手がかり
少し遅めの昼食を食べたふたりは女神についての聞き込みを再会。その流れで王城に向かっていた。
「デート中に失礼」
サルサに声をかけられた男女は、自分たちのこと? といった表情で振り向いた。
「お聞きしたいことがあるのですが」
「なんでしょうか?」
サルサと同じくらいの二十代半ばとおぼしき女性は優しげな声で応えてくれたので、サルサは本題に入った。
「友人から、この国に女神様がいらっしゃると聞いたのですがご存じですか?」
「……女神様、ですか?」
「はい」
「いえ、私は存じませんけど。もし女神様が居たとして、どのような御用が?」
「いえね、オイラは商売を営んでいますので、ひと目そのご尊顔を拝めれば商売の運気が上がるのではないかと」
「女神様にそのようなご利益はないと思いますが……」
「ではどんな女神様なんですか?」
「それは……異世界から勇者を召還して……」
苦笑いの彼女にぶつけたサルサの質問に、戸惑いながら答えるのを見た男性が彼女の腕を取る。
「女神様のおかげで魔王の侵略から人族の世界は護られていることは知っているだろ? もし、女神様に会えるなら、私たちも感謝の言葉を伝えたいよ」
「そうですね。女神様が異世界から呼び寄せた者が、その知識によって見たことも聞いたこともない便利な物を広めてくれていますから。その恩恵にあやかって稼がせてもらったこともありますので。そういう意味で商売の女神様に感謝を伝えられたらなって思うんです」
サルサのこの言い分に隣に立つ男性は呆れ顔。そんな彼は「我々は用事があって先を急ぐので」と掴んでいた彼女の腕を引いて去っていった。
彼らの背を見送るサルサは横目でラドルと視線を合わせて言う。
「なんか知ってそうですね」
サルサが手早くハンドサインを作ると、彼らからは見えない場所で見守っていた者の影が動いた。
「釣れたかどうかわかりませんので、我々はもうしばらく聞き込み調査の真似事を続けましょう」
「もういいんじゃないか? 早く王城に行こうぜ」
「手に入る情報は多いにこしたことはありません。それに一般の、それも他国の者を、用件も伝えず予約もなく王族に取り成してくれるわけないですよ。秘匿情報ならなおさらです」
こうサルサが告げるが、ラドルが足を止めることはなかった。
「虎穴に入らずんばなんとやら。こういうときに使う言葉でしたっけ?」
ラドルに教えてもらった言葉を思い出してサルサはあとを追った。
王城を囲う堀に降ろされた橋を渡り、城門前に先に立っている門番に対して、彼らはこれまでと同じ女神の質問を投げかけた。
「女神? 女神様がこの城に?」
しらけた反応の門番たちの表情を観察していたサルサとラドルには、彼らが嘘を吐いているようには見えなかった。
サルサがダメ元で王族の者に確認してくれと言ってみるも、思った通りそれは叶わず。どうしてもというなら書類を書いて申請し、回答を待てと返された。
返答に数日を要するだろうと念を押されたうえで、サルサは書類に名前、要件、滞在場所を明記して提出した。
「こんなんで王族にお目通りができたら奇跡です」
「お目通りには《・・・・・・》期待していない」
ふたりは引き続き城下街で情報収集をしてから、王城に行く前に予約していた宿に入った。
***
その夜、誰もが寝静まった宿にいくつかの黒い影があった。
その影は闇に紛れる全身黒い服に身を包み、物音ひとつ立てずに扉や窓を開けて侵入する。そして、ある者が泊っている部屋へと向かっていく。
暗雲によって星明りすらない限りなく漆黒に近い闇の中、抑えられていた殺気は尖った刃物の先端にのみ集められて布団を突き刺した。
「いやぁ、予想通り過ぎてビックリです」
暗闇の部屋の隅からの突然の声に侵入者たちは衝撃を受ける。
気配を殺した侵入者たちは相応の実力を持った暗殺部隊。その暗殺者たちを出し抜いて部屋の隅には、いたって普通の服を着たサルサが腕組みして立っていた。
「暗闇で黒い服を着た上で気配を消すなんて一流のやることですよ。オイラほどの者なら自然体でっ」
と皮肉っぽく解説しているサルサにナイフが投げられ解説は中断。同時にサルサのベッドを突き刺した三人が狭い部屋で襲いかかってきた。
「口上くらいさせてください」
軽口を叩くサルサだがそれほど余裕があるわけでわない。しかし、防戦一方ながらも器用に体を動かし、暗闇の中で攻撃をかわし続けていた。
ラドルのベッドを突き刺していた三人がサルサに向かおうとしたとき、そのうちふたりの腕が捕まれて投げ飛ばされた。
投げ飛ばしたのは布団をかぶって寝ていたラドルだった。彼はサルサと違って寝たままナイフを受けていたがまったくの無傷。
三人の攻撃が四人になったサルサはさすがに避けるのが厳しくなり、暗殺者のひとりの腕を取ってもうひとりに投げ飛ばす。わずかに怯んだところで暗殺者の背後に迫り、ナイフを首に押し当てて耳元で質問した。
「誰の差し金ですか?」
その質問をした瞬間、サルサが拘束する仲間に向かってナイフが投げられた。サルサは叩くようにそのナイフをキャッチし、逃れようとする暗殺者を再び拘束。
「仲間の命も大切にしてあげてください。ね?」と拘束する暗殺者に同意を求めると、その手には魔術爆弾が握られ、すでに呪力が発動していた。
「あちゃっ」
素早く奪ったところでラドルに向かってパスをすると、ラドルは勢いよく両手のひらで挟み込む。すると、バチンという小さな音と煙が出ただけで、魔力爆弾は沈黙した。
「いろいろ準備してるんですね」
「おまえより準備している奴はいないだろう……がなっ!」
そう言葉を返すや否や、ラドルが発した威圧に暗殺者たちは震え上がった。それはサルサも同様で、抑えていた者を離してしまう。
「あっ」
暗殺者はドアや窓から飛び出して暗闇に乗じて逃げていく。
「ラドルさん、やり過ぎです」
信頼しているとはいえあまりに強烈な威圧にサルサの本能は耐えられなかったのだ。
「誰の差し金か確認するまでもないとは思いますけどね。とりあえずもうひと眠りしましょう」
そういってサルサは小さな三つの穴が開いてしまった布団を被る。続けてラドルも布団に入り、ふたりは朝までゆっくり眠ったのだった。




