返り討ち
ラドルの発した威圧にサルサはビクッと体を揺らし、相対する坊主頭の男から距離を取る。ラドルと対峙している長髪の青年は、ラドルのヤル気に反応して溜めていた技を繰り出した。
「雷鳴斬」
高速移動からの高速抜刀。音速とはいかないまでもスキルがもたらすゼロ加速は回避は困難。衝撃力も相まって、下手な防御など通用しない。しかし、その刀が抜刀されることはなかった。
「なっ!」
同時に踏み込んだラドルによって、柄頭を押さえられてしまい、鞘走りさえろくにできずに突進ごと止められたのだ。
「雷鳴? 名前負けしてやいないか?」
ラドルに太ももを蹴りこまれた長髪の青年は、反撃することも退くことも許されずその場に膝を付いた。
「アキラ!」
セイジと戦うレンが青年の名を呼ぶのだが、彼は返事を返せないほどの痛みに襲われていた。本来は異世界人を守るシステム的加護によって攻撃による痛みはわずかな時間で消える。だが、アキラの持つ防御力、耐久力という数値を大きく超える打撃を受けたことで、システム的加護は打ち破られ、彼の本体に『HP』という数値的なダメージではなく、大腿骨の亀裂骨折という本来のダメージを負ってしまった。
「お前、なかなかやるじゃねぇか!」
サルサに距離を置かれた坊主頭の男は笑いながら短剣を地面に刺した。
「乱れ狂え、罪の棘。ギルティーディザスター」
ラドルだけでなくこの場にいるすべての者を納めるほどの広範囲の魔法陣が敷かれた。その魔法陣から赤い棘が吹き出すように生えてくる。
自身の最大魔法である第七位階の広域殲滅魔法【ギルティーディザスター】を行使してニヤケ顔の彼に向かってラドルは言う。
「そういうおまえは大したことないな。ランドブレイク」
強烈な震脚が大地を揺らした。物理的な衝撃でなく魔力的な現象によって大地を揺らした衝撃は、魔法陣が描かれた地面を砕いて棘を巻き込み崩壊していく。当然その上に立つ者たちも地面の崩壊に巻き込まれてしまった。
「ラドルさんやり過ぎです!」
サルサを含め皆は地面に倒れ伏したが、ランドブレイクの対象となった男だけは完全に大地に没してしまい身動きが取れない。
「あいつらはあの時の」
ここでようやくセイジとジュレは、空に打ち上げられた光の魔術によって照らされたラドルとサルサを見て思い出す。今朝、王国兵士に囲まれた際に茶々を入れた通りすがりのふたり組なのだと。
「なんだこいつは?!」
ラドルによって仲間が戦闘不能になったことに驚き、セイジとの戦闘の手を止めているレン。
「おい、おまえ。女神がどうの言っていたな。詳しく話せ」
凄味のあるラドルの言葉に恐怖を覚えたレンは、戦況的にも不利だと察して腰のポーチから何かを取り出して叫んだ。
「逃げるぞ! アクティベイト」
握っている宝石が埋め込まれた箱状の物が光った。その光に包まれたレンの体が浮き上がる。
「帰還の魔道具ですね」
レン同様に戦闘不能のふたりも光に包まれて浮き上がると、何かに引っ張られるかのようにして飛んでいった。
「くそ、逃げやがった」
ラドルを除く四人は全員ひっくり返っており、そのうちのひとり王城の兵士ガナード三等兵は体半分が埋まっていた。
ラドルは彼の腕を掴んでゆっくりと引き上げる。
「怪我はないか?」
ガナードはコクコクと無言でうなずいた。
崩れた足場をひょいひょいと飛んで移動するサルサがラドルのところに到着すると、それをセイジとジュレは怪訝な表情で見ていた。
「そんなに警戒しないでください」
そうサルサが言ったのは、セイジも苦戦する特務隊の三人を苦も無く退けてしまったことで、その強さに脅威を感じているのだとその態度から伝わってきたからだ。
今朝、自分たちに茶々を入れたラドルとサルサに敵意がないことは感じていた。しかし、セイジはラドルとサルサに敵意がないことは感じつつも、万が一敵だった場合に今の自分ではジュレを逃がすことが不可能かもしれないと思い、警戒を解くことはできずにいる。
「お前たちは何者だ」
ジュレを後ろに庇い、近づいてくるラドルたちに向かってセイジは問いかけた。
「人捜しにこの国にやってきた冒険者ってところですかね。たぶんですが、あなたたちの敵ではないと思うんですけど」
サルサから「敵ではない」と言われたことで、セイジは少しだけ安堵の表情を浮かべた。
「おまえたちこそ何者だ? 女神を知っているのか?」
しかし、ラドルの力のこもった声色の質問に、彼らは再び表情を歪ませ言い返した。
「お前たちの目的はなんだ?!」
「質問したのはこっちだ。答えろ」
よりいっそう緊張感を増す中で、セイジの後ろで体を小さくしているジュレが震えた声で答えた。
「私たち、いえ私は女神に命を狙われています。彼は私がこの世界に呼び出した異世界人です。私を守るために戦ってくれています」
「やはりこの国には女神がいるんだな」
ラドルの拳がぐっと握られる。
「このことは国家機密事項です。知った者は重い処罰を受けることになります」
その刑罰は『死刑』と確定していることは、さきほどの特務隊の言葉からあきらかだった。
「おまえたちはそれを知ったから殺されるってわけか」
「それは違うようですよ」
ラドルの解釈をサルサは否定して説明する。
「彼女はこの国の第二王女です。国家機密ってことは国の上層部の一部は知っているってことでしょ? それなら王女様がそれを知ったからって殺されるのはおかしいです」
サルサの説明を聞いたラドルはジュレへ視線を戻したがジュレは返答しない。そんなジュレにラドルは言った。
「俺の目的は女神にきつい仕置きをしてやることだ」
この言葉にセイジは睨んでいた目と口を大きく開く。ジュレは頭に大きな疑問符が浮かんだような表情をしていた。




