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異世界召喚を憂う者  作者: 金のゆでたまご
仕置きの章
43/91

赤き双眸の闘士

この世界に召喚された者が与えられるのは、システムの加護による能力の向上と生命保護。そして、スキルの恩恵だ。


シンはそれらの優位性を利用し、強引な戦い方でラドルを追い詰めていた。


夜王デンジラとの激戦のダメージで本領を発揮できていないラドルではあったが、信じがたい耐久力と戦闘技術で敗北に抗っている。しかし、とうとうこの戦いの天秤が大きく傾いた。


頭部への相討ちで吹き飛び、たたらを踏むふたり。ラドルは強引に体を前へ振って耐え、魔力を高めて法名を叫んだ。


「ナパームストリーム」


突き出したラドルの両手に灯る炎を見たシンも両拳を握って構えを取る。


螺旋衝烈拳(らせんしょうれつけん)!」


拳から闘気の渦を撃ち出しす拳聖のスキルが発動した。


闘気の拳は火炎魔法を巻き込んでラドルへ叩き返して殴り飛ばす。


それでも倒れずに踏みとどまったラドルだったが、自ら放った火炎魔法に焼かれていた。


「ラドルさーん!」


サルサの枯れた声は風を切る渦と燃え上がる炎に阻まれて届かない。焼かれるラドルは二度、三度と腕を振って炎を消そうとするのだが、力尽きたようにその場に膝を付いた。


「勝った」


シンは勝利を確信して腰の横でガッツポーズをキメて言葉にする。


「あぁ、ラドルさんが」


その声は震えている。震えているのは声だけではなく、彼に伸ばすその手も震えていた。


サルサは最大限に出し得る声に気を乗せて再び叫んだ。


「ダメだっ、ラドルさーーーーーん!」


その声が届いたのかラドルは両腕を勢いよく開く。そこから発する衝撃によって彼を包んでいた炎は外に広がって消えた。


「ダメだ……ダメだ……」


炎をかき消し生存していることを確認したサルサだが、彼が持つ不安や恐怖はまだ収まらない。いまだ顔を引きつらせ硬直していた。


「焼け残ったか。だがもう燃えカスも同然だな」


シンの言葉とニヤケた笑みに、ラドルは言い返した。


「燃えカスになった方が強いかもしれないぜ」


火炎魔法の残り火と月明りに照らされたラドルがゆっくりと立ち上がる姿を見てサルサはこう言った。


「良かった……、紋様は浮かんでない」


立ちあがったラドルの皮膚は浅黒い。このラドルの変化が恐れていたことと違ったため、サルサは緊張を解き地面に頬を付けた。


焼け残ったラドルにトドメを刺そうとしたシンだったが、ラドルは逆にシンに詰め寄った。


虚を突かれたシン。そのシンに打ち込んだ拳は到底燃えカスとは言えないような重さをしており、ガードしたシンの表情を歪ませる。


「衰えていない?!」


それどころかさっきよりも力強い攻撃にシンは驚いて再びソウルビットポーションの効果時間を確認する。


サルサがずっと心配していた戦いの行く末(・・・・・・)とは、ラドルの変化によってシンの命が奪われてしまうのではないかということだったのだ。


ラドルの肌が褐色に変化したのは彼の中の魔族の血によるモノ。人族の力が大きく損耗したことで魔族の力が前面に現れた証拠だ。この現象は月明りのない闇夜でデンジラと戦ったときにも起こっていた。


だがシンはそんなことに気付いてはいない。それよりもシンを睨む赤く光る双眸に脅威を感じていた。


文字通り燃え尽きる寸前だと思われたラドル力はを衰えるどころか増している。


「なんだ、その力は?!」


ラドルはさきほどまで劣勢だった打撃戦の戦況をひっくり返した。


ガンガン前へと押してくるラドルに対して、どうにも対応できなくなったシンは一度大きく距離を取った。


「避ければ今度こそ仲間もリンも砕けるぞ!」


そう念を押して力を練り上げるシンに対し、ラドルは両腕を上下に広げて後ろ体重で低く構えた。


「そんなボロボロの体でなにをしても無駄だ! 奥義、激龍烈破(げきりゅうれっぱ)


それは拳聖のスキルが持つ形象闘技。闘気が荒ぶる龍を形象し、それを纏ったシンは地を蹴りラドルに突進する。


咬撃(こうげき)……、デッドリー・タイガーバイト」


迎え撃つラドルが使ったのは形象魔法闘技。形象された獣と重なり上下に開かれた腕が牙獣の顎と化した。


龍と虎が闘気の帯を引いて突進し、その激突によって光と衝撃を撒き散らす。


シンの拳がラドルの胸を打ち、ラドルの腕がシンの体を上下から引き裂くと、互いの力は瞬時に弾けて爆発する。


多大なダメージを追うふたりだが、歯を喰いしばってその場に踏み止まっていた。


「俺の奥義と互角だと?!」


「俺の奥義? 盗人がよく言うぜ」


最強の奥義を最大の力で繰り出したにもかかわらず、目の前に立つラドルの闘志はまったく衰えない。それどころか、この現状で自分をディスる発言に、まだまだ余力があるのではないかと焦りを覚える。


ラドルを睨むシンの視界の外周が赤く染まり、命を代行するHPが大きく損耗していることを知らせる。この現象も相まって、彼の心に『死』という敗北の戦慄が駆け抜けたそのとき。


『秘めた力に覚醒しました。ボイスキーは【ソウル・アブレイズ】です』


視界の端のゲージが点滅してメッセージが表示される。どういったことなのかをシステムが瞬時に脳に伝え、それを理解したシンは勝利を確信して笑みを浮かべた。


「ソウル・アブレイズ」


ソウルビットポーションによるバフゲージがグングン減り始めたのと同時に力が溢れ、引き裂かれた傷はみるみる塞がっていく。


その現象を見たラドルは動じることなく開いていた両手を握り込み、その力に見合った血管が両腕に浮き上がる。


ラドルとシンは、最後になるであろう攻防のために大きく息を吸い込んで、渾身の力で地を蹴った。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


シンが叫ぶ。


「うぉりゃぁぁぁぁ!」


ラドルが吼える。


ふたりは吐き出した息と共に攻撃を繰り出した。


取り込んだ魂の欠片を一気に燃焼させることで限界を超えた力を発揮させるシンの新たなスキルは、燃え尽きる寸前のロウソクのようにシンの体を激しく輝かせている。


これは、異世界召喚された東条 真(とうじょう まこと)という主人公の物語。ブレイブワールドプログラムは、この物語を勝利という結末へと導くために奇跡を与えた。その現象に勝利を確信したシンは、与えられた奇跡が自分の底力だと信じて疑わず、溢れる力をラドルにぶつける。


しかし、ラドルが長い年月の修練により培った力は、そんなシステムが作り出した奇跡に打ち勝つために積み上げてきたモノだ。


与えられた奇跡の力に真っ向から立ち向かうラドルの地力は、シンが魂の力を使い切る前に彼を殴り倒した。

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