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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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ハンターの実力

ふたりの激戦を眺めるサルサは「そういうことか。こいつの妙な強さは」と、ラドルが言った言葉の意味を理解した。そして思う、この男はそうとうに強いと。


サルサがそう思ったとおり、彼の地力は少し前にラドルが戦った異世界人のシンよりも上だった。シンはソウルビットポーションというドーピング剤によって、夜王(やおう)と呼ばれる準魔王級以上の化け物と戦い、重度の疲労とダメージを負っていたラドルと互角以上の戦いをした。


異世界人ハンターである彼も連戦によってかなり疲弊しているため力が出せない。しかし、ここぞという瞬間はその高い地力によって窮地を脱していた。だからラドルが少しずつ力を上げてもなかなか勝負がつかないのだ。


「おい、ハンター。なにか特別なスキルを持っているんだろ? 出し惜しみせずに使っとけ。あとで負けた言い訳にされたらかなわん」


これはもうラドルのお馴染みのセリフだ。


「そうしたいのはやまやまなんだけど、残念ながら俺の異世界転移、いや、呼ばれたから召喚? でも俺は死んだから転生になるのか? でも自分のままだよなぁ。まぁいいや。ともかくこの世界にやってきたときにトラブルがあって、能力の底上げも特別なスキルも貰えてない。だからなーんもねぇんだ」


彼の言葉の通りなら、たまにいるハズレスキルをもらったとのたまい暴れる輩より悲惨な異世界人だ。いや、ハズレスキルを貰った異世界人でもそのスキルを使ってそれなりにいい思いをしている者たちは多い。


だが、ラドルがその言葉を不審に思ったのは『能力の底上げもない』という部分だった。


サルサが唸りながら見守る互角の戦いの均衡は、ラドルが魔法を使ったことで破られた。


「ファイムフレア」


振られた腕から広範囲に広がる炎の波。回避が難しいと判断したハンターは、剣を中断に構えたまま炎を切り裂き突進した。闘気の守りを超えて伝わる炎の威力が着衣と皮膚を焦がすのだが、ハンターは怯まない。魔法を使って残身状態のラドルに特攻した。


ラドルのアームブロックとの鍔迫(つばぜ)り合い。空いているラドルの右腕がハンターの左の頬を殴りつける。体の軸がズレて鍔迫り合いが解かれたところに左のショートアッパーがハンターの体を突きあげて両足を浮かせた。


咬撃(こうげき)……」


両腕を上下に開いて構え、ラドルが叫けぶ。


「デッドリー・タイガーバイト!」


ラドルの大技のひとつ形象魔法闘技。開いた両腕を牙と化し、獰猛(どうもう)牙獣(がじゅう)のオーラを纏ったラドルは、鋭い牙で上下から挟み込む。


()まれたハンターは、肉を裂かれ血しぶきを散らして地に倒れ空を仰いだ。


森の隙間に走る街道で、激しい戦いには似つかわしくない優しい陽光が降り注ぎ、爽やかなそよ風が吹き抜ける。


倒れる異世界人ハンターの向かいで、ラドルは肩から胸にかけて血を流して膝を付いた。


「ラドルさん?!」


デッドリー・タイガーバイトが炸裂したその瞬間、わずかに遅れてハンターが反撃の闘技を放っていたのだった。


「ちくしょう。俺のかっこいい逆転の魔王両断剣が」


その技は以前、異世界人のシンが使った剣聖のスキルだ。


攻撃の衝撃で鞘が割れて抜き身となった剣を支えに、ハンターはふらふらと立ち上がる。


「残念だがオレは魔王じゃない」


「その返しは以前もやりましたよね、ラドルさん」


胸と腹から血を流すハンターは、あばら骨と胸骨が折れているにもかかわらず、なぜか笑みを浮かべている。肉体の損傷の割に出血が少ないのは、ラドルが与えたリンカのポーションの効果が継続しており、表面の傷が治癒されはじめているからだ。


「あんた、さっきスキルは貰えなかったって言ってたじゃないですか。そのセンスのない技名は剣聖のスキルだって、以前ラドルさんが戦った奴が使ってましたよ」


ハンターの嘘に抗議するサルサ。そのサルサにラドルは言い返した。


「違う、こいつが使ったのはスキルじゃない。ただの剣技だ」


「そうそう、かっこいいから見様見真似でね。ってセンスのない技名ってなんだよ。『魔王両断剣』イカスじゃねぇか!」


「なんでしょうね、この人?」


シンとラドルの戦いを超えるハイレベルの戦いだったにもかかわらず、心がひりつくような緊張感がまったく感じられない。この雰囲気は最後に握手を交わして笑い合うという流れでもおかしくないとサルサが思った矢先。


「さて、そろそろ決着を付けるか」


「それなら取って置きを出しちゃうぜ」


高らかに燃え上がる内なる闘気。それはこれまでで一番の力なのだが、それでもサルサはふたりが命のやり取りをしているとはまったく感じていなかった。しかし、この力がぶつかれば……無傷で済むはずがない。今受けているダメージに倍するほどの傷を負う結果を想像していた。


異世界人であるハンターは即死級のダメージに対してクリティカルキャンセラーが働くが、この世界の住人であるラドルはそうはいかない。


「もうやめましょう。この戦いに力比べ以上の意味はありません」


ふたりが致命的な傷を負うことを恐れてサルサは提案するのだが、この言葉が届かないことはわかっているので、後ずさりしつつ距離を開ける。


ラドルは跳躍して大技をぶつける距離を取り、ハンターは鞘が割れてしまった剣を地面に突き刺した。


高まる互いの闘気と魔力。荒れ狂うふたりの力に反して森は静かに騒めき、小鳥はさえずっている。


「いくぜ、俺の元気で勝利を掴む、情熱の……」


左手で右手首を握り、腕を脇に引き絞るハンター。対してラドルは「迅撃……」形象魔法闘技で迎え撃つ構えだ。


「……エフス・リージー!」


「ヴォルド・ウルフェンサー」


今まさに爆発的な加速で突進しようとしたその瞬間。ふたりがぶつかり合うであろうその場所に、突如高速で飛来した何者かが降り立った。


乱入者に気が付いたふたりだったが、もう技は止められない。ハンターは砲弾のように飛び出し、ラドルもパリッという電光を閃かせて稲妻のごとく走り出す。


インパクト時に力を開放しなくとも、ふたりが溜めた力が衝突すれば三人ないし、少なくとも挟まれるその者がどうなるかわからない。衝突まで一秒足らず。衝突点に降り立った者は立ち上がると同時に法名を叫んでいた。


「エアロ・エクスパンション」


瞬時に膨張した空気の壁が必死で傾けたラドルとハンターの体の軸をさらにずらし、ふたりを外へと押しやった。


どうにか衝突を回避し、草地を削り砂煙を上げて制動をかけるラドルとハンター。同時に振り向いたふたりの視線が交錯する場にいたのは女性だった。


「四天王……」


静かにたたずむその長身の女性は、風で乱れる長い髪の隙間からキッとラドルを視認する。


「「「フォウ」」」


掛け声か合図かわからない言葉が重なった時、すでに彼女は体を硬直させたラドルの懐に飛び込んでいた。


鋭い眼光、ラドルを硬直させる威圧、瞬時に間合いを詰める俊敏性、開かれたしなやかで強靭な両腕。四天王という魔王の側近らしき者が、ラドルを狙う。


虚を突かれたこの状態は、戦いにおいては致命的だ。サルサが両手で目を覆う間もなく、四天王の両腕がラドルを捉える。


「ラ~ド~ル~♪」


きつくホールドさせる両腕に包まれながら、ラドルは大きくため息をついた。


「フォウ、急に飛び出してくるんじゃない。危ないだろ」


いつもより少しだけカドの取れた声でそう注意するラドルだが、そんな注意は言うだけ無駄だと思える状況だった。


「お前、四天王と知り合い……ってレベルじゃねぇよなぁ」


ふたりの周りにハートが噴き出す雰囲気が広がっているのを見て、彼はそれ以上なにも言わなかった。

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