すか?』って聞いてきたから、女神に『魔王を殺してはダメだ』と言われた。だからお前を殺したりはしない。だから異世界の勇者からお前を守ってやる』って返してやった」
「それから?」
「それからぁ……『ランサイズ領土には手を出すな』とか、『お前は殺さないけどお前を倒す方法はある』とか」
「それから?」
「それからって、他にどんなこと話したっけなぁ……。そうだ、女神を倒す手段を手に入れた。だからお前は手を出すなって交換条件を突きつけたり」
「魔王はなんて?」
「その話には一度食いついてきたんだ。どうやって女神を倒すかって」
「なんて答えたの?」
「え、なんてって、女神に対して強い力を持つ者がいるって」
「それで?!」
「それが誰だって聞かれたからランサイズの第二王女だって」
「「「やっぱりお前(君)だ!」」」
タカトは皆から指をさされて身を引いた。
魔王による誘導尋問。というかタカト自らが墓穴を掘ったというところだ。
「魔王じゃなくても察するでしょ。ランサイズ領土を荒らす部下を退治するタカト君。女神と知り合いっぽい言い回し。ランサイズ王国の王女が女神に対抗する力を持っている。こんなこと聞いたらこの国で女神に関する何かがあったと疑いますよ」
呆れる一同。
「しゃべりすぎだ」
ラドルの冷たい指摘に皆がうなずいた。
「魔王軍はこうやって女神の情報を掴み、魔王軍にいるガルファンの部下からオイラたちにも情報が回ってきたわけですね」
「そうだったのか。俺としたことが!」
悔しがるタカトに冷ややかな視線が向けられる。
「いまさら後悔しても仕方ない。やることが決まってるなら、それを話せ」
「そうさ、こうなっちまったもんは仕方ないよな。大丈夫、魔王を止める手段はある。それを今から話す」
タカトは作戦を説明した。
「魔王を殺さずに倒す方法。それは聖剣を魔王の胸に突き刺すことだ」
「聖剣って俺が使っていたあの聖剣か?」
ドゥナが確認するとタカトはうなずいた。
「以前ジュレとセイジに話したことがあったよな? そしたら聖剣は城に保管されているって言ってたろ? まずはその聖剣を手に入れる必要がある」
「それでしたら……」
ジュレはドゥナを見た。ドゥナは立ち上がって奥の部屋に行くと一本の剣を持ってきた。
「もしかしてその剣が?」
「はい、先日城に忍び込んで取ってきた聖剣イクシキャルバーです」
「よっしゃ! これで条件ひとつクリアじゃないか」
「でもこれって女神を救うのに必要って言ってたものですよね?」
「そうなんだけど、聖剣ってのは元々は狂った魔王を修復するためのワクチンプログラムなんだ」
「わくちんぷろぐらむ?」
この反応はラドルたちに話したときと同じだ。そんな中で同じ異世界のセイジだけがそれを理解していた。
「魔王は病気みたいなもんで、その聖剣はその病気を治す薬なんだ。女神も似たようなモノ。だからその聖剣で治療する」
これで聖剣を取りに行く手間が省けたと、タカトは意気揚々と作戦を語った。
まず、ラドルとフォウに四天王の相手をしてもらいたいと告げる。倒す必要はなく時間を稼いで欲しいと付け足した。そのあいだにタカトが魔王と一対一の状況を作り、聖剣によって魔王を治療するというのだ。
タカトの語った作戦はあまりに単純だった。単純な分難易度は高い。倒さないまでも魔王軍の幹部である四天王を押さえるなど並大抵のことではないからだ。ましてやタカトが魔王に対して一対一で戦って勝つなど可能なのかと、仲間たちは思った。
「タカト、あんた殺されちまうよ」
四天王だったフォウの言葉が皆の不安を明確にする。
「あたしとラドルなら四天王を押さえるなんて造作もないことだけどさ」
四天王の相手を造作もないと言い切るフォウ。その彼女が言う。
「あんた、あたしは置いといたとしても相手にする四天王によっては勝つのは厳しいだろ? 当然魔王はそいつらより強いんだ。魔王の胸に聖剣を突き刺すなんて無理に決まってる」
誰もがそう思うのだが、タカトは自信に満ちた目をして言い返した。
「たしかに、俺はセイジみたいに特別なスキルを持ってない。四天王との連戦なんてことになったら勝算はないよ。だけど、対魔王ってことなら話は別だ」
タカトはニヤリと笑った。
「ジュレが女神に対して強い力を持つように、俺は魔王に対してアンチ魔王のスキルを持っている。これが俺が持つ唯一のスキル。なんせ俺は魔王シグナを倒す勇者として召喚されたんだからな」
【PROGRAM=M.E.G.A.M.I.】は、この魔王シグナに対抗する者としてタカトを召喚した。だからタカトは唯一、魔王シグナの特攻スキルを持っている。
「だから四天王に対抗できる強さの仲間が欲しかった。お前たちに四天王は任せる! 魔王は俺に任せろ!」
「そういうことだったんですか」
ようやく納得のいく理由を知ったサルサはこの作戦の全容を頭の中で確認して整理しなおす。
「俺たちは雑魚狩りってことかよ」
タカトの裏方であることが不満なセイジは口を尖らせた。
「久しぶりの本気の戦いだぞドゥナ」
「俺は大丈夫。これでも元勇者だからね。ファローは腕が鈍ってないのか?」
「その心配はない。僕はドゥナと違って引退していない現役だから」
トントントントン
作戦がまとまろうとしたところでこの隠れ家の扉がノックされた。




