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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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ラドル VS 異世界人ハンター

勇者タケルを倒した異世界人ハンターは、息を整えながら歩いて森を抜ける。ポーチから小瓶を取り出して一気に飲み干しひと息ついた。腰に手を当てぐるぐるとほぐすと、その場で振り返って後ろから付いてくるふたりの男に正対した。


「お前は異世界から来た者か?」


これは、街で聞いた通りの質問だった。


「いや、オレたちはこの世界の住人だ」


「そうか、なら気を付けろよ。ここは魔王軍の領地のすぐ近くだ」


そう忠告した彼にラドルはこう突き付けた。


「その魔王を止めるために来たんだ」


「あぁ、ラドルさん!」


横でサルサが慌てふためく。


「魔王に手を出すな」


これも街で聞いた噂と同じ警告だった。


「魔王に興味はないんだが、ランサイズに侵攻されると面倒なんでな。その警告に従うかどうかはおまえ次第だ」


異世界人ハンターはポーチからもう一本の小瓶を取り出して飲み干し「それはどういった次第なんだ?」と言い返す。


あきらかに挑発じみたやりとりに、サルサはこのあと起こるであろうことに身の危険を感じて、ソロリソロリと後ろに引いていった。



   ***



戦いは大きな波などなく二分が経過。


ラドルを前にしてもやはり彼の剣は鞘のままだ。なのにラドルはすべての攻撃を避けていた。その理由は、その剣が抜身であると想定して戦っているからだとサルサは理解している。この戦いを遠巻きに観察しながらサルサは分析していた。


町で噂の彼は、ほんの数分前まで異世界勇者タケルと戦っていたとは思えない動きをしている。戦う前に飲んでいた小瓶はもちろん回復用のポーション。しかしながらポーションの効果は通常遅効性だ。今も少しずつ回復しているが、この激しい戦いならば回復より消耗の方が著しい。


ラドルがどの程度の力で戦っているのかサルサにはわからない。しかし、判別できないほど高次元の戦いであることは分かっていた。


「この野郎、つえーなぁ!」


愚痴っぽく叫ぶ異世界人ハンターは基本に忠実とは言えない剣技と体術が上手くハマり、ラドルの反撃の手数を減らしている。


ときおり繰り出されるラドルの攻撃をヒヤヒヤした表情でよけている様子から、余裕のない全力状態なのだとサルサは思った。


結果、戦いは危なげながらも拮抗していてなかなか決着は付かない。


「今日はなんて日だ! いったい何連戦させやがる」


再び吐き出された愚痴を聞いてラドルは一度距離を取った。


「そういうことか。こいつの妙な強さは」


「どういうことです?」


「それはこいつを倒してから教えてやる」


「ちょ、ちょっと待て。もう一本飲ませろ」


異世界人ハンターは慌てて取り出したポーションを取りこぼし、落ちた小瓶は地面から露出する岩に当たって見事に割れた。


「あーーーーっ! 最後の一本が!」


うつむいた状態から上目づかいでラドルを見る異世界人ハンター。その落胆した顔を見たラドルは溜め息を吐いてから腰のポーチをまさぐった。


「これを飲め」


そう言って取り出したポーションの小瓶を投げて渡した。


「あぁ……」


サルサの悲痛な声の中で小瓶を受け取った彼はラドルに問う。


「毒じゃないよな?」


「飲めばわかる」


「いや、飲んでからじゃ遅いだろ」


邪気の無いラドルのぶっきら棒な表情を確認しながら栓を抜き、クンクンと匂いを嗅いだ彼は、恐る恐るポーションを口にした。すると、その口から飛び出した奇妙な叫び声が森に響いた。


「うぉぉぉぉぉぉ、みなぎるーーっ!」


ラドルが渡したのは即効性のある強力な回復ポーションだ。それは事故によって異世界から転移してきたリンカという少女のスキルで作られたモノ。


「今までの疲れが吹き飛んだぜ。どういうつもりか知らないが敵に塩を送ったことを後悔するなよ」


「全力を出して負けた方が、おまえも後悔しなくて済むだろ」


定番のこの返しに笑う異世界人ハンターは、ラドルに興味を持ち始め、「お前の名前はなんていうんだ?」と名をたずねた。


「ラドルだ」


「なんか主人公っぽいかっこいい名前だな」


「で、おまえの名は?」


名乗ったラドルが聞き返すと「とりあえず街で噂のハンターと呼んでくれ。『ラドル』よりもかっこいい俺の名前は、俺が勝ったあとに教えてやるよ」とニヒルな笑みを浮かべて誤魔化した。


「それを言うなら普通は『俺に勝ったら』でしょ」


横からボソリとつぶやくサルサのあとに、ハンターの笑みを切り裂く鋭い突っ込みをラドルが入れた。


「その条件だと一生おまえの名前は聞けないぜ」

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