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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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事情

「場所を変えて話しませんか? 逃げた三人が援軍を連れてきたら面倒ですし」


考えがまとまらないセイジとジュレだったがここが危険だということで、とりあえず移動することを了承する。ふたりは支え合いながらフラフラと立ち上がった。


「オイラたちが泊っている宿に行きましょう。一度襲われましたからもう来ないと思います」


サルサの提案にセイジは即答できない。それはラドルとサルサをまだ信用していないからだ。


「セイジ、私を目の前にして命を奪わないってことだけで、ふたりは女神側の者ではないわ」


「それって王女様さえいなくなれば組織が残っていても問題ないってことですよね」


サルサはその言い方を聞いて、女神の目的がこの組織を潰すことではなく、あくまでジュレを消すことだと認識した。


「わかった、付いて行こう」


セイジがそう決断したとき。


「あのう……」


小さな声が後ろから聞こえた。


振り向くとそこにはガナード三等兵が気まずそうにして立っていた。


「お前はランサイズ兵。まだ居たのか!」


凄むセイジに腰を引くガナード。そこへサルサが割って入る。


「あぁ彼もとんだ被害者でしたね。こんな任務を命じられたばかりにセイジ君らに巻き込まれて命を落としかけたんですから」


セイジを横目に少し説明じみた言い方で語るサルサ。


「特務隊が言っていましたが『ここにいる者たちはその罪人に手を貸す者、または罪人が持つ国家機密事項を知る者である』ってことで、漏れなく処刑の対象になったわけです。あなたたちの隠れ家を見つけた王族が女神を探るオイラたちごとジュレさんを抹殺するために利用したんでしょう。あなたたちの隠れ家が見つからなければ彼はこんな任務に……」


嘆かわしいと大げさに演技しながらサルサが言うと「そうですね、ごめんなさい」とシュンとなって謝るジュレ。それを見てガナードはおろおろする。


「いえ、決してジュレ王女様のせいでは」


「私はもう王女ではないわ」


「そんな、だって……」


ガナードはどう返してよいのかわからず戸惑ってしまう。


「仕方ありません。とりあえず彼も宿に連れていきましょう。ジュレさんもナイトがひとりでは不安でしょうからね」


セイジに対しての皮肉を含んだ言葉に「なにっ! ジュレの護衛は俺ひとりで……」という言葉尻はすぼんでいった。


「ひとりでなんだ?」


ラドルの問いにセイジはなにも言い返せない。ジュレは苦笑いし、セイジはギリギリと歯噛みする。


「行くぞ」と言ってラドルが歩き出すと、セイジは皆の後ろをしぶしぶ付いていった。


「ジュレ王女様、これを被ってください」


サルサに渡されたフードケープを被ったジュレを囲うようにして歩く者たち。その背を照らしていた照明の魔術が弱々しく明滅して消えると、彼らは闇に溶けこんで消えた。



   ***



宿屋に到着するたサルサは、五人が寝泊まりできる大部屋を改めて取り直した。鍵を受け取り部屋に入いると、セイジは真っ先にソファーに座ってどっしりと深く腰を沈める。


彼はラドルと戦い、特務隊も相手にしたことで体力と精神力をかなり消耗していた。


セイジの隣にジュレが、その向かいにラドルとサルサが座ると、必然的にガナード三等兵は上座のひとり用のソファーに座ることになった。


奇妙な絵面に一瞬の間が空くも、軽い咳払いでその場の空気を整えてサルサが話を切り出した。


「何から話したらいいですかねぇ。いや、何から聞いたらいいですかねぇ」


サルサの言葉などお構いなしにセイジが喋りだした。


「お前たちは何者だ? なんで俺たちの隠れ家にやってきたんだ!」


そこそこ言葉を荒げるセイジにサルサは答える。


「オイラたちはある者を探してこの国にやってきました。そのある者っていうのがこの国にいるという女神なんですが……知っているんですよね?」


小さく体を揺らすジュレとセイジに「……知ってるんですね?」と再度問いなおすのだが、ふたりはサルサをじっと見つめたまま返答はしない。


「街に来て女神について聞き込みをしてたんですけど誰ひとり知っている者はいなくて、女神の『め』の字も出てきませんでした。王城に行ってお偉いさんに女神の件で謁見(えっけん)したいと申請して宿に戻ったら、その夜に暗殺部隊が送り込まれてきました」


「王城からだと確定したのか?」


ラドルが鋭い視線でサルサを見る。


「仲間に宿を張らせていましたからね。逃げていく奴らのあとを付けさせたら城に入っていったと今日の昼間に確認しました」


セイジとジュレはふたりの会話を一言一句逃さぬように真剣に聞いていた。


「そして、今日受け取った申請書に対する返答の手紙に従って、待ち合わせ場所に行ったところでガナード君と会いました。彼が案内した場所があなたたちの居る隠れ家だったわけです」


セイジがきつく(にら)んだためにガナードはソファーの背もたれ深くに身を引いた。


「わ、わたしはふたりをあの場所に案内するように言われただけで、それ以上は何も知りません」


「そうです、何も聞かされていなかったんでしょう。『女神に関することを知る者は死刑』という規則に乗っ取って、最初からまとめて始末される予定だったんですよ」


その説明にガナードは悲しげに下を向いたのは、今回の任務が初めて個人的に言い渡されたモノだったからだ。国のためにその身を尽くそうと意欲に燃えていた彼だったが、三等兵という階級が示す通り、ガナードは本来この国の兵士には無い階級を与えられている。ことから、捨て駒として使われたことは想像に難くないことだった。

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