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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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特務隊

部屋の明かりは消え、道に転がるガナードのランプが部屋から出てきた者をほんのりと照らす。どうやら若い男らしい。体の線は細くその立ち姿だけでその者が経験不足の見習いなのだと歴戦のラドルは感じ取った。


しかし、少年と思しき者の未熟さに反して、さきほどの魔法の威力は絶大。ラドルが助けなければサルサはともかくガナードは命を落としていた可能性が高い。


突然のこの事態に彼は驚きのあまり呆然として座り込んでいる。


「嗅ぎつけやがったか。国家の犬ども。彼女に手を出すことは俺が許さねぇ!」


そう啖呵を切る少年はみなぎる魔力で魔法を放つ。


「バーストトルネード」


振られた腕から生み出された竜巻は元々視認しづらいうえに暗闇に溶け込みはほぼ見えない。砂や葉を取り込み地面を高速で走り迫るこの魔法の竜巻に対して、ラドルも同じように腕を振った。


「グランドトルネード」


あきらかに規模が大きい竜巻の魔法がバーストトルネードに続いて青年を飲み込み上空へと巻き上げ吹き飛ばす。


「セイジ!」


そのさまを見ていた少女が部屋から飛び出し落下した少年に駆け寄った。小さいうめき声を漏らしながら立ち上がったセイジと呼ばれた少年は、駆け寄ってきた少女の腕を引いて前に出る。


「大丈夫だ」


そう言うにはあまりに苦しげな声だったため、彼女は青年の手をギュッと握った。


「今回は大物の刺客を送り込んできたようだな。ジェットファイヤーアロー」


前方に突き出した手のひらに灯る。瞬間、光が閃き撃ちだされた炎の矢は、ラドルに弾かれて残光が直角の軌跡を描いて夜空に向かて伸びて消えた。


「これならどうだ! エアロスライサー」


「ウォーターブリッド」


「フレイムブレイド」


すべての攻撃を防いで見せたラドルが格上だと判断したセイジは、取って置きの奥の手を使うことを決意して、後ろにかくまう少女に言った。


「ここは俺が食い止める。お前は第二の隠れ家に行け」


突っ走った展開と少年たちの真剣さにサルサは入るタイミングを逃していたが、あまりに深刻なふたりのやり取りに意を決して声をかけた。


「あのう、これはどういう……」


その言葉をかき消す勢いでサルサの後ろから声が響いた。


「見つけたぞ、犯罪者ども!」


その声の主もまた若く、青年と言うより少年に近い。その横には同じくらいの年齢の男がふたり。その手に持つランプが彼らの着る制服を照らす。


「特務隊!」


腰を抜かしているガナードは制服の色とエンブレムを見てそう口にした。


「ジュレ=ピーチラ=ランサイズ。お前は国家……、国家……、なんだっけ?」


勇ましく口上していた少年は言葉を詰まらせ隣にいる仲間に問いかけた。


「国家反逆罪だ」


長髪の仲間が呆れながら小声で教える。


「あっ、そうそう国家反逆罪により死刑が決まっている。お前もだ、セイジ!」


「ランサイズ?」


彼女がランサイズの性を持っていることにサルサは驚く。彼の記憶によればジュレ=ピーチラという名はこの国の第二王女。その彼女が国家反逆罪で追われており、罪状は不明だが刑罰は死刑と決定しているのだ。


「そして、ここにいる者たちはその罪人に手を貸す者、または罪人が持つ国家機密事項を知る者であるため同じく処刑する」


すべてを言い切った特務隊の少年兵は「ふぅー」とひと息吐いて満足気な表情だ。


「登場して早々に無茶苦茶言いますね。だいたいオイラたちは彼女に手を貸す者でも国家機密を知る者でもありません」


「そんなのどうでもいいんだよ。ここにいる奴らは皆殺しだ」


少年兵の左隣にいる坊主頭の男がサルサに言い返した。


暗闇でランプに照らされたその男の表情は、誰が見ても残忍だと形容できる。


「お前ら三人が同時に来るとはな」


セイジの声に色濃い焦りがあるのは、彼らがこれまで何度か戦ったことのある手練れだからだ。


「俺は嫌だったんだけど、今回は絶対に三人で行けっていう命令だから仕方なくだ。三人で来たけど俺ひとりで全員相手してもいいんだぜ」


自信とやる気が表情からにじみ出ている坊主頭は極太の短剣を抜いた。


「これだから殺人狂は嫌なんだよ。人を殺すことになんの抵抗もない異常者の気持ちは俺にはわからん。でも世界をひっくり返すような悪党は放っておけない」


長髪の男も坊主頭に並んで前に出た。


「そういうことでお前たち五人は全員国家反逆罪で死刑だ。覚悟しろ!」


その言葉を聞いた中で一番驚いたのは腰を抜かしているガナード三等兵だった。


「五人って……わ、私も?!」


「全員だ!」


坊主頭の男が動けないガナードに向かって走る。


「まずはひとり!」


笑いながら振り下ろされた短剣だったが、そのギラついた刃はガナードに当たる五センチ前で止められた。


「さすがにそれはないでしょ」


横から滑り込んで短剣を受け止めたのはサルサだ。


これはチャンスだと、ゆっくり後ろに下がるセイジに向かって火炎弾が飛来する。セイジはジュレに覆いかぶさって火炎弾を避けた。


「逃がさないよ」


火炎弾の魔法を放ったのは一番幼い少年だ。


「レンだったか? やっぱりこの前トドメをさしておけばよかったぜ」


これにより、


セイジ VS レン

サルサ VS 坊主頭


の構図となった。


「ラドルさん、ガナード君のことお願いします」


動けない彼をラドルに頼み、サルサは坊主頭の男と対峙する。


サルサ本人は否定するが彼の専技(せんぎ)、異世界人が言うところの職業は暗殺(者)で真っ向から戦うスタイルではない。未知数の強さを持つ坊主頭よりサルサが明確に秀でている点は、暗闇での戦闘に慣れていることだ。


対して坊主頭は人を殺すという点で一般の闘士たちよりも多く経験していた。人を殺すことに躊躇いがない。というよりも、殺したいという欲求を持っている。


「あんたは殺人狂者ですね」


暗殺者 VS 殺人狂者


似て非なる者同士の戦いは静かに開始された。


その隣ではセイジとレンが激しく魔法と剣をぶつけ合いながら戦っている。押されているのはラドルとの戦いで傷を負ったセイジの方だ。おまけにジュレを守りながら戦っているためにどうしても戦い方に制限がかかってしまう。


この現状での両者の善悪を判断しかねているラドルはとりあえず静観していたが、そのラドルに特務隊の最後のひとりが寄ってきた。


「こうなるとおれの相手はあんたってことになるな。おれは人を殺すのは嫌なんだよなぁ。でもそういう指示だから、悪いけど死んでくれ」


長髪の男の言葉にラドルはたいして反応しない。


「あの女が何をしたって言うんだ?」


ラドルがそう質問したとき、セイジと戦うレンが叫んだ。


「女神様の言うことは絶対だ!」


セイジの魔法の盾とレンの剣技がぶつかり衝撃波がラドルの前の男の髪をはためかせた。


次の瞬間にはサルサの戦う相手から紫の光が発せられる。この光は即死級の攻撃を受けたときに自動発動するシステム的ガード【クリティカルキャンセラー】の発動を示す光だ。


「おまえたちは異世界人だな」


ここまで静観していたラドルが空に向けて手をかざした。


「フレアボール・イルミネート」


その手から発せられた光の玉が上空に打ち上がり、辺りを煌々(こうこう)と照らした。

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