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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
女神イザベラの章
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ランサイズ王国領土にて

獣人王ガルファンの見舞いから三日後。


出発の前日に丸一日降っていた雨は上がり、朝から降り注ぐ太陽の日を浴びて新緑が鮮やかに森を彩っている。


「いいっすよね、こういう日和(ひより)は活力が(みなぎ)ります」


「あぁ、そうだな」


清々しい顔で同意を求めたサルサに、ラドルは沈んだ声で返した。


「暗いなぁ、暗い。気持ちはわからないでもないですが、彼も峠を越えて一命を取り留めたんですから。それにプレゼントも渡したわけでしょ? これからグングン治っていきますよ」


サルサが異世界人リンカに頼んで作ってもらった【オーバーリミットポーション】に分類される超レアな【ソウルエナジーポーション】を、先日ガルファンの見舞いに行った際にラドルは渡してきた。だがなぜか、ラドルはずっとこの調子だった。


重体なうえに霊核まで損傷したガルファンの姿を見て、それをおこなった冒険者トウヤを含めた異世界人に対し、改めて腹を立てていたからだ。


「草も木々も花や実をつける清々しい季節じゃないですか。ラドルさんも好きでしょ? 目的地まではゆっくり自然の恵みを噛みしめながら歩きましょうよ」


荒ぶった気持ちのラドルを気遣ってサルサは明るく振舞いながら歩いていると、その先に十人程度の人が集まっていたのが見えて意識を向ける。


「貴様、何者だ」


鎧を着込んだ兵士とローブを纏った魔法使いか魔術師といった者が誰かに凄んでおり、その向かいには尻もちを付いた女性がいる。しかし、その言葉は女性に向かって言っているのではないく、その後ろの茂みから出てきた若者に対しての言葉だった。


「寄ってたかって女の子を襲うなんて卑劣(ひれつ)な奴らだな」


「セイジ!」


「俺を困らせるなよジュレ。忠告を聞かずにひとりで動くからこんなことになるんだぜ」


「でも、そうしなければ……」


「わかってる。とりあえずは一旦帰ろう。みんなが心配している」


囲う兵士らを前に青年は臆することなく手を引いて立たせ、彼女をさっと抱き上げた。


「そいつの仲間か。ならばいっしょに来てもらう。抵抗するなら怪我をするだけでは済まないぞ。彼女は国家反逆罪の容疑が懸かっているんだ」


兵士の警告に対して青年は鋭い視線を送りつつ笑みを浮かべた。


「てめぇらこそ怪我だけで済むと思っているのか? これが悪しき陰謀だと気付かずに、命令だからと頭を使わず従うだけの兵士ども。彼女に怪我をさせた罪を償わせてやる」


ジュレはセイジの言葉を聞いて首をかしげる。なぜなら、彼女は特に怪我をしていなかったからだ。


「怪我ってこれ?」


セイジに抱かれている彼女は、目の前にある自分の膝が少し擦りむいていることに気が付いた。


「抵抗するか!」


セイジの威勢に気圧されつつも使命をまっとうするために兵士たちは身構えた。


「包囲火炎陣用意!」


前衛は守備隊形に、後衛は魔術の詠唱に入った。炎の陣を形成する魔術でふたりを囲い、逃走と攻撃を封殺するためだ。


それを見たセイジは彼女を抱えたまま魔法を使った。


「フリージング・ヘルズパーク」


踏み出した右足から辺り一帯に白い世界が広がっていく。急激に冷やされた空気は白い霧状になり、その世界に包まれた草木は広範囲において瞬間的に凍り付いた。とうぜん攻撃対象の兵士たちも漏れなく足元から凍り始める。


「は、放て!」


焦り声で攻撃司令を出す隊長に従って魔術士たちは炎の魔術を使った。


「フレア・サークルケージ」


恐らく熟練の魔術士だったのだろう。本来はセイジらを囲うために放つはずだった炎の魔術を自分たちの周りとセイジから広がってくる足場に向けて使い、凍結したこの場を融解させようとする。


その行動に対してセイジは言った。


「無駄だ。てめぇらが使った魔術の位階は第四位階の魔法相当だろう。だが俺が使った魔法は第五位階。その程度の炎じゃ一ミリたりとも解けや……」


そう語っている最中に兵士たちの後方から凄まじい勢いで氷雪が融解していく。


「……しな……い?」


言葉を言い切ったときには凍結した兵士も木々も元に戻っていた。


第六位階の魔法を打ち破ったのはもちろん兵士ではない。氷は融解したが、セイジも含めてその場に居る者は固まっていた。


「なにやってるんですかー。森の木々を凍らせるなんて」


「そこまでする相手か? 考えて行動しろ。燃え散らすぞ」


「燃え散らすは冗談です。この人ちょっと虫の居所が悪いだけなんで」


いざこざの後方を通りかかったラドルが第二位階の『ウォーム・ストリーム』という熱波魔法で相殺したのだった。


「ともかく自然は大切にしてくださいよ。せっかくの素晴らしい緑の景観が台無しになるところでした」


サルサの訴えにセイジは、「……はい」と小さく答えた。


そして、ゆっくりと歩き去るふたりにをセイジらと兵士たちは呆然と見送った。


   ***


妙ないざこざの現場から歩くこと二十分。ふたりはランサイズ王国城下街に入ってひとつの噂を耳にしていた。


「異世界人ハンター?」


「そうそう、この世界に呼ばれる異世界人を狙う奴がいるって噂だ。俺は見たことなけど何人か異世界から呼ばれた奴が怪我して運ばれているのを見たことがあるって」


サルサはラドルの顔を見て小声で耳打ちした。


「ラドルさん、こんなところまで遠征してたんですか?」


「するかっ」


当然だがそれはラドルのことではなかった。


よくよく聞いてみるとその者は出会った冒険者に対して「お前は異世界から来た者か?」と質問してくるという。そして、魔王を狙う者でなければ注意を促し、魔王を狙う者であれば「魔王に手を出すな」と警告し、従わなければ力ずくで追い払う。魔王を守護する者だが無法者ではないようだ。


それが証拠に異世界人ハンターと呼ばれる者は魔王軍を含め、野生獣や野党から街の人を助けているという。


「異世界人ハンター。ラドルさんと違って魔王を狙う異世界人だけをハントしている者ですね」


「一緒にするな、俺はハンターじゃねぇ。確かに異世界人は好かないが、本当に嫌いなのは異世界人を呼び寄せる女神だ」


その女神がこの国に居る。獣人王ガルファンの部下が得た情報に従って、遠路はるばるやってきたランサイズ王国だが、城下街に入ると妙にピリピリとした雰囲気を漂わせていた。その雰囲気の理由はすぐに判明する。それは最近魔王軍の攻撃を受けたからだった。


魔王がこの国付近に現れてから約一年。神の信託を受けるという聖女が居た神殿を魔王が襲ったことまではラドルの耳に入っていたが、その後は大きな動きをせずに沈黙を保っていたらしい。


魔王を狙う冒険者を撃退することはあっても、どこかに攻め入るようなことはなかったというのがサルサの持っている情報だった。


その魔王がほんの半月前に突如ランサイズ王国に進軍したというのだ。


「冒険者や軍がちょっかい出したから腹を立てたんじゃないのか?」


基本的にラドルは他の国のことにかんして干渉しない。話によれば魔王を狙う異世界人はハンターに返り討ちにあっているようなので、このときラドルはさほど興味を示さなかった。


なぜ魔王が突然侵略を開始したのかは不明だが、大事になる前にさっさと女神と探し出してお仕置きしておこうと城下で聞き込みをした。だが、誰ひとりとして女神について知っている者はいなかった。別行動をしていたサルサがこの国にいる仲間の情報網を使っても、女神の『め』の字も出てこない。


「ガセネタかもしくは相当な秘匿情報か」


「獣人たちが仕入れた情報ですからね。そんなこともありますよ。オイラの情報網にもかすらないんですから。だいたい城下の住人が誰も知らない国の秘匿情報を、どうやって魔王軍の奴らが手に入れられるっていうんです?」


そう語るサルサをラドルはひと睨み。その視線を受けてサルサは口を閉じた。


「おまえの言うことももっともだが、とりあえず王城に行ってみる」


午後の日差しが弱くなってきた城下町には不穏な雲が覆い始めていた。それがまるで今後の展開を示唆(しさ)するように太陽の光をさえぎっていく。

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