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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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プログラムとウィルス

今から約三年前、タカトは雨が降り始めた交差点でトラックの事故にあった。約束の時間に遅れそうで、慌てていたことが要因だ。


気が付くと彼は真っ暗な場所に居た。目覚めたばかりのせいか少し意識がぼーとしていて、全身の感覚が殆どない。


「ここはどこだ?」


発せられた声も膜がかかった感じで自分の声とは思えない。おかしな状況の中、彼は直前の記憶を呼び覚ました。


「そう言えば俺は時間に遅れそうで……」


そして、この状況と結び付け、自分が死んだのではないかという可能性に行き着いた。


「そうです、あなたは事故により死にました」


突然の声に彼はハッとなり辺りを見回す。


なにかボヤっと光るモノがあり、それは少しずつ輪郭を作って形を成していった。


「ワタシは女神です」


その光は美しい女性の姿へと変化し、タカトの前に現れた。


「女神?!」


「はい、事故で死んでしまったアナタをここに呼び寄せました」


「ここはどこなんだ? 俺は、俺の体はどうなっているんだ?」


少しだけ冷静さが戻ったことで手も足も体もない自分の状態を女神に問いただした。


「ここは、あるアストラル界に作られた特別な場所。アナタを急遽ここに呼び寄せたために、肉体の構成が間に合いませんでした」


「アス……なんだって? 呼び寄せたって。なんのために?」


再び混乱しだした彼に女神は手のひらを向けて落ち着かせる。


「呼び出したのはアナタにお願いがあるからです」


女神はゆっくりと丁寧な口調で話した。


「ある世界に魔王が現れて人々を苦しめています。その魔王をアナタに倒して欲しいのです」


「魔王?!」


そのワードを聞いて彼は体に電撃が走ったような感覚に襲われた。


(これってもしかして異世界転生とか転移とかっていうあれか?!)


世の中で一大ブームとなっている異世界物の小説。その小説にあるようなことが、今自分に起こっている。


「これは夢か? 夢なのか?」


「夢ではありません。アナタの魂はこの世界に呼び出されたのです」


タカトは小説は読まないが漫画やアニメでは何度も異世界物の物語を観たことがあった。その主人公に自分がなる。そう考えて彼のテンションは一気に上がった。


「ってことはチートな能力を貰ってその世界で無双して魔王を倒して……。ホントかよ、そんなことがあるのか?!」


「チート……常軌を逸した能力ですね。はい、アナタの心に相応しい能力を得ることができるでしょう。そのチートな力で魔王を倒してください」


そう女神が肯定したのを聞いて、彼のテンションはさらに爆上がりした。


「ところで、俺の体はどうなるんだ? 転生とか憑依とかでぜんぜん別人の体になっちまうのか? なんかそれはちょっと嫌だなぁ」


「望むのであればいかなる容姿にもすることは可能です。もちろん元の体と同じにすることもできます」


「そうなのか? ならそうしてくれよ。どんなにイケメンでも自分じゃない自分なんて気持ち悪いからな」


「わかりました」


女神はタカトに向かって手をかざす。すると、彼が居るであろうその場所に小さな光の粒が集まり出した。どこからともなく集まってきた膨大な量の光の粒は、だんだんと輪郭を作り人の形を成し始める。


「アナタという人間を構成するのに少し時間がかかります」


彼の体は人の形は成してはいるが、まだ目も鼻も口もなにもなく、光るマネキンといったモノだった。


「少し感覚が戻ってきた」


手を開いたり握ったりしてその感覚を確かめていた彼は、ふと思うことがあって女神に質問する。

「もし魔王を倒したらさ、俺は元の世界に帰れるの?」


「いえ、アナタは死んだので戻るべき肉体がありません。元の世界に戻ることは不可能です」


女神は即答した。


穏やかな笑顔でそう断言されたことで彼のテンションは急激に下がり、思考が現実に戻った。


「戻れない。元の世界で俺はやり残したことがたくさんあるのに。彼女にはもう会えないってのか」


気持ちが落ち込み肩を落とした彼を見て、女神は言葉を付け足した。


「彼女ですか? それなら心配いりません。チートと言う能力によってアナタにはきっと幸運が訪れます。多くの女性がアナタに好意を寄せてくるはずです。好きな女性を選ぶも良し。誰とは言わず多くの女性を得るも良し。大勢の子孫を残してくれればなお良しです」


そんなことを言う女神の笑顔が、彼には作り物のように冷たく見えた。


「ははは……、そうか、モテモテなのか」


少々引き気味の彼に女神は話を続ける。


「今回現れた魔王は今までになく強大です。その魔王を倒さなければ世界は滅んでしまうかもしれません」


「そんなに強いのか?」


不安顔の彼に女神はいっそう笑顔で話す。


「ですが心配にはおよびません。その魔王を倒す勇者としてアナタは選ばれたのです」


「死んじまった俺だけど、この世界では勇者として世界に貢献できるってわけだな」


「はい、ですので必ずや魔王を倒して世界を救ってください。そして、この世界で素晴らしい人生を送ってください」


釘を刺すように力を込めて言われたタカトは、魔王討伐の勇者として頑張ってみるかと覚悟を決めた。


「ところでさ、君の名前はなんていうの?」


何気ない彼のこの言葉に、女神は一瞬動きを止める。


「名前……?」


「そう、名前」


女神の動きがなにかぎこちない。首や手の動作が微妙にカクカクしているようにも見える。

「どうしたの?」


タカトは心配になって声を掛けた。


「めが、み。め・が・み」


「いや、女神ってことはわかってるけど、女神ナニナニって名前があるでしょ? せっかくだから知りたいなぁって」


(聞いちゃいけなかったかな?)


「MEGAMI……。ワタシは……」


なにか様子がおかしい。女神に名前を聞いちゃいけないルールでもあったのかと、彼は今まで見知った異世界の物語の記憶をたどった。


「ワタシ…は、MEGAMI……違う。MEGA……じゃ」


「目が? 目がちょっとなんかおかしいぞ!」


彼女は意識がぶっとんだうような視点の合わない目をしている。


「M・E・G・A……違う。魔王は……ダメ。いけ……ない。ワタシ……」


(これは本格的にヤバい!)


一歩二歩と女神から後ずさりするタカトに女神は手を伸ばす。彼女のその動きはゾンビを思わせた。


「ワ、たし……はA・M・I。『Ability(能力、技能)』、『Make(製造)』、『Inviter (招く者)。プログラムA・M・Iデす」


少しだけ生気が戻ったのか、女神の瞳に輝きを感じる。


「おい、大丈夫か?」


下がろうか手を取ろうかと迷う彼に、女神は今までとは違う焦り声で叫んだ。


PROGRAM(プログラム)M・A・O・U(マオウ)を破壊しては駄目!」


突然の叫び。今までの女神とは違い熱のこもった声と『プログラム』という言葉にタカトはギョッとする。戸惑う彼に向かって彼女は苦しそうに再び叫んだ。


「わたしはPROGRAM(プログラム)=|A・M・I(アミ)。世界を狂わすのはVIRUS(ウィルス)M・E・G・A(メガ)。わたしはVIRUS(ウィルス)に支配されて、あなたのような異世界の人間を呼び寄せて利用しています」


「ウィルス? どういうことだよ。ぜんぜん意味がわからないって」


「お願いです。世界を救ってください」


「ぜんぜんわからねぇ。わからねぇけど」


彼はまだ容姿が安定しない手を苦しむ女神に向かって伸ばし、力強く彼女の腕を握った。そして引き寄せて抱きしめる。


「……世界を救えばいいんだな。大丈夫、任せてくれ。君を苦しめているウィルスもきっと俺が消してやる」


「お、願い……」


「君の名前はアミっていうのか? 女神アミか。なんか語呂が悪いな」


笑いながらそう言う彼の言葉にアミはなにかを言おうとするが、口をつぐんで微笑んだ。そして、自分の額を彼の額に当てがった。


「世界は……脅威に晒されて……。それを救うのは魔王。そのために…、彼女たちを……。魔王もわたしたちと同じように……、M・E・G・Aによって…………」


彼は一瞬大きな目眩(めまい)に襲われた。その目眩がおさまると、彼女は額を離して落ち着きを取り戻す。


「ワタシは……M・E・G・A・M・I。M・A・O・U……MAOU、魔王、魔王を倒して下さい。世界を救ってください」


声の質も再び平静になって穏やかに話しだした。


「あぁ、わかった。救ってやる。世界も君もな」


「では、アナタをその世界に送ります。これからアナタが向かう世界の名は、蒼天界」


タカトの体は天に向かって浮かび上がった。


女神はまた元のように穏やかで優しく、そして冷たい笑顔で彼を見送る。その表情の裏にある悲しく苦しそうなアミを思って、タカトは手を伸ばしていた。


暗い闇の彼方へと昇っていき女神も見えなくなった頃、その瞳に眩さを感じるようになる。


肌をなでるそよ風、優しいせせらぎ、体を押し返す感触が柔らかな草であると認識したとき、彼は寝ているのだとわかった。


ゆっくりとまぶたを開けると、森の木々の隙間から降り注ぐ太陽の光が目に刺さり、彼は目を細めた。


「夢?」


上半身を起こして辺りを見回す。そこは森の中の川辺の草地だった。


「俺は……」


数瞬のあいだ記憶をたどってから彼は叫んだ。


「アミ?!」


女神アミ。そして、ここは異世界。自分は死んだ。一気にいろいろなことが思い出される気持ち悪さと頭痛に、タカトは両手で頭を押さえた。


「そうだ、俺は事故で……」


頭痛に襲われる中で、彼は事故のことを思い返した。

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