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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
仕置きの章
44/91

決着

ゴホッゴホッ


咳と共に血を吐き出すシンは、命を代行するHPを削り取られたことで、その肉体に激しいダメージを受けていた。


倒れるシンの視界からは、わずかに残っていたソウルビットポーションのゲージが消え失せる。そして、力を使い果たした反動が一時的にシステムの加護をも止めてしまった。


「ぐぅっ、うわぁぁぁぁぁ」


体に受けた傷と限界を超えた力の反動が襲う。悶え苦しむ今のシンは、この世界の一般人をも下回る存在になっていた。


ラドルは息を切らしながらも、まだまだやれるといった気概を見せつつシンを見下ろし、戦いながら考えていた疑問を投げかけた。


「おい、聞かせろ。なんでおまえは仲間から奪った多くのスキルを使わなかった」


殺されることを覚悟していたシンは、ラドルの不意の問いかけに言葉を詰まらせる。


「……そんなことか。奴らのスキルの大半は手に入れてみればどれもこれもたいして使わねぇもんばかりだったんだよ。俺が欲しかったのは力。最前線で奴らの上に立って敵をなぎ倒せる力だ」


これは彼の気質だ。ラドルは思う、元の世界でのシンの立ち位置、または望んでいた立ち位置がそうであったのだろうと。


「おまえ、仲間に嫌われていただろ」


「なんだと?」


「仲間とも思っていなかったか? その輪の中での振る舞いを思い返してみろ。おまえの立場はどんなものだ?」


ラドルの言うとおりシンは家庭の裕福さと容姿と腕力と学力によってクラスの中心人物となっており、周りの者たちを見下していた。


「それがこの世界に来たことでその立場が崩れたんだろ? ここで強い力を得た者がおまえを蔑むのは当然だ。おまえが周りの奴らにやってきたことなんだからわかるはずだ」


言い返さないシンにラドルは追い打ちをかける。


「オレが万全だったらおまえは指一本触れることもできずに地面を舐めていただろうぜ。そんなオレよりも強い奴がこの世界にはいる。そいつらから見れば、異世界人なんて誰も彼も足元に這いずる虫と同じだ。おまえらの世界では『ドングリの背比べ』って言うんだったか?」


「だから力を奪い強くなるんだよ」


ラドルの言うことを理解していないことに溜め息が漏れた。


「おまえが力を奪うつもりだったトウヤって異世界人は、おまえに近い実力を持っていたがそんな力を手に入れたところで無駄なことだ」


「なんだ。俺がそいつを殺さないように釘をさしているのか?」


「それもある。それもあるが……、もしかしたら、あいつは今のおまえよりも強くなっているかもしれん」


ラドルとの戦いの最後に見せたトウヤの行動が本物ならば、今までにない強さを手に入れているかもしれないと思っていた。


「ヘタに手を出したら殺されるぞ」


「俺が殺されるだと?!」


シンは力の入らない手で拳を握る。


「あいつは手加減がヘタクソだ。殺す気がなく殺してしまうんだよ」


「それでお前は俺を殺すのか?」


すべての力を使い果たして投げやりになっているシンの問いに、ラドルは首を横に振る。


「一度だけ生きるチャンスをやる。おまえが今後さらに力を付けて、無駄に戦いを挑むなら、次はちゃんと殺してやる。だが、もし反省するのなら、仲間から奪ったスキルも総動員して魔王を倒すなり、人の迷惑にならない辺境でスローライフとかいうのを送るなり、好きなように生きればいい。どちらを選んでも必ず罪悪感に押し潰されることになる。そうなったらそれは自力で乗り越えろ」


「なるわけねぇ!」


「いや、なる。おまえは異世界人だけが受けられる加護のおかげで強い精神耐性を得ているだけだ。以前会った異世界人はその耐性が他の者たちよりも弱かった。だからこの世界の悪しき亜人を殺したそいつは、それだけで数日は恐怖で布団から出られなくなっていた。そいつにとって命を奪うということはそれほど超えてはならない一線だったんだろうな」


その者は、異世界に来てからもタガが外れることなく自身の世界の常識に囚われていた。それは彼がブレイブシステムプログラムの一部の機能である【ストロングマインド】への親和性が低く、精神的な耐性があまり高くなかったからだ。精神の耐性はすぐに限界を超え、超えた途端にそれまでの負担が心を襲ったと、彼はその当時ラドルに語ったことがあった。


「その後も、この世界の者の命を奪う機会が何度かあり、最後には同じ世界から来た者をその手で殺さなくてはならなくなった。そいつは臆病だったが、どうしても逃れられない場面では心を鬼にして戦っていたよ。そして、そのあとは必ず心を痛めて寝込んでいたな」


ラドルは心に深くしまっていた過去を思い出して語った。


「けっ、チキンだな」


「おまえはおまえの世界で人を殺せるのか? 殺せないんだろ? そいつは言っていた。法律だとか、生まれてから身に付けた常識だとか、人の良識や善性がそれをさせないと。殺したあとの自分の立場や殺した相手と、その家族のことなんかを考えるんだと。この世界に来たことで、そういった考えや感情を覆い隠し、支えるような力が働いていると言っていた」


それは、ラドルの旧友がシステムの加護への親和性が低かったからこそ感じられたことだった。


「おまえたち異世界人は心のどこかで『ここは現実じゃない』と考えているんだろ? これまで会った奴らがそんなことを言っていた」


シンもここが現実だと思っていない者のひとりだ。魔法だの魔獣だのというのは空想の世界のモノ。この世界もこの世界の住人のことも軽んじており、いつか覚める夢かゲームかなにかであり、なにをやっても問題ない。そう考えていた。


「おまえの強さは錯覚だが、おまえのやってきたことは現実だぜ。誰が相手かは問題じゃない。理由も関係ない。おまえはただの人殺しだ」


シンの目から涙が流れた。


「おまえが奪った命はもう戻らない。今の話を聞いてどう思い、どう生きていくかは知らんが、それは行動で示せ。目に余るようならオレが止めてやる。息の根と共にな」


ラドルはそこまで言うとすすり泣く彼を置いて、倒れるサルサとリンカのもとに向かって歩く。その背後で泣くシンの声が大きくなると「泣き止んだら病院行けよ」と言葉を付け加えた。


「おい、生きてるか?」


酷い怪我をしているふたりに声をかけるがリンカの返事はない。


「早く彼女のポーチからポーションを出して下さい」


「わかってる」


ラドルはポーチをまさぐってポーションを取り出すと、それをふたりの傷口にかけて残ったわずかな液体を自分の口に垂らす。ふたりの傷はどんどん塞がっていき数分もあれば完全に治ってしまいそうな勢いだった。


「いやぁひどい目に会いました。あいつが異世界人じゃなかったら勝てたんですけどね」


「寝首を掻くような方法じゃ倒せない奴もいる。もう少し鍛えろ」


「いや、オイラはしがない情報屋ですので。ラドルさんがもっと早く来てくれればこんなことにはならなかったんですよ」


遅れて来たラドルを責め、自分の非が無いことを主張するが、それに対してラドルはこう返した。


「そうだな、デンジラを気にせず駆けつけていればオレもこんな痛い思いをせずに済んだし、女も無傷で助けられただろうよ。おまえの命と引き換えにな」


サルサは夜王デンジラがラドルでなく自分を追いかけてきていたことを思い出した。


「あはははは、ともかく無事でなにより。これにて一件落着ですね」


「無事じゃねぇよ。それにまだ落着してない。おまえの依頼の件、村の呪いの調査がな」


サルサは渋い顔で気を失っているリンカを見た。

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