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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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元勇者

「ここです」


彼女らの隠れ家だという地下の扉をジュレがノックする。


「ジュレです、開けてください」


「ジュレ?!」


少し驚いた声のあとに扉が開けられた。そこから現れたのはラドルとサルサも見知った男だった。


「あなたはファローさん?」


彼は先日、ふたりが女神について聞き込みした者のひとりだ。


「なんで僕の名前を? それになんでここに?!」


「ファローさん、サルサさんと知り合いなんですか?」


「いや、うん、昨日町で、なんか、聞かれたんだ」


要領を得ない回答なのは女神という口には出せない事柄についての説明だったからだ。


「ファローさん、早く中に入れてくれよ」


待たされているタカトが扉の外から声をかけた。


「タカト! 君もか?」


扉が大きく開かれズラズラと七人が中に入っていくと、一番後ろにいる青年が兵士団の制服だったことでファローは驚いた。それを見たジュレが「事情はのちほど」とだけ伝え部屋のソファーに腰掛けたところで、部屋の奥から女性が出てくる。その女性はもちろんサルサとラドルが町で会ったファローの仲間のリリーナだった。


「あっ、先日はどうも」


サルサの顔を見てギョッとしたリリーナは、見知らぬ女性とガナード、そして戻ってきたタカトという異色な組み合わせを見てファローと目を合わせる。


「これから説明します」というジュレの言葉を聞いて「どういうことなの?」という言葉を飲み込んだ。


地下とは思えない広い間取りの隠れ家はひと通り家具もそろっており、くつろぎやすい作りをしている。そんな部屋に置かれたローテーブルを囲って座った七人にはお茶が出され、疲労感のあるタカト、そして緊張しているガナードはそのお茶を一気に飲み干した。


「ドゥナを起こしてくる」


ファローが奥の部屋に行き、リリーナがお茶のおかわりを注ぐ。


「リリーナさん、治療をお願いしたいのだけど」


先ほどまでよりタカトの疲労は色濃い。そんな彼が服を脱いで見せた傷にリリーナは衝撃を受けた。


「何よこの傷は。表面の傷は塞がっているのに真新しいわね」


そこにファローに連れられて青年がやってきた。


「ドゥナさん、こんにちは」


「こんにちはって、その傷。いったい誰にやられたんだ?」


この質問にタカトとラドルが互いに視線を向ける。


「ラドルとタカトが戦ったのか?!」


セイジは驚きジュレは戸惑いを見せた。タカトの強さを知るファローとリリーナ、そしてタカトの師匠だというドゥナもラドルに視線を向ける。そのラドルも肩から胸にかけて服が裂け、その下に治りかけの傷があるため、戦いの勝敗が気になった。


「で、どっちが勝ったんだ?」


興味深々なセイジがズバッと答えを求めると「あたしだ」と見知らぬ女性が返事をする。その女性がフードを取っただけで皆は意味を理解した。なぜなら、彼女には頭角(とうかく)が存在するからだ。


「魔族!」


この場の空気が一部を除いて凍り付く。だが、タカトとラドルとサルサの反応があまりに冷めている。皆が対応に困っているところで「それはですね」とサルサが切り出した。


サルサの口からタカトとラドルの戦いの経緯と決着、彼女が魔王軍の四天王だという事実を聞き、タカトを除いた全員が言葉を失ってしまう。


セイジはタカトとラドルのふたりが自分よりも大きく格上なのだと自覚している。そのふたりの戦いを止めた彼女が四天王だという事実に衝撃を受けながらも、ラドルにベタベタしている現状に、より大きな衝撃を受けていた。


「昔からの知り合いなんです」


ふたりの関係を簡潔に説明したサルサの言葉と、その四天王にどうみても惚れられている事実が、ラドルの存在をさらに大きく感じさせた。


若干の緊張を残しつつ、ひと通り騒動が収拾したところで全員が席に着いたが、ガナードだけは立ったままだった。


「どうかしたの?」


優しく問いかけるドゥナに、ガナードはガチガチに緊張しながら口を開いた。


「ゆ、勇者ドゥナ=アンツ!」


そして、深々と頭を下げた。


「私は以前、あなたにお母さんの命を救っていただいたことがあります。その説はありがとうございました」


「そうだったのか。でもそんなにかしこまらないで。さぁ座って」


そう言われてガナードは、ようやくソファーに座った。


「こいつは勇者の称号を得ているのか?」


「あなたは勇者ドゥナを知らないのですか?」


驚くジュレに「知らん」と答えるラドル。そのラドルの言うことをサルサが補足する。


「彼はレフティーンのさらに向こうのデッケナー領土の者なので」


「サルサは知っていたのか?」


「情報屋を舐めないでください。それくらい知ってます。彼がもう引退してしまっていることもね」

ドゥナは苦笑いする。そして座っている一同を見回してひと言。


「で、なにがあったんだ?」


突然見知らぬ者を数人連れてきたことに何事かあったのだろうと想像できるが、この面子から内容までは予想できない。


そんなドゥナたちにサルサは言う。


「ではまずはオイラたちから」


サルサは自分たちがこの国に来たいきさつを話した。




   ***



「この国に来て女神を探るなんて。この国の者は女神の存在を知らない。俺たち以外はね。その機密事項をどうやって手に入れたんだ?」


「女神がこの国にいることを知った理由、それはこのラドルさんの知り合いの獣人王から聞きました。オイラたちの国に獣人王ガルファンという者がいて、その部下が魔王軍の中にいるからです」

「やっぱり君らは魔王軍と繋がりがあるのか?」


四天王のフォウと親しいこともあってそう怪しむ一同にサルサは否定する。


「いや、そういうわけではありません。魔王軍に潜入していたのはあくまで女神の情報を探すためです。オイラとラドルさんの知り合いはいろいろなところに居て、情報収集しています」


「あたしが四天王をしていたのも同じ理由。ねぇラドル」


同意を求めるフォウにラドルは「その通りだ」と返した。


「続けますね。オイラたちは女神の情報を魔王軍から得ましたし、魔王軍は女神の情報を得てランサイズ王国に攻めてきた。このことから……。言いにくいんですけど、この中に魔王軍に情報を漏らした者がいるってことじゃないですか?」


サルサのこの物言いは、この中に裏切り者がいると言っているのだ。

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